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戦いの後に・改 4

「はい。大きな問題は三つ。一つ目は、グリプスが王族の死を公言したことで、リントヴルムからの軍事的報復を封じられたことです。王族の死により国家単位で喪に服している時に侵略したとなれば、リントヴルムの信用は地に落ちます」


 戦争をしている最中に死んだ場合は、さすがにそうはならないがな。


 ちなみにこの慣習を悪用して、戦争になりそうになったら王族を暗殺して喪に服させて戦争を回避、という方法を取った国が昔存在したらしいのだが、無事クーデターを起こされ当時の王は処刑され、結果的に『結界』を失った国は他国から侵略されて消滅したらしい。まぁ、当然の結末だな……。


「服喪期間は1年。つまり、今後1年はリントヴルムからの武力干渉は行えませんわね。グリプスがこちらへと攻め込んでくれない限りは、という条件が付きますけれど」


「はい。他国がグリプスに向けた軍事行動を取ると問題になりますが、グリプスが軍事行動を取った場合には『喪が明けた』として扱われます」


 アリスの言う通り、軍事的報復は事前に防がれてしまった。だが、だ。別に報復措置は武力だけに止まるわけではないのだ。


「ですが、大人しく泣き寝入りする気もありません。これが青蠅(ブラウ・フリーゲ)、例の飛行型を増産するための時間稼ぎなのは自明の理。それなら、いやというほど時間を差し上げましょう。どれだけ時間があっても、素材がなければ騎乗士(キャバリエ)は作りたくても作れませんもの」


 ちなみに青蠅にはちゃんとした正式名称があるんだが、俺も名前を憶えていない。いや、20年も昔の雑魚敵だし、さすがにね……。ハイエナとかジャッカルとか、なんかそういう肉食獣っぽい名前だったとは思うんだが……。


 フラウにも聞いてみたけど、名前なんて気にしてなかったから知らないって言うし。


「ですので、ゴルディナー家から他国へと輸出する金属量を減らし、さらに単価を大幅に値上げいたしますわ。実際に我が国では新型騎乗士の開発で、特需となっておりますもの。理屈は通っておりますし、他国に不審がられる可能性も低いですわ」


 さらにここで、原作ゲームでグリプスが侵略してきた理由が活用できる。


「それに、騎乗士開発に必要不可欠な二大貴金属、フライハイト鉱石とバルドル鉱石。グリプスにはこれらの鉱脈がありません。量を集めるのは難しくなるはず」


 フライハイト鉱石というのは、以前に飛行石と言っていた金属の正式名称だな。


 そしてバルドル鉱石。これは騎乗士がイメージだけで動かせる原因ともいえる金属。例えるなら、天然物のサ(ピー)コフレームだ。


 騎乗士ってのは、ようはフル・サ(ピー)コフレームで作られたモ(ピー)ルスーツだ。操縦が難しいのもわかってもらえると思う。だって、ニ(ピー)ータイプでもない人間がフル・サ(ピー)コフレーム機をまともに動かせるわけないだろ?


 それで、だ。ゲーム本来の流れを説明しよう。


 グリプスは他国より先んじ、飛行型騎乗士の量産に着手する。すると当然、これらの貴金属が足りなくなるのだが、都合のいいことに、隣国リントヴルム王国にはこれらの大鉱脈がある。つまりゴルディナー領に(俺ん家の財産)だが。


 さらに、鉱脈はそれだけではない。今はまだ見つかっていないが、来年の夏、グリプスとの国境に近い場所でフライハイト鉱脈が発見され、グリプスはそこを占領するために侵略を決心する、というわけだ。


