始まりの剣、カレトヴルッフ 7
音を立てて、レオニスとリーファが、次いでリギアが部屋へと戻ってきた。
「あら。どうかしましたの?」
「高いほうが、ハァ、よく見えるで、ゴンスから……」
三人とも、肩で息をしている。どうやらここまで全力疾走してきたらしい。
窓の外を見ると、
「ちょうど、始まるところですわ」
玄関の正面に立っていた始硬剣が、一歩、二歩と歩みを進め、直後、
『行くっス!!』
凄まじい速度で走り出した。
両手は空だ。盾も銃も持たず、人が走る時のように、足の動きに合わせて腕を振っている。
機体各部にはスラスターノズルやバーニアスロットが見えるが、それらを使っている様子もない。純粋な、走るという動作だけだが、それがべらぼうに速い。
「おお、速いですね!」
「自慢するだけのことはありますわね。獅子と同等、いえ、それ以上かもしれませんわ」
アリスも感嘆しているが、対峙する漆黒狐からしてみれば、堪ったものではないだろう。
腰の剣を抜き、構えた時には、
『とぅ!』
先頭の一機は既に、踏み台にされていた。
始硬剣がその速度のまま跳躍し、漆黒狐の頭を踏み付け、さらに飛び上がったのだ。機体各部のバーニアスロットが細かく輝き、姿勢を制御する。空中で捻りながらの宙返り。頂点でサイドスカートから柄を取り出すと、そこから光の剣が発生した。
赤い光。ビームソードだ。ガ○ダムでよく見るような、細長いタイプではない。二等辺三角形の長辺を、極端に伸ばした形状だ。
上から降りてくると同時、剣を持つ漆黒狐の右腕を、
『ヘアァーッ!!』
肩からビームソードで簡単に切り落とした。そこから続けざまに回し蹴り。右腕を失った騎乗士へと、左足が叩き込まれる。
頭部がひしゃげ、右肩から先を失った漆黒狐はたやすく吹き飛んだ。そのまま庭園を数度転がりまわって、ようやく止まればピクリとも動かない。
蹴り足を戻し、その様子を見ていた始硬剣へと、剣が突き込まれた。残った最後の漆黒狐だ。
ビームソードで迎え撃ちもせず、それどころか刃を消した始硬剣は、
『よっ、ほっ!』
と、右に、左にと避けるだけで対処する。そのまま左に避けた機体を大きく傾かせると、機体各部の推進器と姿勢制御器を吹かし、一瞬で距離を取った。
正対していた漆黒狐は、完全にその動きについていけていない。一瞬で姿が消えたのを見て、先ほどのように跳躍したかと上を見る。
「上じゃありませんわよー! 左ですわ、左!! 違う逆逆! 貴方から見て右ですわー!!」
と、俺は窓から身を乗り出し、身振り手振りで方向を示す。
一方、自機を見失った黒い騎乗士に対し、何故かリアは、何も行動を起こさなかった。
そして俺の声を機体が拾ったのか、あるいはセンサーでも確認したのか、ようやく漆黒狐が始硬剣の方角を向く。そして剣を構え、おっとり刀で近付いていった。
「さっきの始硬剣のダッシュを見ていると、漆黒狐が凄くゆっくりに錯覚しますね……」
「機体性能が違い過ぎますわね。あの団員もよくやりますわ」
近付く敵機に対し、始硬剣は動こうとしない。
「何か、不具合でも起きたのか?」
眉をひそめたリギアが言うが、そうではない。俺は知っている。始硬剣には、腕を使わなくても使える武器がある。
直後、
『避けるなっスよ~~~』
始硬剣の『頭』が光った。
正確には、こめかみだ。側頭部に存在する銃口から、ビームソードと同じく赤い色の、ビームバルカンが漆黒狐を襲ったのだ。
不器用に、不気味に、漆黒狐が躍る。
バルカンと言えば、ロボットゲームでは最弱武器の代表と言えるようなものだ。
だが、ビームと言う文明を持たないこれまでの機体にとって、バルカン程度であったとしても、それがビームとなれば話が変わってくる。
それがご覧の有様だ。
始硬剣がバルカンの連射を止める頃には、漆黒狐はコクピット周辺を除く全身が穴だらけ。黒い装甲はビームに溶かされたせいだろう、赤熱で発光していた。
ジェネレーターを破壊してはいないようで、爆発こそしていないものの、漆黒狐は膝をついた状態で静止し、稼働する様子はなかった。
そして始硬剣は俺たちの方を向き、腰に左手を当て、
『完・全・勝・利っスー!!』
と、こちらに突き出した右手で、Vサインを作って見せたのだった。
●
……戦闘終了、だな。
今回の戦闘で使ったのは、ビームソードとビームバルカンの二つだけ。未改造なんで最初の装備はこのくらいだ。
