マリア・フォン・ゴルディナー大勝利! 希望の未来へレディー・ゴー!!! 4
それから三回に渡り、似たような戦闘があった。結果はいずれも快勝。こちらは小破が数機に、敵の主砲から身を挺して庇った一機が中破したくらいで、殆ど消耗していないと言っていいだろう。
どうやらマヌケがいるようだな。何回来ても無駄だってことが分からんのかねー。とはいっても、乙女ゲームには偶にあることなのだ。敵役が凄まじいマヌケであることが。いったいどんな奴だろうな。その顔を拝んでみたいもんだぜ。
「今回も余裕だったようですわね」
『…………』
通信機の向こう、リギアは無言だった。さらにこちらへの返答は寄越さず、
『レオニス、ヴァイト。どう見る?』
『……やられましたね。多分だけど、時間稼ぎっすよこれ。ヴァイトと、それに親父の見解も同じです』
あ、艦橋で見たときはモニターに映ってなかったけど、レオニスの親父、元騎士団も乗っていたらしい。まぁ考えてみれば当然だ。彼はレオニスに椅子を譲った後、『騎士団長補佐』として新しく椅子を作って、そこに座っている。同乗していても何もおかしくはない。モニターに出てこなかったのは、既に己を裏方だと定義しているからだろう。
『同感だな。ル・ペイジヴォントの王都に着く前に、敵は本陣を構えていることは間違いないだろう』
《感想:どうやら間抜けは見つかったようですね。鏡ならバッグの中に入っています》
う、うっせえわ! 俺だって時間稼ぎされてるって分かってたし!? 言わなかっただけだし!?
『マリアからの報告に遭った通り、やはり敵は七の稲光の推移を調べていたらしい』
……俺、そんなこと報告してたっけ?
《返答:ほら、グレイとミス・ターニャのデートを尾行していた時の話ですよ。演劇の際に様子がおかしい客がいるのを見て、報告していたじゃないですか》
あー、あったね~そういやそんなこと。
そう言えば、あの時に助けてくれたニオスだけこの場にいないな。主要な登場人物は大体出てるのに。というのも、ニオスは聖職者。夏休みなので聖地であるコティン=カミィンに行っているからだ。おそらく、まだ戻ってきてはいないだろう。
まぁ、仮に帰国していたとしても、今回の戦いは国家間戦争だ。聖職者のあいつが同行することは難しい。
―――その割に、あの時はグリプス側として出てきたりしましたわよね。
あれはまぁ、俺がスパイとして潜り込ませたからって部分もある。さすがに今回も敵として出てきたりはしないだろう。
……出てこないよね?
『最大望遠にて敵艦群を視認! 距離3500!』
装甲しているうちに、リーファの声で報告が入った。どうやら、おかわりが来たらしい。そろそろ本命か?
「リーファさん、数はわかりますか?」
『艦の影に隠れているんで、正確には分からないけど、……見える範囲だと22隻!』
「この数だと本命っぽいですわね……。って22ぃ!?」
多過ぎんだろ! こっちの3倍以上いるぞ! そんな国力あるわけねーだろ!? ル・ペイジヴォントとこの世界での名前は忘れたけどスペインに当たる国の分でも合わせねーとそんな数にはならねえぞ!?
―――……それこそ、隣国の分を合わせているのでは?
