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麗龍学園生徒会~extra story~  作者: 穂兎ここあ
Route:楠原圭 そばにあった恋物語
20/20

#20

 季節は冬。受験を終えて、あとは合格発表を待つのみとなった。

 その日、圭は高校の卒業式を迎えた。


「みんなで同じ大学行けるといいな」


 仲良しの2人と写真を撮って、圭は告げる。

 一生懸命勉強したかいあって、圭は前期試験にたしかな手応えを感じていた。竜司も同じく、不安はあるけれどあとは結果を待つのみという感じだ。

 透は最後の模試でやっと合格圏内に入ったこともあり、不安だらけの様子。

 けれど、この3人でいる時間が、ここで終わるようには思えなくて。

 また3人でこうして大学でも笑っている未来が、圭にも想像がついた。


「サッカー部のやつらがあっちで集まってるってよ。行こうぜ」


 透が卒業証書を片手に、レッツゴーと1人駆けていく。突っ走っていく透を見て、圭と竜司は笑いあった。


「……竜司」

「なに? さっさと行かねーと、透がうるせーぞ?」


 竜司は透の後を追おうとする。けれど圭は、竜司に伝えたいことがあって、その場に立ち止まったまま。

 まだ咲かない桜の木をじっと見つめ、圭は竜司に告げた。


「俺、芽榴姉にもう一度気持ち伝えたんだ」


 受験勉強のあいだは、迷惑をかけないように、言わずにいた。でももう、受験の山場は過ぎて、今なら竜司にも伝えられる。


 竜司には、ちゃんと伝えなきゃいけないと思った。


「それで、芽榴姉が受け入れてくれた」


 言葉にしたら、やっぱりそれが嬉しくて、圭の頰は切なく緩む。異常なほどに芽榴のことしか好きになれなくて、何度も何度も壊れかけて、そうしてやっと伝わった気持ち。


「そっか」


 竜司は短い返事を残す。続きの言葉を、竜司は考えているみたいだった。

 安易に祝福できない。それが圭と芽榴の恋。

 でも圭はそれでいいと思ったから。それでも芽榴と一緒にいられる未来が欲しかったから。


「よかったな、圭」


 竜司が複雑そうな顔で圭にそう言った。本当は他にも言いたいことがあるのだと思う。けれど、竜司は圭がどれほど芽榴を想っていたか知っているから。


「お前が幸せそうな顔してる。だから、これでよかったんだなって、俺も思えるよ」


 それだけで十分。最高の祝福の言葉だ。


「ありがとう。……俺、お前が友達でよかった。これからもよろしく」

「こっちこそ。圭は俺の自慢の友達だよ」


 2人で笑いあって、圭と竜司はうるさくはしゃいでるチームメイトたちのもとへと走った。




☆★☆




 それから数日経って、合格発表の日が訪れた。

 圭は見事志望校に合格。竜司も透もそれぞれの志望校にちゃんと合格したみたいだった。

 春からまた、3人一緒に大学に通えることになった。


 そしてもちろん、芽榴も志望校に合格した。


 だからその日は、圭の卒業祝いも兼ねて、家族でお祝いだった。

 久しぶりの外食。

 いいレストランに行くからと、芽榴も圭もいつもより綺麗な格好をさせられた。


「おめでとう。圭、芽榴」

「ありがとう、父さん」


 重治と真理子はワインで、圭と芽榴はジュースで乾杯をする。


「おめでとー、圭」

「芽榴姉こそ。合格おめでとう」


 家族での乾杯の後、2人でもう一度別の乾杯をした。

 みんなの祝福の言葉が嬉しい。でも、芽榴からの言葉はやっぱり格別だった。




☆★☆




「はぁ、お腹いっぱい」


 たくさん美味しいものを食べて、夜の遅い時間に家に帰ってきた。

 そのままお風呂を済ませて、重治と真理子は就寝。芽榴と圭も二階に向かった。

 いつもなら、そこで2人は別の部屋に向かう。


 けれど今日は、芽榴が圭の部屋にやってきていた。


「圭、改めて卒業おめでとう。それと、合格おめでとう」


 圭の隣に座って、芽榴が笑顔でその言葉をくれた。両親の前でもくれた言葉を、改めて2人の空間で告げてくれる。


「ありがとう。芽榴姉も合格おめでとう」


 無事に、2人の受験は終わった。

 つまり今日は、半年前に約束したご褒美がもらえる日。

 だからこそ、芽榴は今日、圭の部屋に来ていた。


 正直言って、今日は一日ずっと、圭はそわそわしていた。食事をしているときもずっと、心が落ち着かなくて。芽榴の笑顔を見るたびざわつく心をどうにか鎮めようと必死だった。


