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獅子の尾を踏む 2

 一つ目の基地を陥落した後、俺たちはその場から離脱し、川辺で休息・兼・補給作業を行っていた。


 ところで(・兼・)って書くとなんかマスコットキャラクターの顔っぽく見えない?


 ―――……それ、今言う必要がありますの?


 いや全然。思いついたから言っただけ。


 襲撃したのは真夜中だが、夜通しの攻撃後、日が昇るより早く予定移動路へと戻った。そして今は、すっかり夜が明けている。


 基地の連中も災難だったろう。よりにもよってクリスマスの夜に襲撃されたのだ。


 後の歴史で『惨劇のクリスマス』みたいな物騒な名前で、後世まで語り継がれないことを祈る。



 俺は悪くねえ! やったのはヴァイトってやつなんだ! 俺は悪くねえ! 俺は悪くねえ!!



 いやマジで「ここは私にお任せください」と自信満々にヴァイトが言うもんだから任せた結果なんで、本当に俺は悪くないと思う。


 恨むなら俺ではなくヴァイトを恨んでほしい。成仏しろよ~。


 川岸には海蛇之尾(シュラン=シュワン)が乗り上げ、その隣には、海蛇之尾が運んできてくれた補給物資が満載されている耐水圧性コンテナが開かれていた。


 海蛇之尾に乗るカタリナとリリーナは、機体に乗り込んだままだ。リギアにその正体を晒しはしたが、三馬鹿にまで知らせるつもりはないらしい。


 補給作業と言ったが、今回の作戦で消耗したのは、実質砲撃獅子(パンツァー・ローヴェ)だけだ。


 全身のミサイルを各所にばら撒きながら、要所要所で的確に両肩の複合式(ハイブリッド)大砲(・カノーネ)を叩き込み、完膚なきまでに基地機能を破壊しつくした。


 レオニスやグレイは同チーム故に砲撃&爆撃後に基地に突入したが、抵抗らしい抵抗は全くなく、格納庫で無事だった数機の敵騎乗士(キャバリエ)を、レオニスが試し斬りとばかりに真っ二つに叩き切ったぐらいだ。



 これがアニメなら、軍人の息子がクリスマスなので親父に会いに来ており、戦渦に巻き込まれてたまたま無事だった騎乗士に乗り込んで才能が開花し、大活躍の逆転ホームランって展開があったかもしれないが。


 残念だけどこれ、現実なのよね。アニメじゃない。



 そしてあの惨状をまき散らした砲撃獅子は今、左右を剣撃(シュナイダー)獅子(・ローヴェ)追撃獅子(イェーガー・ローヴェ)に挟まれながら、全身のマイクロミサイルコンテナを交換している。


