敵は公爵令嬢にあり?・改 6
回転式武装腕部機構ゥゥゥ~~~!!!
略してRAS。俺が発案した、原作ゲーム『騎乗士の胸で抱きしめて』にも出てこない新システムだ。
簡単に言えば、武装が内蔵されたコンテナを、1つの前腕部に4つ取り付けるという構造だ。さらに戦闘時の取り回しやコンテナの交換作業を考慮し、リボルバー拳銃の薬莢室のようにコンテナの位置を移動することが出来る。
コンテナは装甲としての役割に加え、腕部の強度補強材としての役割も持つ。回転機構を組み込むせいで、腕の強度を犠牲にせざるを得ないからだ。
じゃあ回転機構なくせよって? うるせえ! 浪漫だよ!! 腕に付けた装備がグルングルン回って切り替わるのかっこいいだろ!!!
次にロボット物を作る時に使おうと思っていたアイディアなんだが、社内コンペも無しで作れるってなったら、まぁ作るよね。誰だってそうする。俺だってそうする。だってかっこいいから。
というわけで実際に作り始めた。まず試しにコンテナを四つ作って、既存の雄型騎乗士を改造してRAS部分だけ取り付けてみた。
腕が重くなりすぎて肩からもげました。
しょうがないので肩の強度を上げて再度挑戦した。
今度は肘からもげました。
いやアカンやろこれ、ってことで、関節を始めとした機体そのものの頑丈さを解決するため、使用する合金の開発ってレベルにまで戻ることになってしまった。
不幸中の幸いで、ドライコインが合金に使用する素材金属の割合を計算するのが物凄く得意だったので、合金開発はかなり早い段階で終わることが出来た。
というわけで関節問題解決ゥゥウ~~~! 再! 挑! 戦!!
前腕部がデカすぎて機体バランス取れませんでした。
いや、関節問題は予想していたんだが、この問題が発生するのは予想外だった。何が起きていたのかと言うと、自分が見ている腕や、実際の腕の感覚に対して、実際に存在する肘から先だけが3割ほどデカい、と考えてもらえばいい。
たとえばだ、頭を掻いたとしよう。自分の感覚では手の指が頭にあるはずなのに、実際は頭頂部よりも上、何もない空間で手指を動かしていることになる。
当然ながら、パイロットの肉体比率と機体の機体の肉体比率が完全に合一するわけではない。なのでその差異を補正する機能も存在するわけだが、一部分だけ3割超ともなると流石にカバーできる範囲を超えてしまうらしい。
だが、コンテナを小さくするわけにはいかない。既に可能な限りの最小サイズだからだ。
これ以上小さくすると、十分な威力を発揮できない兵装が多過ぎるのだ。雌型騎乗士を倒せる程度の豆鉄砲くらいしか使えなくなる。
コンテナのダウンサイジングは不可能。となると、コンテナを搭載する側をコンテナに合わせるしかない。
これが、一般的な騎乗士の体長である5~6メートルに対して、回転式武装腕部搭載型試作1号機、形式番号RA-X001、薔薇獅子が8メートルもの巨体を持つに至った理由だ。
続けて、今回使用している武装コンテナの内容について説明しよう。
まずグレイ機で使用したのが超高速振動ブレード。
コンテナはブレードの格納だけではなく、ブレードに振動を与える役割も持っている。三重になった装甲服の上からでもお構いなしに切り裂けたのはこのおかげだ。
初期の搭載位置は外、つまり腕をひねらず真っ直ぐにした時の手の甲側だ。
次に、先ほどバズーカを破壊するのにも使った二連装サブマシンガン。
小口径で、主要な雌型が使用するマシンガンと同じ弾薬を使用している。というより、雄型に有効なダメージを与えられる威力の射撃武器をこのサイズに抑えるのは不可能だ。頭部カメラ程度なら壊せるが。
これはブレード用コンテナの隣に一つずつ、つまり一つの腕に二つ搭載されている。
最後に、ヴァイトの機体を派手に破壊したパイルバンカー。搭載位置は残りの場所、つまりブレードの反対側だ。
説明は不要であろうと思っていたが、そういえばこの世界にパイルバンカーの概念はなかった。
次の対戦相手、ニオスを待つ間にお嬢様言葉で観客へとこの内容を解説していたのだが、最後にパイルバンカーについて説明したら射撃武器でいいのではという意見がそこかしこから出た。先の戦いの通り、このコンテナサイズで雄型騎乗士を大破できる威力が出せると説明すれば納得した表情で座ってくれたが。
あと一つ、隠し玉もあるのだが、これを使うのはリギアまで待っておきたい。ニオスは適当に蹴り飛ばして終わらせるかな。
……いや、事故を装ってここで殺しておくべきか?