 芽榴が部屋に来た今、圭を止めるものは何もない。もう、限界は過ぎている。


「芽榴姉」

「ん? わっ」


 圭は芽榴の腕を引いて、芽榴のことを抱きしめた。前置きに何の言葉もかけられないまま、芽榴のことを腕の中に抱いて、圭は苦笑する。


「ずっと、芽榴姉とこうしたかった」


 芽榴の香りを胸の中に抱いて、あの告白の日のことを思い出す。あれから半年、芽榴とは手を握ることしかしていない。

 頑張って、頑張って、そうしてやっと、芽榴に触れることができた。


「……我慢してよかった」

「圭、頑張ったもんね」


 芽榴はよしよしと圭の頭を撫でてくれる。存分に甘やかしてくれる。それは嬉しいのだけれど、芽榴の余裕そうな態度が少し不服だ。


「芽榴姉は、俺に抱きしめられても……嬉しくない?」

「嬉しいよ。……とっても」


 でも圭と同等には喜んでいない気がする。それは当然だと思うし、欲張りなことは考えてはいけないとも思う。

 それでも、不安なのだ。芽榴が本当に圭のことを好きなのか。圭のことを受け入れてくれているのか。


 本当は、無理をしているのではないのかと。


「芽榴姉さ……」

「うん」

「あの日……俺に、キスしてくれたよね」


 圭がそう問いかけるも、芽榴は反応しない。急に返事をしなくなった芽榴を不思議に思って、圭は少しだけ芽榴の顔から胸を離す。

 そうすれば自分の腕の中で顔を赤くしている芽榴が見えた。


「芽榴姉、顔あか……」

「見ないで」


 芽榴は自分の顔を両手で覆ってしまう。


「かわいいから見せてよ」

「そういうこと言わないの」

「なんで? もう、こういうこと言ってもいいだろ?」


 想いが通じあった今、もう言葉を選ぶ理由はない。

 これはただ、芽榴が恥ずかしがっているだけ。

 その姿が可愛らしくて、圭は芽榴を抱きしめる腕に力を込めた。


「苦しいよ」

「ご褒美。……芽榴姉のこと、もっとちゃんと感じたい」


 圭はそんなワガママを口にして、芽榴のことをギュッと抱きしめる。苦しいくらいに、芽榴のことを抱きしめて、それで自分の想いが全部伝わってくれと、願う。


「あのときさ……まさか、芽榴姉がキスしてくれるなんて思ってもないから。動揺して、正直嬉しすぎて、ほとんど何も考えられてなかったんだけど」


 圭が話を戻すと、芽榴は「まだその話するの?」と不服そうな声を出した。それもかわいくて、圭の頰が緩む。

 こんなにもかわいい芽榴からのキスは、本当に嬉しかった。でも同時にずっと引っかかっていた。

 圭はそのことを考えて、ほんの少しだけ表情を曇らせる。


「芽榴姉のファーストキスって、誰?」


 考えないようにしようとすればするほど、モヤモヤしてしまうのだ。

 芽榴があのときキスをしてくれたのは、おそらく圭が初めてではないからだろうと。


 圭のことが好きだったのだとしても、初めてのキスをあんなふうに勢いでできるとは思えない。


 誰かとキスをしたことがあるから、圭にもしてくれたのではないかと。圭はずっとそれを考えていた。


「別に、言いたくなければ……」

「……圭だよ」


 言わなくてもいい、そう告げようとした圭の耳にまさかの言葉が返ってくる。圭は「へ?」とマヌケな声をあげた。

 対する芽榴は顔を赤くしたまま、「もうこの話終わり」と圭の胸に顔を埋める。


(そういうのかわいいけど……待って)


