獅子の尾を踏む 7
追撃獅子が突き出した槍の穂先が、夜闇獅子最後の一機、そのコクピットを正確に刺し貫いた。
突撃槍を振り、敵機を引き剥がせば、地面のレンガ仕立ての建物を破砕し、直後に大爆発を起こす。
『さて、ニオスさん。まだ残っていたりするのですか?』
『いえ、僕が知る限りでは、これで全部のはずです』
『生きておりますわね、フラウ。ここからが本番ですわよ』
俺がそう話しかけた薔薇燕・改はボロボロだ。装甲服はそのほとんどが焼け落ち、右足は膝から先が、左腕も肘から先が脱落している。
薔薇獅子・束の速度を活かして、夜闇獅子を串刺しにしながらのヒット&アウェイ戦法を取ったのだが、その頃には既にこの有様だった。
薔薇燕・改だけではない。無事と言える機体は少ない。
薔薇獅子・束に残された手持ちの武装は、右腕のお嬢様の嗜みのみ。しかも弾切れ。
左腕のレドームは、いつの間にやら割れていて機能不全。二連装サブマシンガンはグレネード弾を撃ち落とすのに全て使い切ってしまった。
不知恐怖は比較的無事だが、両腕のプラズマ・パイルが全て砕けている。
三機の零式獅子のうち、剣撃は一番被害が大きい。二つの盾を砕かれ、折り畳み式のブレードはどちらも折れ、今は二振りの長剣を握っていた。
そして片方の剣を放り投げ、砲撃獅子がそれを受け取った。
砲撃は被弾こそしている様子は見られないものの、全身に巻き付けていた給弾ベルトは全て失われ、両腕に装備していた二連装ガトリング砲のどちらも、既に保持していない。
追撃獅子は大小の盾を失ったが、左コンテナの折り畳み式スナイパーライフルは無事だ。突撃槍内臓の機関銃は弾切れを起こしているようで、俺が戻った時からはもう使っていなかった。
『分かってるわ。城に向かうわよ』
そうして、全員が王城のある方向へと目を向けると、
『フン。よもや、本当に夜闇獅子隊を退けるとはな。存外役に立たん奴らだ』
『言っておきますが、そのうち四機はおサルさんの人選ミスで貴方が自爆させましたからね』
『誰がサルだ! フン、まあいい。すでに貴様らは満身創痍。私だけでも十分と言うものよ』
『舐められたもんっすね。いくら何でも、たった一機の騎乗士で、六機に勝てるわけがないっすよ』
『フン、愚物が。誰が騎乗士などと言った』
その声が聞こえると同時、目の前の王城、その表面がパラパラと崩れ始める。
否、そんな生易しいものではない。直後、城が内側から弾け飛んだのだ。
『何!? あのクソ兄貴、まさか城ごと自爆!?』
『! 皆さん、回避なさい! 砲撃が来ますわ!!』
俺が忠告した通り、土煙の中から砲弾が飛んでくる。
『城の中に戦艦でも隠してたっての!?』
『いえ、違いますわ! あれは……』
そう、城の中から出てきたのは、下半身を持たない巨人。
上半身だけで50メートルはあろうかという、騎乗士を遥かに超える巨大ロボット。
『フハハハハハ!! このアードラーティタンが相手だ!!!』
原作ゲーム『騎乗士の胸に抱きしめて』の最終ステージ、そのラスボス、グリプス王国の切札、鷹の巨人だった。
《感想:最後だからって明らかにおかしいでしょう。騎乗士の機体サイズ限界の設定はどこに行ったんですか》
いや大丈夫。その辺の設定もちゃんと生きてるから。
アードラーティタンは一見派手だが、実際のところ攻撃手段は、その全身に取り付けられた大砲によるものだ。上半身に腕こそ付いているものの、その動きは非常に遅い。
『鷹というより、ハリネズミですわね』
『てか、あんなの知らないわよアタシ!!』
『当然だ。貴様のような愚妹に知らされているものか!!』
新王エルバがそう叫んだ直後、アードラーティタンの右肩が爆散し、その右腕が砕け落ちていった。
『……は?』
アードラーティタンの上空に逆立ちで滞空する、薔薇獅子・束の攻撃によるものだ。
『図体が大きいだけですわね。わざわざ当てやすくしてくれてありがとうですわ』
二発目、天竺葵の主砲が、城門前に集まっていた敵騎乗士群を吹き飛ばした特殊弾が、右肩に続き、今度は左肩を吹き飛ばした。
―――あれ、もしかしてこれ、余裕なのでは?
そらそうよ。
あんなのが出てくるってこっちは知ってるんだからさ、当然だけど、対策はばっちり準備済みだよ。
『そんな、馬鹿な……! 私の覇道が、グリプス王族の夢が、こんな小娘に……!?』
『わたくし、はやく帰って婚約式を再開したいんですの』
なので、
『一足先に、祝砲を上げさせていただきますわ』
そして最後の一発が、アードラーティタンの頭部、設定上、操縦室が存在する位置、つまりは現グリプス国王エルバ・ディア・グリプスがいるはずの場所へと撃ち込まれ、その空間を焼き払った。
『はー、やれやれ。手間かけさせやがってですわ。やっと終わりましたわね』
『……ちょっと、マリアお姉さま! アタシが殴る分は!? アタシ言ってたわよね、あいつらに会ったら一発ぶん殴ってやるって!』
『あ、忘れてましたわ』
『何してくれてんのよーーー!!!』
「あの、マリア様」
フラウからの叫び声をBGMにしていると、逆さまになって立っているニオスが、おずおずと話しかけてきた。
「お城の中に、僕の上司というか、グリプスに発破をかけていた黒幕がいたんですけど」
「……あのデカブツが城の中から出てきた時点で、中にいたとしても叩き落されて死んでいると思いますわよ」
「ですよねぇ……」
直後、薔薇獅子・束が急な回避運動を行った。俺ではない。アリスの操縦によるものだ。
そして、黒煙の中から発射された緑色の光線が、回避しきれなかった天竺葵の主砲部分を溶かし落とした。
『く……! ごめんなさい、避け切れませんでした!!』
アリスから謝罪が飛んでくるが、こちらはそれどころじゃない。
今のは、明らかに光線だった。
主砲を溶かし落としたところから、高エネルギー攻撃なのは間違いないが、質量弾では、レールガンではない。
《報告:未確認機からの攻撃、ビームと断定》
そうだ。ビーム攻撃だ。
この世界には、『騎乗士の胸に抱きしめて』には存在しない兵器!!!