原作ゲームでは、初戦闘の時点でビームライフルも完成していたと思うが、リアはそれを使うまでもないと思ったのだろう。
戦いが終わった光景を見ていると、隣からつばを飲み込む音が聞こえた。
「……マリア。なんだ、あれは。あの赤い光は」
そう、絞り出すように言ったのはリギアだ。アリスも、穴だらけになった漆黒狐を注視している。
「実弾ではない。プラズマでもないだろう。連射性が高過ぎる。あんなものを持ちだされては、俺たちの機体でも太刀打ち出来るか怪しいぞ」
「……ビーム兵器。リアはそう言っておりましたわ」
「まっすぐ兵器? 変な名前ですね」
「なんでも、高エネルギー状態になっている重粒子に指向性を与えて撃ち出すそうですわ。撃ち出した重粒子は落下することなく直線軌道を取ったことから、『まっすぐ進む』と言う意味で、そう名付けたとか」
「こうえねるぎー? じゅーりゅーし?」
あ、アリスの頭にハテナが大量に浮かんでしまっている。というか中世ヨーロッパで粒子の話をしても理解できるわけがない。
「要は、核となる銃弾を使わずに、プラズマを撃ち出すようなものですわ」
「プラズマが拡散してしまうからそれは難しいと、以前言っていなかったか?」
「ええ。ですので、理屈は似ていますが、実際は別ものでしょうね。プラズマではない、『似た何か』を使っているのでしょう」
「なるほどな」
「ああ、それと、ビーム兵器への対策は既に施してありますわ」
「……は?」
「漆黒狐は旧型機ですので、あのような姿になってしまいましたが、ビーム兵器の理屈はわたくしの方でも見当をつけておりましたもの。アードラーブルクでクロスマンがビーム攻撃を使ってきたので、修理の際に装甲をコーティングいたしましたわ」
「ああ、何か微妙に質感が変わった気がしてたが……」
「もっとも、コーティングが有効なのは、せいぜい数発程度。威力が高いとそのまま抜けますので、過信は出来ませんわよ。大型戦艦サイズであれば、艦体全体にダメージを分散させるという手が使えるので、その限りではないのですが」
「でも見た感じ、弾速は遅いですよね。見てから避けれるんじゃありません?」
「……それは貴女たち、一部の人間だけですわよ、アリス」
さて、これで実弾、プラズマ兵器、ビーム兵器と三種の兵器が出てきたわけだが、ここいらでざっくりとまとめておこう。
まず、実弾から。
弾薬がかさばるし、重いし、空薬莢の排出といった問題もあるが、連射が効き、機体のエネルギーも消費しない。
安定性は高いのが利点だが、以前から使われていた兵器だけあり、既に対策が用意されている。装甲服に対しては、威力が大幅に減じてしまうのだ。
ちなみに装甲服は、人間が着用する防弾チョッキみたいに服だけで弾を防ぐわけではない。布で運動エネルギーを分散させたところで、威力の減じた弾丸を本体の装甲で受け止める、というのが主流だ。
まぁこの時代、運動エネルギーなんて概念はまだ存在しないので、「なんか布地を被せると威力が大幅に減る」程度の認識なのだが。
次に、プラズマ兵器。
こいつはプラズマを纏わせる『核』がないと、空中で霧散してしまう。ただしプラズマを纏わせる都合、レールガンとして発射できるので、弾丸が小さいので装填数が多く、空薬莢も出ないので排出機構が不要という利点がある。
代わりに連射が効かないし、機体のエネルギーも消費する。冷却装置も必須なので機構自体が大型化しやすいし、重くなりやすい。
だが、実弾とビーム兵器にない利点が二つある。
一つは、プラズマ熱で瞬時に布地を焼いてしまうので装甲服で防げず、対ビームコーティングでも『核』が持つ運動エネルギーを防げない。なので、有効範囲が広い。
もう一つは、その射出設計、つまりレールガン故の圧倒的な弾速だ。ドライコインいわく、理論上では時速一万キロとか出るらしい。俺たちはそこまでのヤツをまだ作れていないけどな。
最後に、ビーム兵器。
機体のエネルギーさえ尽きなければ、無限に撃てる。なので携帯性は一番高い。まぁ、ゲームと違って現実では銃身の摩耗などがあるので、本当に無限にとはいかないが。
それと、携行武器のサイズに対して破壊力が高い点も高評価だ。
その代わり、純電荷性なので、要は電気を弾く素材に対して、効果が一気に低下する。もっとも、その素材はビームの熱量で変質してしまうので、何回も当てると普通に有効にはなる。
あと、電気も熱エネルギーも逃がしてしまうような素材で出来た巨大建築物にも効果が低い。この場合、ビーム熱で変質することも期待できないので、こいつばかりは実弾かプラズマ兵器で対処するしかないな。