 本来であれば、このコンテナ交換も換装式(リプリシング)全装甲(アーマー)機構(システム)運用艦で行うのだが、さすがにそこまでの開発は間に合わなかったのだ。


 軍艦の開発ノウハウは俺たちよりもグリプス側に一日の長があることだし、支配した暁には、存分にその知識を活用させてもらう目論見だ。


 というわけで、三人は運用艦が間に合わなかったことに愚痴を言い合いながらも、手作業での交換作業に追われていた。


 剣撃(シュナイダー)は当初の予定通り両腕に大型シールドを取り付け、加えて追撃(イェーガー)も左腕に大型シールドを取り付けることが採用された。


 だが、今は作業の邪魔になるため、三つとも取り外されて地面に突き刺さっている。


 ―――もしも今、奇襲されたら普通に危険ですわね。


 その対策に、地面に盾を突き刺して防壁代わりにしているんだろうさ。


質問(クエスチョン):それで、砲撃獅子の攻撃だけで終わりましたが、これがグリプスとの戦争以降の戦闘イベントというわけですか?》


 そんなものはない。いやマジで。


 というのも、本来の戦闘イベントはおろか、戦争の展開自体が大幅に異なっているのだ。


 原作ゲームでは、グリプスの宣戦布告時点で、リントヴルム側にも十分な航空戦力が整っている。


 なので最初の攻撃を普通に撃退し、ゲーム主人公や攻略対象たちを主力部隊として、軍団規模でグリプスへと逆に侵攻する侵略戦を行う。


 一方で、俺たちが行っているのは、僅か七機+補給路確保用の一機による電撃戦だ。


 展開どころか、そもそも進行ルートが全く異なる。


 なので正直、この後どうなるのかは俺にも全く分からない。


 最初の基地はあっさりと陥落出来たが、残り二つの基地、そして本丸である王都まで無事にたどり着けるのだろうか。



 やれやれ。こんな不安に思うのも、きっと睡眠不足のせいだ。俺たちの進軍は徹夜慣行だったんだ。


 俺と三馬鹿以外は、既に仮眠をとっている。俺が起きているのは見張り役という訳だ。零式獅子(ディーン・ローヴェ)は即応できる状態じゃないからな。


 なので、砲撃獅子の補給が終わったら、俺も眠るとしよう。見張り役はリギアと交代の予定だ。



 徹夜と戦争のストレスは、お肌に悪いんですわよっと。


   ●


 女三人寄らば姦し。


 つまり、


『『『たーまやー!!』』』


 と、二つ目の基地に降り注ぐミサイルの雨を見ながら、俺とアリスとフラウは声を上げていた。


『たまやじゃないが』


 というリギアの小言も聞こえてきたが無視する。


 なんでこんなことになったのかというと、前回の戦闘後、俺の奇行はいったい何だったのかとアリスやリギアに聞かれたので、


「なんでも、東の果てにある島国では、火薬を詰めた球を打ち上げたらそのように掛け声を上げる風習があるらしいんですの」


 と言った結果である。嘘は言っていない。


報告(リポート):当機のライブラリによると、花火の際に『たまや』と掛け声を上げるようになったのは1810年以降なので、まだ200年以上先の習慣なのですが》


 えっ。


 ―――……歴史、変わってしまいましたわね。


 い、いや、風習として残らなければセーフ! セーフだから!!


 ちなみに今日は、前回の基地襲撃から二日後の夜、つまり12月28日の夜中だ。


 ―――露骨に話題を変えてきましたわね。


 そういうのいいから。


 とにかく、冬至の後ということもあり、日が落ちるのもかなり早い。このおかげで、日が変わるより早く夜襲が出来るという利点があった。


 本来なら夜更け、夜中の2時とか、あるいは夜明けの直前なんかがいいんだろうが、それを待つだけの時間的余裕が今の俺たちにはない。


感想(レビュー):ところで話を戻しますが、目の前で大量の死傷者が出ているのに、全員倫理観が欠けていませんか?》


 いや、その大量殺戮を実行しているのはそもそも俺たちだしな……。


 不幸中の幸いというわけではないが、見た目ほど死者の数は多くはならないはずだ。


 一つ目の基地を落とした後、フラウと話をしたところ、基地の規模に比べて、そこにいる人員数が非常に少ないらしいのだ。


 年末を控えて、という理由だけでは、ここまで数は減らないだろう。飛行型騎乗士(キャバリエ)に適性のある者たちの殆どが、前線の侵略部隊に回されているせいだと俺たちは推測した。


 なので、一つ目の基地もそうだが、今回の基地でも見つけた騎乗士は全て旧型だったし、襲撃への対応も遅い。


 対艦戦闘の可能性を考慮してアリスに周辺を警戒してもらっているが、戦艦はおろか、それ以外の軍艦の一つすら遭遇しない。


 この『獅子之尾(ローヴェ=シュワン)』作戦、予想していたよりもずっと有効な手だったようだ。もっと抵抗があると思っていたからな。


『ヴァイト様、その程度でよろしいですわ。予想通り、想定よりも基地に残されている戦力は少ないようです』


『了解しました』


『全員、聞こえておりますわね? 一昨日同様に撤収し、次の合流予定地に向かいますわよ』


 すたこらさっさのえっさっさだ。


 残り一つの基地もさっさと落として、王都へと向かわねばならない。二つ目の基地が壊滅したことで、あちらも俺たちの進路や目的に予想が付くだろう。


 その予想からグリプスが基地に増援を送ったとしても、基地に到着するまでには、当然だが時間差がある。


 それよりもはやく陥落させるのが理想だ。時間は今の俺たちにとって敵だからな。


   ●


 二日後の、12月30日だ。


 展開が早い? 道中の話とかないのかって?


 そんなものはない。というかそんな余裕がない。


 日が落ちたら基地に向かって襲撃して、その後は即離脱からの合流ポイントへ移動。


 カタリナ達と合流したら武器弾薬の補給を行い、休息をとりつつの移動に移動に移動。


 そして日が落ちたら次の基地への襲撃、なんてスケジュールだぞ。


 どこに乙女ゲームよろしくキャッキャウフフで和気あいあいと話す暇があるんだよ……。


 合流地点の都合上、川で身体を洗う程度のことは出来るが、それも一人ずつの交代制だしな。


 つくづく運用艦の製造が間に合わなかったことが悔やまれる。


 いや、間に合ったとしても、この作戦で使えたかは怪しいところだが。


 軍艦というのはデカい。


 物を載せるために巨大化し、巨大化した艦を持ちあげるための出力確保に重くてデカい雄型ジェネレーターを複数機搭載することになり、それによりさらに荷重とサイズが増え、増えた分を補うためにさらに雄型ジェネレーターの追加を……、という事態に陥り、騎乗士(キャバリエ)運用艦は基本的に巨大化しやすいのだ。