「俺が初めてって、あれ芽榴姉のファーストキス?」

「だから、もう、その話終わりって」

「やだ、終わらせない」


 あれがファーストキスならなおさら知りたい。どうして圭にキスしてくれたのか。キスをする理由なんて、聞かなくても分かるけれど、どうしても芽榴の口から聞きたいのだ。

 圭の押しに負けた芽榴は、圭の胸から顔を離さないまま、こもった声で本当のことを教えてくれる。


「私……圭にひどいこと言ってアメリカに行ったのに、それなのに圭は私のこと好きなままでいてくれたって」

「うん」

「……本当に私のこと好きなんだって、そう思ったら、もうどうしようもなく嬉しくて……また圭が好きって言ってくれたのが嬉しくて……」


 気持ちを止めることができないまま、圭にキスをしたのだと芽榴は告げた。最後はほとんど聞こえないような声で。


 芽榴の恥ずかしがっている姿が、圭の背中に回す手が、すべて嘘ではないのだと。芽榴の気持ちは本物だと、伝えてくれる。


(……やばい)


「マジでなんなの、それ。……かわいすぎだろ。芽榴姉、俺を殺す気なの?」

「もう……何言ってるの」


 冗談のように聞こえるかもしれないけれど、芽榴の発言のせいで圭の心拍数はこれ以上ないくらいまで上がっている。

 本当に壊れそうなくらいに、圭の心臓は音を鳴らしていた。


「じゃあ……さ。俺とキスするの、嫌じゃないよね」


 今さら嫌だと言われても、もう止められないのだけれど。

 圭は一応の確認を取る。芽榴は顔を上げずに、こくりと頷いた。


「……顔、あげてよ。芽榴姉」

「恥ずかしいの」

「でもそれじゃあ、キスできない」


 そう告げると、もっと恥ずかしくなったみたいで、芽榴がより一層、圭のことを抱きしめた。


(自分はかっこよく俺のファーストキス奪ったくせに)


 本当に、いつもいつも芽榴が圭よりかっこいいことをしてしまう。男なのに、圭は芽榴にいいところが全然見せられない。


 だから今日くらいは、圭を男にさせてほしい。


「今度は、俺からちゃんと芽榴姉にキスしたいんだよ。……お願い、顔上げて」


 優しい声でお願いすると、芽榴は圭の胸から顔を離してくれる。けれどまだ俯いたまま、顔は上げてくれない。

 芽榴も嫌がってはいないのだから、もうこれは実力行使あるのみだ。


 圭は芽榴の頰に手を添えて、そのまま芽榴の顔を上向かせた。


「芽榴姉、好きだよ」


 ちゃんと想いを告げて、芽榴にキスをする。

 ファーストキスは驚きのあまり、味わうことすらできなかった。

 だから今回は、しっかり芽榴を堪能する。


「……圭。私も、好きだよ」


 想いが返ってくることが嬉しくて、圭は芽榴の唇から離れられなくなる。囚われたみたいに、芽榴の唇に吸い付いて。


(このまま、俺死にそう)


 キスをして、もっともっと芽榴が欲しくなる。心臓は芽榴とのキスでもう爆発寸前にまでなっているのに、身体が芽榴を求めてやまない。


「芽榴姉……俺、いっぱい我慢したから」


 気づけば芽榴のことをベッドに押し倒していた。

 我慢に我慢を重ねて、解き放たれた結果はこれ。

 自分の情けなさにため息が出るけれど、もう後には引けないし、引きたくもない。

 そんな圭のことを、芽榴は優しい顔をして見つめ返してくれた。


「うん。だから……いいよ。圭の好きにして」


 圭の考えも全部見透かして、芽榴が妖艶に笑う。

 本当にずるい。どうしようもないくらいかわいくて、たった一言で、圭の心をどこにも行けないように閉じ込めてしまう。


「……悪いお姉ちゃん」


 そう口にして、圭は芽榴にキスをした。




 この先に、どんな未来が待っていても、圭は絶対に後悔しない。


 自分がどれほどの不幸を背負うことになっても、芽榴のことだけは幸せにしてみせる。

 芽榴の笑顔は、絶対に守ってみせるから。


 だから、芽榴と一緒にいる未来だけはどうか奪わないで。


 そう神様に祈りながら、圭は愛しい芽榴の名を何度も何度も、口にした。


 まるで、今も、これからもずっと、自分の腕の中に芽榴がいることを、確かめるみたいに。


「……愛してる」


 言葉以上に、心から。

 そうして圭の初恋は、永遠の愛に変わった。




【Route:楠原圭 そばにあった恋物語】




圭、幸せになれ。

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[一言] 圭君幸せになってよかった―――――――
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