始まりの剣、カレトヴルッフ 3
『カレトヴルッフ』。
それは、アーサー王伝説が誇る王剣。後々の創作にては、泉の精霊へと返され、この世界から失われたと伝えられる王の証。その始まり、原典と言える剣の名。
そしてアーサー王伝説というのは、周辺諸国によって多種多様なアレンジが加えられ、様々な人物が、様々なエピソードが追加されていった物語だ。
つまりは、そのダブルミーニング。
カレトヴルッフの名は、リアが周辺諸国へと留学を繰り返し、各地の優れた技術を次々と取り込み、最強の機体を生み出す―――さも、アーサー王伝説のように、という願いを込めて付けられた名である。
と、まぁ、これは俺が制作側だから知っていることなんだよね。
作中、確か真エンディングで、この願いを攻略対象の王子に伝えるって展開があったはずなので、クリアしたユーザーも知っているはずだ。
でも、今はそんなことはどうだっていいんだ。重要なことじゃない。
何故なら、もっと聞き捨てならないことをリアが言ったからだ。
「……リア。貴女、ジェネレーターをご自分でおつくりになられましたの?」
「そうっス! なんかこう、作れるんじゃないかなーって思って作ってみたら出来たっス!」
リアは無い胸を張ってのドヤ顔だ。
確かに、原作ゲーム『貫いて、マキャヴェリズム』でも、リアは自身の機体、その全てを自分で作ってしまう。
なんでそんなことをしたのかといえば、単純な話で、リアは祖国で一般的に使われているロボット、すなわち竜王騎を乗りこなせないのだ。
なので、自分でも操縦できるシステムを作ってしまおうと考え、それなら操縦システムに合わせた機体まで作ってしまおうと思い、実際に作ってしまう女傑なのだ。
加えて、『騎乗士の胸に抱きしめて』と異なり、ジェネレーターの供給を行っているマリウス教も存在しない。
それらの点を鑑みれば、このごちゃまぜの世界においても、勢いでジェネレーターを作ってしまっていても、何もおかしくはないだろう。
「……ところでリア、ジェネレーターの密造は、マリウス教にとって禁忌にされているのはご存知かしら?」
「そりゃ知ってるっスよ。でも、何処だって作れないかなって裏でコッソリ開発してるっス。要は肝心のマリウス教にバレなきゃいいんスよ!」
リアはドヤ顔のまま、そう言い切った。
「なるほど」
そう言って、俺はニオスを手招きした。
背中から肩を掴み、リアの正面に立たせ、
「先ほども自己紹介で言っておりましたが、このニオスさん、マリウス教の助祭ですの」
「あ、どうも。マリウス教の助祭、ニオス・マリウスです」
と、ニオスが片手を上げてにこやかに笑った。
ドヤ顔だったリアは一瞬で真顔になり、
「パイセン。一緒に口封じの方法、考えてもらっていいっスか?」
「ていうか貴女、自己紹介で何を聞いていたのですか」
「いやー聞いてはいたんスけど、始硬剣を見せるのが楽しみ過ぎて、全然気付いていなかったっス」
リアはそう言って、金のショートボブの頭を掻いた。
「で、どうやって始末するっス?」
ニオスはリアから目を離さず、
「マリア様。割と本気で身の危険を感じるので、今すぐにでもネタ晴らしをしたいんですが」
マキャヴェリズムの主人公だからね。やるって言ったら本気でやるよ、リアは。
ニオスもそのことを肌で感じているのだろう。俺の方を振り向かず、リアに注意を払ったままだ。
「そうですわね。からかうのはこの辺りまでにしておきましょう」
「では、いいですか、ヴィネリア様。貴女がやられたことを、僕は上に報告したりはしません」
ニオスはゆっくりと、言い聞かせるようにリアへと話をする。
「む? どうしてっスか?」
「単純に言うと、僕はもう、このマリア様とはズブズブの関係なんです。ただし、報告しない代わりに、一つ条件があります」
「条件……。ジェネレーターの製造技術を、マリアセンパイに提供しろってことっスか?」
「はい、その通りです。ヴィネリア様は秘密が守られ、マリア様は利益を得て、そしてお互いにジェネレーターの製造技術を知っているという弱みを握り合う。どうでしょうか?」
「う~ん。……まぁ、別にいいっスよ。最初から提供するつもりだったっスし」
「あら、そうなんですの?」
「正直、ジェネレーター無しだとウチから出せる手札が足りないっス。飛行技術を一方的にもらうだけだと、どんな致命的な罠を仕込まれるか分かったもんじゃないっスし」