《反論:残る四名の心証が悪くなることが予想されます。今後の目的を考えると、このタイミングで実行するのは避けるべきかと》
それもそうか。それに、アリスの俺の評価を下げるのも避けたいし。
―――アリスさんの方が本命の理由ですわよね?
娘に嫌われたと知った父親へのダメージはな、それはすごいものがあるぞ……。娘が彼氏を家に連れてきた時以上の痛みが……。この世界でもそんな痛みを味わいたくないんだよ俺は。
―――あ、あー、ニオスさん、やっと出てこられましたわね。……あら?
《感想:話題変更に当機も追随します。おそらくマスターの御演説を聞いて対策を練っていたのでしょう。……おや?》
ニオスの騎乗士は、黒一色の機体だ。センサー類とステルス性を重点的に強化しているため、他の4機と比べて明らかに戦闘力では劣る。
だが、そこに出てきたのはそれとは真逆。白の騎乗士だ。完全に白という訳ではない。装甲服の縁を飾るように、金が各部に散りばめられている。
白と金。即ち、リンドブルム第一王子、リギア・リンドヴルム専用機の姿が、そこにあった。
●
『ごきげんよう、殿下。つかぬ事をお伺いいたしますが、ニオスさんはどうなされたのですか?』
『……私が棄権させた。雌型ではな』
『賢明な判断ですわね。わたくしも、蹴り飛ばして終わりにしようと考えていましたもの』
リギアが一言で表した通り、ニオスの機体は他の四人と違い、一人だけ戦闘能力の低い雌型騎乗士だ。
原作ゲームでも、全員が戦闘を重視すると偵察などの役割を持つ機体がいないのは困るという都合で、彼だけ偵察や警戒能力を強化した雌型を使うという設定になった。
同じく雌型に乗るゲーム主人公に行かせろよという部分がなくもないが、ニオスの偵察中は攻略対象と親交を深めたり、逆にニオスと共に偵察に行ってニオスとの好感度を上げたりと、主人公を偵察の固定役として扱うよりも都合がよかったのだ。
そしてもう一つ、出家しているとはいえ彼は平民なので、貴族である他4人に匹敵する機体を持ちだし、万が一にも4人の面子を潰すようなことがあってはいけないという政治的な理由もあったりする。これが、この世界でニオスが雌型を使う正当な理由だ。
『ウフフ、殿下をお相手している最中に、後ろから撃たれないように注意しておきますわ』
『……そう思う分には勝手だ。思っているだけ私が有利になる』
『返し方がお上手になられましたわね。殿下との御歓談も楽しいのですが、観客の皆様が焦れてしまいますわ。
……それでは、リギア殿下。5年振りです。5年振りに―――』
白の騎乗士が構える。装備は長剣と盾。1戦目のレオニスと同じ構成。
こちらは構えない。悠然と立ったまま、上からその姿を見下ろす。
『わたくしと、おどっていただけますか?』
同時、最後の戦いを始める号令が、会場へと響き渡った。
●
リギア機が近付いてくる。レオニスのように体を開いてではなく、盾で機体を隠しながらだ。
出力差を考えれば、盾の上からでも十分に衝撃を通せるだろう。だがそうはしない。
リギアだけは、ゆっくりと戦う必要がある。ようやく、誰にも聞かれずに二人だけで会話できる機会が巡って来たのだ。すぐに終わらせてはそのチャンスも失われてしまう。
盾の陰から剣が見え、それをこちらめがけて振り下ろしてきた。全然届かない離れた間合いから。
仕方がないのでブレードを展開。振動はオフ。素早く前に出て、リギアの剣を受け止める。成立するはずがない鍔迫り合いだ。
『く……!』
剣を弾けば後退され、再び剣を振ってくる。
この立ち合いを何度も繰り返すのだが、まぁリギアの剣が届かないこと届かないこと。5回に4回はこちらから剣を合わせてやらなければ空振りコースだ。