「先の襲撃も、おそらくは生徒を空賊から取り返したという名目で人質に取り、これらの鉱石の取引量と値段を交渉するのが目的だったのでしょう。違いますかしら、フラウ?」


 これらはフラウから聞いたというわけではない。そんな時間がこれまで取れなかったからだ。なので推測だが、これ以外に理由はないだろう。


 念のために、フラウにも確認を取っておこうと思って話を振ったのだが、



「いや、ごめん。アタシその辺知らされてないんだわ」



 という、予想外の言葉が返ってきた。


「……将軍なんですよね?」


 とアリスが、


「しかも王族ですわよ」


 と俺が


「そして撃墜王(エース)でもあったな」


 とリギアが追撃した。


「やめて! そんな目でアタシを見ないで!! 本当に今回のことは知らされてないんだって!!」


「……一応、どのような経緯で貴女が同道することになったのか、教えてくださるかしら」


「ああ、うん。アタシは普段、東のほうを守ってたんだけどね」


「東ということは、王都に近く、リントヴルムとは正反対の位置ですわね」


「ええっと、すみません、マリア様、フラウ様。あたしグリプスの地理は全然わからなくて」


「あー、そうね。グリプスとリントヴルムは、亀の頭と甲羅の形に似ているわ。四方に広い領土を持つリントヴルムが甲羅で、横に長いグリプスが頭よ。グリプスの王都は目の位置にあって、アタシは頭の先っぽを守ってたってわけ。……ねえ、何この空気?」


 見れば、フラウの言葉を聞いたリギアとリリーナはこちらから目をそらし、ニオスは顔を絡めて伏せていた。


「アタシ、何か変なこと言った?」


「いえ、私にも見当がつきません」


 ―――わたくしも分からないのですけれど、何かあったのですか?


 『亀の頭』がどんな意味か分からない良い子の諸君は、お父さんお母さんに聞いてみようね!


警告(アラート):絶対にマスターの言ったことは実行しないでください》


 ―――……ろくでもない意味が隠されていることは察しましたわ。


「えーっと、話を先に進めますねー……」


 と、意味が分かっていないフラウとカタリナを横目に、若干顔を赤く染めながらも、アリスが話を進めた。


「それで、普段はリントヴルムとの国境とは反対の位置におられるフラウ様が、どうして今回リントヴルムへの侵略部隊にいらっしゃったのでしょうか?」


「ああ、うん。アタシは3年くらい前から、その国境に近い城に暮らしてたんだけど、あのクソ親父……グリプス王に急に呼ばれてね。会うのは半年ぶりくらいかな~って思って会いに行ったら、実験部隊に付いていけ。そこの指揮下に入れ、って言われたわ」


「えっと……それだけ、ですか?」


「うん。それだけ」


 フラウと会話していたアリスが、うん、と一つ頷き、俺のほうへと顔を向け、


「あの、マリア様。フラウ様ってもしかして、ひどく冷遇されていたのでは……」


「わたくしもそんな気がしてきましたわ」


「あの部隊の目的は生徒たち以外に、フラウを秘密裏に殺すことも含まれていたんじゃないか?」


 と、リギアも追い打ちをかけてきた。


「違うから! そんなことないから!」


「でもフラウ、貴女、兄妹仲はひどく悪かったのではなくて?」


「え、な、なんで知ってんの……?」


 フラウの疑問にはリギアが答えた。


「武勲を考えれば、次期国王に最も近いのはフラウだろうからな。我が国(うち)ではお家騒動はあまり起きないが、グリプスでは激しく争っていると聞く」


 そう、リギアの言うことは正解だ。


 まぁ、リントヴルムで後継者騒ぎが少ないのはゲーム的な都合もあるんだけどね。


 高位貴族の子息とラブロマンスを楽しんでいたら、突然後継者争いで血で血を洗う家臣を巻き込んだ兄弟喧嘩が勃発! なんて展開は見たくないだろ?