加えて、アリスが言及した通り、弾速が非常に遅い。
《補足:肉眼観測なので誤差がありますが、先ほどのビームバルカンは時速120キロメートル程度でした。また、大抵の実弾は初速でも時速1000キロメートル、速いものでは3000キロメートル以上は出ます》
ドライコインが理論を持っていたレールガンやプラズマ兵器と違って、ビーム兵器は完全に、この世界で生まれたばかりの兵器だ。その辺りの改善は今後に期待といったところだろう。
そう言えば、クロスマンのビームが緑色だったのに対して、始硬剣のビーム兵器はどれも赤色だったな。
ぶっちゃけ、原作ゲームでのビーム色は覚えていなかったりする。古い記憶なので仕方ないよねー。
クロスマンのビームと異なる色の理由が気になるし、ビーム色が変えられたりするのか、後で聞いてみることにしよう。
そうしていると、
「えーと、みなさん」
と、ヴァイトに控え目に声を掛けられた。
「ヴィネリア王女の機体が気になるのも分かりますが、こちらを……」
その言葉に室内へと視線を戻すと、救援が敗れたことを悟り項垂れる騎士団長を、レオニスが慰めているところだった。
「親父、じゃなくて騎士団長、もう諦めたらどうでゴンスか?」
「ゴンスってなんだ貴様! ワシを馬鹿にしておるのか!?」
「大真面目でゴンス。これは勝負に負けた故の罰でゴンス」
「貴様にワシの気持ちが分かってたまるか!」
「気持ちは分からないけど、そのビリビリ、めっちゃ痛いってオレもやられたから知っているでゴンス」
「……そうか、貴様も、これを受けたのか」
「そんで捕まったところで、オレもサーシャに交渉されたでゴンス」
「そうか……。お前も、辛かっただろう」
「騎士団長よりはマシでゴンス」
「そんな他人行儀な名で呼ぶな。前のように、親父と呼んでくれ、レオニス。…………サーシャ」
「はい~~~、なんでしょうか~~~?」
「レオニスの復縁を認める。加えて、当主の座を譲ることを、ここに宣言しよう」
その流れでなんで!?
―――あのビリビリを受けた者同士で、何か感じいるものでもあったのかしら……?
《感想:一人が厳しく罰を与えた後で、もう一人が親近感を持って優しく扱う。やっていることはマインドコントロールに近いのではないかと》
……怖いね、人間。
経緯はともあれ、これで一件落着だな。
そう思っていると、リーファがニコニコと笑いながらサーシャに抱き着いた。
「サーシャ、ありがとう。アンタのおかげよ」
「いいんですよ~~~リーファちゃん。私~~~、リーファちゃんのお義姉ちゃんになるんですから~~~」
「私もそのうち、アンタの義姉になるんだけどね」
―――言葉だけ聞くと、複雑な家庭環境ですわね……。
この場合、どっちが義姉でどっちが義妹になるんだろうな。
《感想:本人が言った通り、両方が義姉なのでは?》
「ま、そのことは置いといて」
そう言ってサーシャから離れたリーファの手には、先ほどまでサーシャが持っていたはずのスイッチがあった。彼女は汚物を見るような目で自分の父親を見下ろし、
「さっさとやっとけよ、汚物親父」
そして、元騎士団長、ゴルディフ卿の悲鳴が響き渡ったのであった。
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CONGRATULATION!!!
サーシャ・フォン・イーリッヒがレオニス・フォン・ガーヒリテアの攻略を完了しました。
以降、レオニス・フォン・ガーヒリテアの攻略友好度変動処理は凍結され、全キャラクターからの攻略対象外となります。
騎乗士の胸で抱きしめて:行程の進行に致命的なエラーが発生しました。
例外処理:以降、仮名『パッチワーク・フロンティア』を仮想展開、行程の進行を行います。
『パッチワーク・フロンティア』の行程進行を『騎乗士の胸で抱きしめて』から引き継ぎます。
引き継ぎ中......
引き継ぎ中............
引き継ぎ中..................
引き継ぎ処理が完了しました。
パッチワーク・フロンティア:第5話における全行程達成完了を確認。
――――――第5話『始まりの剣、カレトヴルッフ』 完
――――――次回をお楽しみに。
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