こちらは3割マシの巨体だ。普段と比べると目測が狂うというのもあるかもしれない。3回に1回は当たるって設定だったはずだし。
ともあれ、こちらから当てに行っているので、傍目から見ればきちんと戦えているようには見える。
観客席からの歓声が聞こえてきた。なにせこれまで3人続けて瞬殺されたのだ。こうして剣を合わせているだけでも、観衆にはさすがは王子だと、素晴らしい技量を持っていると見えるのだろう。
《感想:装甲服ごと装甲を易々と切り裂いたのを見ているはずなのですが、何故リギア・リンドヴルムの剣が切られないのか、観客達は疑問に思わないのでしょうか》
それも含めて、王子がどうにかしていると思ってるんだろうさ。あ、また変な距離で剣を振り下ろしてきた。
『ほら殿下、固くならないでくださいまし。5年振りとは言え、婚約者とのダンスですのよ? 何を緊張する必要があるのです?』
『……何をさせるつもりだ』
『ああ、成程。わたくしが勝利した時の内容、それが気になっておりましたのね。ご安心下さいませ。殿下たちを貶めるような内容ではありませんわ』
機体が離れ、再び剣を振るってくるが今度は近過ぎる。剣ではなく腕が当たるような間合い。機体を後ろへ下がらせることで距離を正し、鍔迫り合いに持ち込むことで会話の時間を稼ぐ。
『内容は二つ。一つは、殿下たちが勝利した時の約束を実行すること』
『何? それでは』
『二つ、と申し上げましたわ。もう一つは、この薔薇獅子に使用されている技術を積極的に解析し、新型騎乗士の開発に役立てること。ああ、試作2号機がありますので、そちらをお渡しいたしますわ』
『……どういうことだ』
観客席もざわついている。当然だ。勝利しておきながら、利が全くないように見えるのだから。
『ご覧の通り、既存の騎乗士とこの子では性能差があり過ぎますもの。反乱を疑う者が現れてもおかしくない武力を持っている、ということですわ』
『……忠臣の評価か』
『その通りですわ。そうすれば、謀反ではなく国益を考えたものになりますもの』
《補足:実はもう一つありますが、そちらは伝えないのですか?》
機体作るのにさすがに散財しすぎたんで、金属買わせて資産を取り戻したいなんてこの場で言える空気じゃねーだろ!
『……道理だ。誘導も説明が付く』
『そうですわね。なので入学早々に挑発させていただきました。……ですが、殿下も悪いのですよ。わたくしと最後に踊ったのはいつか、殿下にはお判りいただけますか?』
『……』
リギアは無言だ。当然だ、答えれるはずがない。俺がさっきから執拗に5年前と言っていても、それが正しいという確証が、リギアには持てない。
《報告:マスター、解析が完了しました。暗号回線、接続番号、共に判明》
待ってたぜ……この報告を! こちら側の条件、リギアと交渉するのに必要な状況は、全て整った。
剣を通して機体を押し飛ばし、距離を開けさせる。最後は、リギアが乗ってくれるか否かだ。
『折角わたくしがお披露目の舞台を整えたのです。わたくしもお付き合いいたしますので、殿下も、この場でお披露目致しては?』
その言葉を聞いたリギアは、構えた剣を降ろした。
『……本当に、よくできた婚約者だ。俺にはもったいないくらいの』
そうリギアの声が聞こえた直後、その現象は即座に現れた。観客席では何が起きているのか気付いた者を中心に、周囲へと困惑と驚嘆が伝播していく。
浮いている。
―――周りの者たちは、何を騒いでいますの? 船を浮かせることが出来るんですから、騎乗士を浮かせることが出来てもおかしくはないのでは?