…………あっ。なるほどなぁ。
いやなるほどなじゃないが。
「数が多過ぎますわね……。接近する前に砲戦で減らせればいいのですが」
『それは無理だな。騎乗士ならともかく、艦については性能差は殆どない。撃ち合いになったら数が少ないこちらが不利だ。……隊長!』
『分かっている! 総員、これより敵艦隊との戦闘に突入する。戦闘態勢に移行! ……嬢ちゃん! 背中はどうする!?』
む、そうだな。フロントにはリギアがいるし、エミリアが抜けている今、遊撃が不足しているし、
「追撃のを使わせてもらいますわ」
『了解だ。壱式獅子は2機とも砲撃を装備! 砲戦での援護と艦の盾になることに徹しろ!』
『リギア・リントヴルム。不知恐怖、先に出るぞ!』
『あ、ヴィネリア・ロンゴミニアドと、えーと』
『及びアリス・ゴルディナー・アレス、始硬剣・束で発艦します!』
リギアとリア&アリスが、一足早く出撃した。二機続けて、目の前を通過していく。
二人を見送りながら、俺の乗る薔薇獅子は足場ごと移動。二人が出ていった発進口側ではなく、その方向を向いたまま後ろ側に移動していく。横への移動が止まると、今度はエレベーターで縦方向への移動だ。カタツムリに似た形の傲慢雪鷺の、殻の中へと進んでいく。
『カタパルトデッキ、所定位置への到達を確認!』
「セミ・換装式全装甲機構・コール、イェーガー!」
機体の左右に見える、大きく『N』と書かれた換装コンテナが、殻の回転によって見えなくなっていく。続けて見える『S』の文字が書かれた換装コンテナは止まらず、次に現れた『J』が止まった。
本来であれば、『N』の時にノーマル状態のアーマーを取り外し、シュナイダーの『S』、イェーガーの『J』、パンツァーの場合は『P』と書かれたコンテナが開き、中に搭載された装甲を大量のアームで高速で取り付ける。あ、ちなみに『N』はノーマルのNではなく、『裸』のNだ。
薔薇獅子の場合は、その換装システムに対応していない。だから必要なのは横ではなく、真上のコンテナ。背面に取り付けるスラスターユニットが収納されている換装コンテナだ。
やはり『J』と書かれたコンテナが中央から上下方向に割れ、中からは青いスラスターユニットが下りてくる。
軽い衝撃と共に取り付けられ、モニターを見れば、『CONNECTED』の文字が赤く点滅した。
『セミ・RAS、コンプリーテッド! 薔薇獅子、発進、どうぞ!』
「マリア・フォン・ゴルディナー、薔薇獅子・追撃、出ますわよ!!」
カタツムリの背中とでもいえばいいだろうか。艦の中ではなく、甲板型カタパルトを使い、薔薇獅子は発艦した。
周囲を見渡せば、俺と同じように甲板から多数の壱式獅子が出撃している姿が見える。
―――……全部黒いので、遠目だと、どれがどの装甲を付けておられるのか全然分かりませんわね。
レーダーもマリウス・ジェネレーターを拾ってるだけだから、機体番号とかが表示されるわけじゃねーしな。正直、俺も判断がつかん。
前方を見れば、ル・ペイジヴォント側も艦載機を発艦させているところだった。うんうん、敵側も黒い機体ばかりで今更気付いたんだが、
「遠目だと誤射しそうですわね……」
『狙撃の際には、レーダーでの事前確認が必須ですね』
青い機体、零式獅子・追撃が近付きながら、話しかけてくる。
「グレイ様ですか」
『お久しぶりです、マリア様。おそらく混戦になるので、ミサイルは全て接近しきる前に打ち切る作戦です。搭載しているなら合わせて一斉射をお願いします』
今回、ミサイルコンテナは未搭載だ。
『全機前進。砲撃を前に出して進め。ミサイルの一斉射後、隊列を入れ替えろ!』
『殿下たちは例の連中が来るまで、後方で待機をお願いします』
レオニスの指示が通信越しに聞こえ、グレイの声を機体のマイクが拾った。
砲撃タイプは足が遅い。じわりじわりと時間が過ぎ、
『ミサイル、撃てー!!!』
レオニスの号令直後、前を進む黒の隊列が排気煙で白く染まった。
「……うん?」
何だろう、敵もミサイルのようなものを大量に打ち出した。だがそれはこちらではなく、わずかに斜め下に向けて発射されていた。
そして、こちらが放ったミサイルの多くが、敵の投射物を追って逸れていく。
《報告:フレアですね。我々の使用しているミサイルが、高熱源体に向かって進んでいくのを知っていたのでしょう》
何だろう、フレア使うのやめてもらっていいですか。メタ装備を使うのは心が汚いぞ! つーかこれまでンなもん使ってきたことなかっただろうが!?