すなわち、俺と同じ、この世界のイレギュラー!!!
『見つけましたわよ、世界の歪みを!!』
グリプスの侵略が、こうも早くなった技術的な特異点!!
見せてもらうぞその面ァ!!!
お嬢様の嗜みを構え、未だ晴れぬ煙の中へと突き進む。
プラズマを発生させ、突撃槍の表面をコーティング。同じエネルギー力場同士の激突だ。主砲の時と違い、ビームが当たってもそう簡単に溶かされたりはしないはずだ。
同時、その煙の中から、薔薇獅子・束目掛けて飛び出してきたものがある。
人型だ。機体サイズは、おそらく薔薇獅子・束と大差がない。
煤や土埃の汚れが目立つ、白の装甲服。
装甲服の中からは、銀と鉛色の入り混じった曲線で構成された外装が見える。
やたらとデカくて直線ばかりの黒い翼が背中から生えており、そこからの推進力を用いて飛んでいる様だ。
激突した。
俺にも覚えがない謎の機体が、ビームソードを用いてお嬢様の嗜みと鍔迫り合いにはいる。
……?
いや、この『顔』、どこかで見たことが……?
俺がそう思った直後、激しい振動が機体を揺さぶった。
「きゃああああああっ!?」
機体に身体を固定していないニオスが、コクピット内部で飛び回り悲鳴を上げる。
俺が気を取られた一瞬、その隙をついて、謎の機体がムーンサルトキックでコクピットを狙い、蹴り飛ばしたのだ。
そして距離を取られ、先ほど、こちらへの攻撃に使用したであろうビームライフルらしい銃を向けるのが見え、
その顔面を、不知恐怖が殴りつけた。
破砕した顔面が、脱落した不知恐怖のマニピュレーターが落ちていく。
ん? いや、壊れたのは顔ではない。仮面だ。その中から、砕けたそれとは別、銀色の顔が、人の顔を模したものが見える。
謎の機体は、今度はビームライフル(仮)を不知恐怖へと向けるが、引き金が引かれるより早く、その銃が爆発した。
追撃獅子だ。
地上、剣撃獅子と砲撃獅子が支えとなり、ほとんど仰向けの状態で、無事だったスナイパーライフルを使い狙撃したのだ。
そして銃の爆炎が晴れると、そこには十字架が浮いていた。
『! 待ちなさい!!』
制止など聞くはずもない。その十字架は、先ほどの機体が変形したもの以外にないだろう。
移動に適した形状なのか、側面に並んだ推進器を使い、高速で飛んで行ってしまった。
その機体が飛び去った方角を見ていると、不知恐怖が近付いてくる。
『マリア、無事か!?』
『ええ。ニオスさんはひっくり返っていますが』
『追いますか、マリア様』
そう言ってくるのは、追撃戦を想定して開発された追撃獅子に乗るグレイだ。
『……いえ、こちらの消耗が激しすぎますわ。それに、あの移動力。追撃であっても、追いつくのは難しいでしょう』
『了解しました』
『……ところでマリア。城が吹き飛んでしまったんだが、どうやって前線にいる連中に、俺たちが王都を陥落させたことを伝えようか? 三人を下に降ろして、通信施設を探させてはいるんだが……』
『…………フラウーーーーーー!!!』
『そんなこったろうと思ってたわよ!! 城門のところに通信設備があるから、そっちに戻るわよ』
城門、吹き飛ばしていなくてよかったな。いや、本当に。
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こうして、戦争は終わった。
グリプスとリントヴルムの国境では、騎士団長ガーヒリテア侯爵が宣言した通り、防衛線を維持し続け、戦況を硬直させることに成功。
そしてこの状態に焦れてきたところで、新年の早朝、王都から届いた通信により、フラウ・グリプスの生存、エルバ・ディア・グリプスの崩御と王都が制圧されたこと。それに伴い、新王フラウ・ディー・グリプスの新王就任が伝えられた。
結果として大幅に士気が落ちたところで、新王フラウにより停戦命令が発令され、グリプス軍は降伏を受け入れた。
宣戦布告から、たったの七日間。
そして、わずか七機の騎乗士による電撃作戦で終結したことで、今回の戦いは、とある名前が付けられることになった。
『七の稲光戦争』、と。
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ニオス・マリウスの友好度上限値が上昇しました。
ニオス・マリウスの友好度が上限値に到達しました。
フラウ・フォン・ゴルディナーの友好度が無効化されました。
フラウ・ディー・グリプスの友好度が有効化されました。
フラウ・フォン・ゴルディナーの友好度がフラウ・ディー・グリプスに引き継がれました。
騎乗士の胸で抱きしめて:第4話における全行程達成完了を確認。
――――――第4話『獅子の尾を踏む』 完
――――――次回をお楽しみに。
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