 その一方で、割を食ったのがグリプスだ。リギアの言った通り、フラウはエースとして高い評価を得ており、その武功に対抗するために、フラウの兄弟姉妹は戦争でポイント稼ぎをしようとボス敵(ネームド)として出てくるんだよな。


 まぁそいつら全員、資金と経験値になるんだけど。


 リギアの言葉は続く。


「将軍のフラウにすら知らされていないとなると、あの部隊はいずれかのグリプス王族の下で設立された可能性が高い。その前提で考えれば、フラウに重要な情報が伝わっていないのも納得がいく。言い換えれば、対フラウのための部隊なのだからな」


「フラウ、改めて確認しますが、心当たりはありませんの?」


「……めっちゃあります」


「例えば、どのようなことがありました?」


「上のお兄様から『国境を任せられるのはお前しかいない』と言われて王都を離れることになったり、アタシの部隊の騎乗士(キャバリエ)が原因不明の爆発を起こして大量の死傷者が出たり、アタシの誕生日にケーキを毒見した子が毒で死んだり……」


「……貴女、よく今まで生きていられましたわね」


「というかお前が死んだことにされたのも、他の王族の仕業かもしれんな」


「ああクソッ! だんだん腹が立ってきたわ……! お姉さま! あいつらと戦う時が来たら教えて頂戴! 何発かぶん殴ってからどてっ腹に風穴開けてやらなきゃ気が済まないわ!!」


 フラウの言葉にリギアは呆れた顔で、


「……捕虜を戦わせられるわけないだろ」


 と言ったが、


「今はゴルディナー家の次女なんだから問題ないわよ! フラウ・グリプスは死んだわ!」


 と鬼の形相で反論した。そこにアリスが、


「そうは言っても実のご兄弟では……」


 というが、


「アンタ何聞いてたのよ!? 王族なんて切った張ったが当たり前なんだから! アタシはアタシの命を奪おうとするやつに容赦はしないわ!!」


 と、断言した。


 ―――妙に貴方に懐いていると思いましたが、フラウ様の姿勢がそういうことでしたら納得ですわね。逆に言えば、庇護してくれる方には恭順するというわけですもの。


「あー、まぁ、機会がありましたらね」


「言質取ったわよ、マリアお姉さま!」


「……いいのか、マリア?」


「こちらもまだ飛行戦力が足りませんもの。自分からやると表明してくれたのですから、逆に都合がいいですわ」


「まぁ、それはその通りなんだが。裏切ったりする危険とか」


 そこまで言ったところで、俺はリギアの唇に指を当て、そこから先の言葉を止めさせた。


「大丈夫ですわ、リギア様。その懸念、アリスの話を聞いていれば、杞憂であると分かりますわ」


「ちょっとお姉さま、今はまじめな話をしてるんだから、いちゃつくのは後にしてくれない?」


「ええ、ごめんなさいね。それで、何の話だったかしら」


「グリプスへ反撃が出来ない、という話ですね。あ、それと、さっき問題は三つって言いましたけど、四つに訂正します。二つ目は、フラウ様が思ってたよりも役t、……いえ、情報を持っていなかったことです」


「アンタ今なんか言いかけなかった?」


「聞き間違いかと思います、フラウ様。話を進めますね。続けて、三つ目の問題を話したいと思います」


 それは、


「タイムリミットの存在です」


 そう言った。


「グリプスはフラウ様バリアーで」


「……待て、特待生。なんだ、その、フラウバリアーというのは?」


「あ、もしかしてリギア殿下はご存知ありません? ほら、子供のころに鬼ごっことかでやりませんでした? バリアーって言って」


「いや、それは分かるが。なぜここでバリア?」


「いえ、いちいち喪に服したとかいうのが面倒ですし。それに実際にはこの通り、フラウ様はご存命なわけですし、あまり直接的な表現をするのもなぁ、と思った次第でありまして」


「……そうか」


「リギア殿下にもご理解いただけたところで続けますね。グリプスはフラウ様バリアーで無敵なのですが、マリア様がおっしゃった通り、このバリアーは1年しか持ちません。そしてバリアーが消えた瞬間、リントヴルムが報復に出ることは明らかだ、とグリプスは考えるはずです」


 フラウが自分の名前が付いた技の名前を言われるたびに、むず痒そうな顔をしていた。


「ですので、フラウ様バリアーが消える前までに、戦力を整えたグリプスが再侵攻していることが予想されます。こちらは、それまでに迎撃態勢を整えなければなりません。つまりこれが、新型騎乗士の開発に使えるタイムリミットです」

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