『チッ! 艦隊は前進やめ! 砲撃隊、味方機が接敵するまで砲撃し続けろ! 剣撃、追撃各機は前進せよ!!』
レオニスの指示通り、敵陣に向かって盾を構えながら直進する一団と、長距離射撃で牽制しつつ外へと広がる機体たちが見える。
かくして、どっちも黒くて絵が映えないにも程がある戦端が開かれた。……いや、マジで区別つかねーなこれ。俺が演出ならキレて設計班に怒鳴り込みに行くレベルで。
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始まって早々に、膠着状態に陥った。味方機、壱式獅子1機に対し、敵は10機前後で相手をしている。搭載数を考えればもう少しマシな割合になるはずなのだが、役割的に、剣撃に換装した1/3が敵陣に突っ込んだせいだ。
とはいえ、数の暴力に対して拮抗出来ているというのは流石の性能と言えるが、
「……いえ、ジリ貧ですわね」
『偽物』が介入してきたら、この膠着は一瞬で崩れる。つーかさすがに数の差があり過ぎるので、ざっくり減らしておきたい。当初の予定では、俺たちは消耗を避けるため、本命が出るまでは後方で待機という話だったが、この状況では、余裕のある味方機を増やして援護してもらった方が楽になりそうだ。
というわけで、通信スイッチをオン! チャンネルはリントヴルム陣営だけに通じるものに設定。もっとも、この通信機能はマリウス・ジェネレーターに搭載されている機能なので、ステルス仕様を使えているル・ペイジヴォントには盗聴機能も追加されている可能性があるのだが、そこまで考え始めると内緒話も出来なくなっちまう。「ル・ペイジヴォントの王様の耳はロバの耳ー!」って叫んで、敵陣が動揺した動きを見せたら大当たりだが、さすがに空気を読んでやめておこう。
「はぁい皆さまご清聴ー! あ、戦闘態勢はそのまま維持で。マリア・フォン・ゴルディナーでございます。ちょっと敵の数が多過ぎるので、段取りとは違いますが、これより一発、援護射撃を行いますわ!」
『ハァ!? ま、待てマリア!』
『分かりました! お付き合いします!』
『まーしょうがないっスねー』
リギアの困惑やアリスとリアの同意を聞きながらも機体を前へと進めさせれば、遅れて白とトリコロールの2機も追随してきた。
そして、敵味方の区別がつきにくいのなら、味方だけに避けてもらえば話が早い。
「味方の弾に当たりに行くマヌケとドMとアンラッキー野郎はこの戦場にはおりませんわよね!!」
言うだけ言って、手に持つ赤の大槍をしっかりと握る。
「お嬢様の我儘Ⅱ、ハイパーバーストモード」
円錐状の槍が先端部から十字に分かたれ、内部に収納されていた巨大な砲門がせり出てくる。
《報告:ビーム重粒子、充填完了まで推定21秒》
「20秒後に撃ちますわよー。退避する準備を急ぎなさいましー!」
発射位置についた。敵味方の区別は先ほどよりは多少マシとはいえ、相変わらず付きにくい。だが、敵艦隊側に大きく下がる機体も見当たらなかった。盗聴はされていないと考えていいだろう。
「発射5秒前ー! 3、2、1」
《報告:ビーム重粒子充填率、101.2%。発射可能です》
「発射ァー!!!」
馬鹿デカい、それこそ戦艦の主砲のような極太ビームが放たれた。そして、ビームを出し続けるまま、薙ぎ払う。ついでに外部スピーカーのスイッチオン!
『オーホホホホホ! 汚物は消毒ですわぁー!!!』
やっぱこのセリフは言っておかんとなぁ!
ビーム斉射完了。我儘Ⅱがバッシューッ! と猛烈な勢いで排気しながら元の形状に戻る。この武器は以前に戦艦落としに手間取った反省から、遠中近距離の全レンジに対応できるように設計されたものだ。近接戦闘ではそのまま槍として、中距離では表面部に埋め込まれている4門のビームガンを、そして遠距離では先ほど使った内臓式の大出力ビームランチャーを用いる。
欠点として、ビームランチャーを最大出力で発射すると、しばらくは表面にプラズマも纏えないし、ビームガンも使えないし、ランチャーだってもちろん使えない。デカくて邪魔なデッドウェイトにしかならなくなってしまうのだが、こればかりは仕方がない。
さてさてドライコイン、釣果はどうかな?
《報告:敵機影、約3割が消失。味方機は小破4》
―――前に出ていた方たち、剣撃は10機出ておられるようでしたから、その4割が巻き込まれておりますわね……。
ま、まぁ小破だし、敵の3割は落とせたみたいだし、これでかなり楽になっただろ。
あっ、し、しまった……! 俺としたことが、とんでもないミスをしてしまった!! くっ、どうして気付いていなかったんだこんな基本的なこと!!
―――い、一体何事ですの!?
薔薇獅子にトゲトゲの肩パッド付けとくべきだったぁー!!!
―――…………は?
《感想:ミス・マリア。そろそろ慣れましょう。マスターはたまたま人の言葉に聞こえる鳴き声を叫んでいるだけのサルだということに》
《報告:あ、それとついでに伝えておきますが、先ほど中破3になりました》
おん?
『センパイ! センパイ! 出たっス出たっス出たっス!!』
宿便が? さすがに便秘解消したのを報告してくるのはどうかと思うぞ。
―――んなわけないでしょ!?
『始硬剣の偽物が出たっスよぉー!!!』