 そして、デカいということは目立つということだ。


 それは、俺たちがどこにいるのかを敵に知らせるのに等しい。大食(ファレファイ)蜂鳥(コォリヴリ)も同じ理由で使うことが出来なかったので、今回はお留守番だ。


 そもそも蜂鳥(コォリヴリ)は高速艦じゃないから、今回のような移動拠点強襲型電撃戦には向いていないという部分もあるのだが。


 その一方で、俺たちがこんな無茶苦茶な行軍が出来るのは、全てカタリナのおかげだと言っていい。


 補給路という遠征部隊最大の弱点と言える部分を、水路による高速運搬で補いつつ、同時に護衛役を水中戦最強と断言できるカタリナが担当してくれるからこそ成り立つ作戦なのだ。


報告(レポート):なお、ミス・カタリナの水中戦闘能力は、当機が最大限マスターをサポートしても、ミス・カタリナの方が上です》


 ―――水中に限るとはいえ、マジモンの化物ですわね……。


 そのおかげでこんな作戦が使えるわけだし。


 だが、そのカタリナ達とはここでお別れだ。


 三つ目の基地は、前二つの基地と比べると、河川からは結構な距離がある。


 その理由は、河川北部に広がる大森林だ。


 そして、森林を抜けた先、基地からさらに北上すると、俺たちの目的地であるグリプス王国の王都、アードラーブルクが見えてくる。


 俺たちは三つ目の基地を襲撃した後、最後は補給なしで王都へと向かうことになるわけだ。


 というわけで、俺たちは残りの補給物資を全て詰め込み、森の中を進軍していた。


 天竺葵(ゲラーニェ)だけは森の上空すれすれだが。さすがに戦闘機が木々に囲まれた中で飛んだら激突しかねないので。


 ちなみに天竺葵は初出撃時に起きた着艦事件によって仕様が見直され、非戦闘時の移動用や垂直離着陸出来るように、飛行石(フライハイト鉱石)が組み込まれるようになった。


 なので俺たちを置いて一人かっとんで行ったりはせず、同じ速度で行軍出来ている。やっててよかったわ、この仕様変更。


 さらに回転式(リボルビング・)武装腕部(アームズ・)機構(システム)用のコンテナを取り付けるハードポイントも追加され、二連装サブマシンガンやマイクロミサイルのおかげで対騎乗士戦闘能力も改善した。


 俺たちの中で一番対艦戦闘能力が高いのは変わらないので、相変わらずそちらは天竺葵まかせだが。


 そして幸運にも、今日は新月。夜襲にはいい日だ。


 そんな中、ふと広場に出た。


 森を抜けたというわけではない。おそらく、北の基地にいる連中が演習場として使っている場所だろう。森の中に、ぽっかりと空間が開いていた。


 うん? これは……。


『皆さま、お止まりなさいまし!』


 突然の俺からの命令に、隊列を組んで進んでいた他の六機が足を止める。


『マリア?』


『何かあったっすか? 忘れ物とか?』


 と、一番前を走っていた二人から疑問の声をかけられるが、俺はそれを無視し、薔薇獅子(ローズ・ローヴェ)の左腕を持ちあげた。


 その手が持つのは、薔薇獅子サイズ用の斧だ。


 ただの斧ではない。柄の先には銃砲が覗いている。お嬢様(フロイライン)の嗜み(・アンシュタント)では連射性に難があるので、それを補うための火薬式ライフルと斧を組み合わせた複合兵装だ。


 そして俺はその銃口から、おもむろに数発を森の中へと発射した。


 そして聞こえてきたたのは、金属同士がぶつかったと思しき甲高い音だ。


 そう、()()()()だ。銃弾が森の木々に当たれば、その木が爆ぜるなり砕けるなりの音がするだろう。


 だが、今の音は明らかにそのような音ではなかった。



『出てきなさいまし。隠れていても獣は臭いで分かりますわよ』



 俺が森へと放った問いかけの返答は、声ではなく機械の駆動音だった。


 森の中から、一機の騎乗士が姿を現す。


『な……に?』


『おいおい、どうなってんすか、こいつは……』


 一番前にいたリギアとレオニスが、その姿を視認する。


 月が出ていないので星明かり頼りだが、それでも騎乗士のカメラ性能で、大まかな姿は見える。だからこそ、二人が驚いた理由を全員が共有した。



 出てきたのは、黒の獅子(ローヴェ)



 そう、今夜は新月。()()()()()()()()()()()()

ロボット大原則ひとぉーつ!


敵陣営が主人公機をコピーした時には、コピー機体の色は黒くならなければならない!!

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