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5 いつか赤く染めたい

 翌日、朝一番でレナード王子の馬車がやって来ました。


 未来の王妃を見送るために子爵夫妻と使用人たち全員が屋敷の前に集まっていました。

 その中にサラの姿はありませんでした。


「ねえ、サラお姉ちゃん知らない?」


 使用人たちに尋ねてまわるコナーに答えてくれる者はありませんでした。


 馬車から降りてきたレナード王子の姿を見て子爵夫人と使用人の女性たちは溜息を洩らしました。

 王子はレース模様のベールを頭からすっぽり被った子爵令嬢をエスコートしました。

 花嫁は慎ましく口を閉じていました。


 馬車が動き出し、アニ家を後にしました。




 花嫁は過ぎていく窓の景色を見ながら細い指にはめたシルバーの指輪を撫でました。

 やがて小道から大通りに出ると彼女は頭のベールを無造作に取り去りました。


 隣に座るレナードは微笑んで言いました。


「やっと会えたね僕のプリンセス。随分、探したよ」


 サラは憤慨して答えました。


「探したですって? あなたはヴァーバ王宮でさんざっぱら持て成されながらただ待っていただけでしょう」


 相変わらずの婚約者にレナードは形だけの謝罪をしました。


「まあまあ……そんなに怒るなよ。これでも僕なりに頭を働かせたんだよ。ヴァーバに逃げ延びたという情報は掴んでいたが何せヴァーバは広いからね。周囲にそれと気づかれないようにしながら探すのは手間だ。だが、きみの方で僕を見つけるのは簡単だろ? 僕がきみ以外の花嫁を娶るとなればそっちから出てきてくれると思ったのさ。きみはただ待っているだけの女ではないから」


 「よく言うわ」とサラはそっぽを向きましたが、長い付き合いから彼女が本気で怒っているわけではないのをレナードは知っています。


「ところで、罠にかかった赤毛のウサギはどうなったのかな?」

「何のことかしら? ……ああ、でも、盗みを働いた女中なら追い出しましたよ。天涯孤独で身を立てる才もないから娼婦にでもなったんじゃないかしらね」

「なるほど、皮を剥いで売ったのか」



 最初の課題は北方の数え歌。

 出てくる動物によって歌い手が北国の中でもどこの地域の出身かが分かります。



 今朝、主人の部屋でサラを見たマギーは目を丸くしました。

 リリーのように振る舞うサラに彼女が驚いたのは一瞬のことで、何も言わず着替えの手伝いをすると頭から厚手のベールを被せました。


 マギーにとって大事なのは仕事を滞りなく遂行することであり、誰が主人でも関係ありませんでした。

 彼女は昨夜リリーを捕えるようサラに命じられたルースと同様に沈黙することを選んだのです。

 娼館に売られた妹を買い戻したいルースにはたんまり給金を与えました。



「いつ私だって分かった?」

「馬の腹からドングリが出てきたときだ。あれはひどい。僕が子供のころ可愛いがっていたポニーがドングリで中毒死したことを知っているくせに。僕にこんなひどいことをする女は他にいない」

「あら、あなたこそあの手紙は何? ”()()の姫君は()()()()?”」

「クスッと笑ってくれたらいいなと思ったんだよ。どこかで身を窶して頑張っているだろうきみへのエールだよ。ちなみにネイサン伯爵令嬢は”()()()()は元気で()()()()?”って返事をくれたよ。なかなか見どころのある娘だ」



 二つ目の課題も北国に関するものでした。


 一年の半分を雪に覆われて過ごす北国では冬の間、手仕事をして過ごすのが普通です。

 秘密箱もよく作られます。

 北の王侯貴族はしばしば他人に見られたくない手紙を緻密な細工が施された秘密箱に入れて送り合っています。



 そして三つ目の課題――。



「二つ目の課題がクリアされた時点できみがアニ家にいるのはほぼ間違いないだろうと思っていたけれど、白いバラで確信したね」

「リリーはバラは黄色だと思っていたわ」

「確かに黄色で正解だ。物語に従うならね。しかし、きみは白バラにすると思っていたよ」


 それでこそ僕のパートナー。


 そんなレナードの視線にサラは笑みを返しました。



「子爵の娘は相手が悪かったね」

「慢心に足元を掬われたのよ。私も他人のことは言えないけれど」



 過去の栄光にしがみつき、お高くとまった東ジチヤンの貴族にまさか北国の冬山を行軍する度胸と体力があろうとは……。

 サラもその家族も歴史という確固たるプライドを持った貴族の底力を侮っていました。



 サラ――戦火を逃げ延びたカカの王女はもう一度、細い指にはめた指輪を撫でました。



 彼女の国と家族を奪った東ジチヤン家は白いバラを紋章に掲げています。






「いずれ赤く染めるわ」

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