「取引のいろはは分かっておいでのようね」
「こっちだっていっぱしの技術者っスからね。その辺の不誠実は、後々猛毒になるって理解してるっス。それにお互い、いい関係でいた方が得っスからね」
そう言ってニカッと笑うリアを見て、うん、と俺は一つ頷いた。
「いいですわ。意見の合意も取れましたし、行きましょうか。貴女の護衛の方々とも、顔合わせをしなければいけませんわ」
と言って、俺は竜王騎の方へと足を向ける。
「そうっスね。ジェネレーターの資料も、すぐに準備しておくッス」
すると、後ろから追いかけてきたリアが隣に並んだ。
「そんなに急がなくてもよろしくてよ。わたくしの方も、資料こそ今すぐにでも用意出来ますが、実機が戻ってくるまでには時間がかかることですし」
「そう言えばそうだったっスね。う~ん、じゃあそれまでは、リーファの兄ちゃんを捕まえるのを手伝うっス」
リアは後ろを振り返り、
「いいっスか、リーファ、サーシャ?」
「ま、そうね。サーシャの足じゃ兄貴を捕まえるのは絶対に無理だし、リアが手助けしてくれるのは私も助かるわ」
「リアちゃんも~~~、怪我をしないように気を付けてね~~~」
「任せられたっス!」
「……あと、リア。アンタどこ向かって歩いてんの?」
「…………? おおぅ」
気付けば、俺の隣を歩いていたはずのリアの姿が、10メートルは離れた場所にあった。
●
それから、数日が経過した。
俺たちは二年の教室で、普通に授業を受けている。
というのも、急いで何か準備をやらなければならないような案件が、何もないのだ。
本音を言えば、リアに関して発生する戦闘イベントの準備をしたいのだが、原作ゲーム『貫いて、マキャヴェリズム』と現実では、展開があまりにも異なり過ぎている。
攻略対象である五人は、一人残らず死亡している可能性があり、悪役令嬢たる三人とはいったい何がどう転んだのか、友好的な関係を築けている。
加えて、アリスの側、つまり『騎乗士の胸に抱きしめて』についても、状況的にはエンディングを迎えた後だ。
なので、こちらも何が起きるのか、全く分からない。
俺がこの世界に現れてから、一年と半年。俺は新鮮な気持ちで、異世界転生主人公の気分を味わっていた。
いや、マジで何すればいいのか分からん。『貫いて、マキャヴェリズム』では他国との戦争は起きないし。
留学した国だけでざまぁ展開を繰り返し続けた結果、悪役令嬢が婚約破棄されたり追放されたり、あるいは王子にその活躍を見初められて、祖国から「姫をたぶらかしたやつはどいつだぁ!」と王族との婚姻を狙っているやつが押しかけてきて、やはりざまぁ展開で解決してゴールイン、とかだしな。
つまるところ、『敵』に当たる人物、国、勢力が見当たらないのだ。
他には、俺たちが開発したプラズマ兵器の技術とのトレードで、ビーム兵器の開発を、と行きたいところだが、やはりこの件も停滞している。
あまりがっつくと足元を見られてしまうし、そもそも、零式獅子に関する案件が三つ並行で進んでいることもあって、こちらの技術者も殆どが出払っている。
なので、急いで開発技術を手に入れる必要性が薄いのだ。
以前の忙しさに比べると、あまりにも暇すぎて死にそうだ。
というわけで、俺たちもレオニスの捕獲に協力しようかと申し出たところ、
「ここは手助け無用っス!!」
と、リアに断られてしまった。ついでにリーファに、
「アンタらまで追う側に回っちゃうと、兄貴がどこに行くのか本当に分かんなくなっちゃうからさ。ここはあえて大人しくしといて、撒き餌になっといてくんない?」
とまで言われてしまっては、手を貸すわけにもいくまい。
―――むしろ、何もしないことが手助けになりますわね。
そうなんだよな。
なんかこう、時間を無駄にしている感が凄い。グレイとターニャの仲を取り持つ作戦会議でもやるべきだろうか。
そんなことを考えていると、キーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴った。授業の終わりを知らせる鐘だ。
《感想:今さらですが、なんでこう、日本の学校を思わせるチャイムの音なんですか? 中世ヨーロッパを舞台にしているのなら、もっと相応しい音があると思うのですが》
音源が手に入らなかったんだよ!!!