《返答:大抵の騎乗士には飛行石が素材の一部に使用されていますが、これは薔薇獅子が降りてきた時のように、着陸時の衝撃を緩和するためです。降下時は自動で微弱な浮力が発生するように設定もされています。それに対し、今回騒がれているのは、高度を維持しているからです》
―――よく分からないですわ。
《補足:浮遊できるだけの浮力を獲得すると、滞空するのではなく、上昇をし続けます。そうでない場合、先ほど伝えた通り、滞空が出来ず着地します。軍艦においても、電流量を常に監視、操作することで浮力を管理し、高度を維持しているのです》
騎乗士に飛ぶ能力があることは広く知られている。合わせて、騎乗士を飛ばせる騎士がほとんどいないということもだ。
例えば電流量を操作するインターフェースを取り付けたとしよう。騎乗士の操縦にかなり神経を使う一方で、複数人がかりで行うような、スイッチのオンオフや電流量操作による浮力の管理を騎士一人で出来るだろうか。いや、出来まい。
アクションゲームだけに集中しながら手探りで、高度計も見ずに飛行機を操縦する様なもんだ。俺なら絶対に大事故を起こす自信がある。
だが、一つだけこいつを解決する方法がある。
騎乗士の操縦を通して、つまり、空を飛ぶイメージだけでコントロールする方法だ。
こんなことが出来る騎士は殆どいない。当然だ。空を飛べる人間なんていないんだから。不可能を可能に出来ることは、空を飛ぶということは、紛れもなく天才であることの証明だった。
無論、失敗すれば地面へと真っ逆さま。操作中は補助機能に干渉してしまうせいで、落下緩和の自動浮力も機能しなくなくなる。イメージを失敗すれば、それは棺桶の中で落下死を待つことに他ならないのだ。
『ついてこい』
言葉一つを残し、すこしずつ上昇速度を上げながら、上へ、上へと昇っていく。単純に高度だけを上げるのではない。推進器も何も使わず、360度を自由に舞うように、三次元軌道を取りながら飛んで行った。
観客席から怒涛のような歓声が上がる。今、彼らは奇跡をその目で見ているのだ。それも、自国の王子というエリート中のエリートがその奇跡の体現者ともなれば、その騒ぎ方にも頷ける。
言っておくが、俺では騎乗士は飛ばせない。マリアだって同じだ。原作において飛行能力を発揮したパイロットは、わずかに3名しか登場しない。一人は件のリギア。もう一人はリギア以上の天才的資質を誇る主人公。そして、最後の一人は敵国、グリプス王国のエースパイロットだけだ。
だが、だ。ここに、一つだけ例外が存在する。俺が騎乗士を操る時、イメージを送れるのは俺だけに限らないということだ。
つまり、俺が空を飛ぶ感覚を知らないのなら、代わりに空を飛べるやつに飛んでもらえばいい。
これが、俺の最後の隠し玉だ。
《同期:開始。仮想空間:挿入。操作権限:同調。
―――対滅抵抗:起動実行》
俺とドライコインの意識がシンクロする。俺が飛ぼうと考えれば、ドライコインがイメージの送信を代行してくれるというわけだ。
《連絡:本日は、ドライコイン・エアライン・サポートサービスをご利用いただき、誠にありがとうございます。サポート内容は、機体浮力発生管理、背部バーニア挙動制御、全身のアポジキックモーター動作制御。最後に、ウィットに富んだ対話インターフェースとなります。それではマスター、よい空の旅を》
さあて王子サマ、誰にも声が届かない場所で、秘密の会話と洒落込もうか!
白に続き、赤が空に浮く。観客の興奮は最高潮だ。
『オーッホッホッホッホ! 捕まえてごらんなさいということですわね殿下! どうかお待ちあそばせーーー!!』
ドライコインからのフィードバックを受けて、薔薇獅子がリギアの後を追った。
説明しよう!
ドライコインは完全フォロー状態になると普段よりテンションが上がり饒舌になるのだ!
なおこの設定が次回以降に活かされる保証はないので悪しからず