いや俺たちもさぁ、同じことは思ってたんだよ。
でもさ、『中世ヨーロッパの学校で使われているチャイムの音』って言われても、ユーザーにも簡単に理解できるようなのって全然思いつかなかったのよ。
そんでまぁ、考えていく間にあれよあれよと時は過ぎて、『鐘を木槌でリズムよく叩く音』を使おうとやっとのことで決まったんだが、いい感じの音源を探している間に時間切れを迎えたのだ。
PCゲームとかソフトのオンライン販売とかと違って、当時のゲームソフトにはパッチを当てることも出来ないしな。
そんな隠されたエピソードを持つチャイムが鳴り終わるのを待っていた教師が「あ~、今日はこれで終わります」と言うと同時、教室の扉が音を立てて開かれた。
教室中の視線が集中する。
その視線の圧力に負けることなく立っているのは、リーファだ。
勢いよく扉を開いたことで巻き起こった風がスカートを翻し、その下にはばっちりとスパッツが装備されている。
うんうん、活発系美少女のスカートから延びる足にスパッツが見えてるのっていいよね。なんかこう、調和っていうかさ。
そしてその瞬間には、既にレオニスが扉とは対角線にある窓を開けて、そこから飛び降りていた。ちなみにこの教室は三階にある。
「……いや、どんだけ逃げ足が速いんですの」
そもそもだ。レオニスはリギアたちと一緒に、教室の中央にいたはずなのだが。
俺はリーファの姿を認めた瞬間に、レオニスが目当てだと思ったので、リギアたちの方に目をやったのだが、そこには既に、レオニスの姿はなかったのだ。
ではどこに、と思った瞬間、窓に足をかける男子制服を着た、緑のマリモみたいな頭部をした誰かが目の端に映った。
生徒多しといえども貴族子女のみが集まる貴族学園。そんな髪型をしているのはレオニス以外にあるまい。
あ、ちなみに『子女』って言葉は、女子だけでなく男子のことも含むからな。『子』に男子って意味があるので。『帰国子女』って言葉に使われているのも同じ意味だ。
リーファもレオニスが逃げおおせたのを見たのだろう。扉を締めもせずにその身を翻し、走り去っていった。
ふと思い立ち、俺はすぐ近くの窓へと近付き、そこから下を見るが、地面にレオニスの姿は見当たらない。
どうやら、もうここからは見えない位置まで逃げたようだ。そう思い、顔を上げる。
目が合った。
レオニスだった。
レオニスが、飛び降りた窓の縁に指をかけ、ぶら下がったまま俺の方を見ていたのだ。
……何と声を掛ければいいのだろうか。いや、そもそも声を掛けるべきなのだろうか。
俺が逡巡している間に、レオニスは体を持ち上げ、再び教室の中へと戻って来た。
「ふぅ。いやーっ、リーファは結構単調なんで、簡単に引っかかってくれて助かったっすよ」
「わたくしは一度、……いえ、二度、心臓が止まったかと思いましたわ」
レオニスが飛び降りたと思った時と、目が合った時である。特に後者についてだ。俺、よくあの瞬間に悲鳴を上げなかったな。たぶん口が×の字になってたと思う。
これ見よがしに、俺はため息をついてみせた。
「顔を合わせ辛いのも分かりますが、可愛い妹さんを、あまり困らせるものではありませんわよ」
「うへぇ、お小言は勘弁っす」
そう言って、レオニスは元居た席へと戻っていく。
俺も自分の席へと戻ると、
「レオニス君、楽しそうですね」
と、隣に座るアリスが言った。
「貴女にはそう見えますの、アリス?」
「はい。弟たちがあたしと、久々に会った時の表情にそっくりです」
原作主人公から攻略対象への評価ともなれば、お墨付きと言うものだ。
レオニスは、リーファとの追い駆けっこを楽しんでいるのだ。
ちなみに、レオニスはリギアに負けず劣らずのフィジカルお化けである。リーファ一人の力では、どうやっても捕まえることは不可能だろうと俺は思う。
リアがどうやってレオニスを捕まえるのか、こうご期待ってところだな。
オンボロPCをね、買い換えたんですよ
Celeron857とかいう拷問器具からCelron4100に
なぜ俺はあんな無駄な時間を……
まぁ何故かminiDisplayPortからHDMI変換食わせた映像をモニターが映してくれないんでマルチモニターできないんですけどね。モニターがDisplayPort出るより前のやつなんでHDMI変換しても対応できないのかもしれない。
助けて詳しい人




