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北部方面隊奮戦記  作者: 松ちゃん
12/17

11話 脅威

大変長らくお待たせしました。今日より再開いたします!

半年ぶりなので、あらすじを書きました。簡単に思い出していただければ幸いです!


【あらすじ】

 現代の演習場からダウンフォール作戦が行われている千葉県にタイムスリップした陸上自衛隊の第7師団と第2師団。近くに配置されている第201師団の眞田大佐と出会い、現在置かれている状況を知る。

 責任者である秋沼はあまり戦闘に関与しないように浦和に移動する気であったが、数度の衝突と戦闘、そして隊員が“戦死”した事により、第201師団と協力して米軍と戦う事を決意する。その際、第36軍の兵力吸収にあいそうになるが回避。どの軍にも属さない象徴として、合同戦闘集団として「独立混成第27師団」へと改名した。


 そして今、哨戒に出ている松本率いる第71戦車連隊2個中隊が米軍と衝突しようとしていた……。

 翌朝。


 秋沼の指示により拠点周辺に塹壕などの防衛設備の建設を始めた。

 といっても簡易的なものだが、少なくとも自分たちの身を守る為の作業だ。簡単な構造でも時代が違う。向こうからしたら難攻不落の要塞のような陣地だ。


 87式自走高射機関砲は温存する必要がある。米軍の艦載機は多く、陸軍機までもがここまで飛んで来るのだ。それらの相手をしなければ戦車隊がやられてしまう。

 前面装甲こそこの時代からしたら無敵の装甲だが、後部、側面、上面はやはり弱い。側面まだしも、上面と後部を突かれたら痛い。


 201師団の重信中将も味方に加わってくれている。彼ら歩兵部隊と協力した戦闘が出来るのならば何とも心強い。我々はどうなるかわからないが、日本軍の白兵戦は強い。

 そこに正確無比の特科連隊の砲撃に加えて戦車による突撃。怖い物なしである。

 だが油断は禁物だ。秋沼はそれを意識しながら作業の指揮を取り続けた。




 眞田大佐が秋沼の下を訪れたのは71連隊本部と1中隊、普通科2個中隊が哨戒に出発してから30分後であった。

 

「いやぁ、突然お伺いして申し訳無いです。」


「いえ……それより、何かありましたか?」


 眞田大佐の目の前にお茶が置かれる。


「はい。師団閣僚会議の結果が出まして、その報告に参りました。」


「はぁ。それで? どうなったのですか?」


 秋沼が少し身を乗り出して質問する。


「我々201師団は独立混成第27師団の指揮下部隊となり合同作戦を取るべきという結論になりました。一応我々は現役師団です。砲兵もいれば戦車部隊もいます。それなりに戦い方は知っておりますつもりですが……」


 その場に居合わせた上野は難しい表情を作る。


 本来201師団は決号作戦に備えて急増された師団であり、様々な戦場を駆け抜けてきた現役師団ではない。

 本土決戦第二次兵備として編成された8つの機動打撃師団のうちのひとつであり、確かに砲兵部隊(野砲兵第216、迫撃第216連隊、第201師団速射砲隊)はいるが戦車部隊はいないのだ。

 ここまで史実と違うところが出てくるとますます今後が読めなくなる。いや、そもそもこの戦いが起きている時点でおかしいのだが。


「失礼ですが、戦車は……?」


 眞田大佐が上野に答える。


「はい。我々が創設されて3ヶ月後に増援部隊として優先的に三式中戦車48両と四式中戦車37両、一式中戦車21両を装備した戦車第3連隊が配属しております。」


 秋沼と上野はこれに感心した。


 三式中戦車は知っている。三式中戦車は攻撃力、防御力共に一式中戦車よりも強化された戦車だ。だが四式中戦車とは……?


「松本は?」

「さっき哨戒に。」


 秋沼はため息をついてしまった。


「あの、何か?」

「いえ。この時代の兵器に詳しい奴がいましてね。そいつが哨戒に行ってるもんですからタイミングが悪くて。」


 眞田大佐は秋沼と顔を合わせると微苦笑した。




「1-6より01。敵戦車部隊視認。数凡そ80両。」

「01了解。全車遊撃体制、普通科は現在地で待機。」


 松本は普通科に待機を命じる。戦車の全力戦闘に脆い味方部隊がいてはかえって足手まといだ。

 本来の戦車戦は歩兵と連動して行うものだが、この世界では違う。戦車だけでもカタがつくのだ。


「師団長より攻撃命令は出ている。良いか、許可ではなく命令である。その事を胸に戦闘を行え。同情するな、これは戦闘である。各員、用意。」


 松本が無線で指示を飛ばす。これまでの戦車隊員は少しばかりの実戦の中でその考えと意識を変えた。


 殺らねば殺られる。


 こんな簡単な事を何故理解出来なかったのだろうか? それを理解した彼等は最早隊員ではない。兵士だ。


「01より全車。敵との距離1000、撃て。」


 端に展開していた90式が発砲。狙われたM4は砲塔を空高く舞い上げて爆発した。


 同時に10式4両が飛び出す。90式よりも優れた加速性能と速力、そして74式の2倍の速度を誇る砲塔旋回性能。そして高い情報能力。

 しかも幸いな事にここは森から出た平原。その能力を発揮するには申し分の無い戦場だ。


「本部戦車縦陣。砲塔左旋回、照準。」


 恐ろしく速いスピードで土を巻き上げながら走る10式の砲塔が80両近い戦車群に向けられた。


「撃っ」


 短く号令。同時に鳴る砲撃音。そして素早く急旋回。スラロームを繰り返しながら敵砲弾を回避する。


「敵車両4両撃破。次目標定め。」


 装填を終えた10式がスラロームする。


 この行為を見て米軍戦車兵は誰もが「まさか……」と思っただろう。

 だが、そのまさかを可能にしたのが10式である。


「撃っ」


 旋回しながらの砲撃。全ての砲弾がM4に吸い込まれ爆発した。10式の十八番、スラローム射撃だ。

 90式は確かに行進間射撃が出来るが、スラロームしながらの射撃が出来ない。それを可能にしたのが10式なのだ。


「なんなんだ奴ら! ジャップの戦車には勝てねぇ!!」


 悲鳴を立て続けに上げた戦車兵はバックにギアを入れる。戦車は次々に後退を始めたのだ。無論、部隊長の戦車は最初の一撃により潰されている。

 だがそれを止めたのが90式だった。


 90式が行進間射撃を5両1隊となって実施。まさに追撃しながらの撃滅戦となっている。


「01より全車、追撃中止。帰還する。」


 結局、この戦闘で基地に生還できたのは11両だけであった。それに比べて松本らの部隊での損害と言えば90式に帰り途中で木の枝にぶつかりかすり傷が出来た程度であった。


     ――――――――――――――――


 松本の報告を聞いて秋沼は無言で頷く。


「松本。戦闘を行うのは現地指揮官である君の判断でもあるし何より私がそう命令を出したのが大きい。だがな、一方的な虐殺を行うのは違うぞ? そこをしっかり理解しているか?」


 松本は直立不動で答える。


「理解しています。」

「そうか。」


 秋沼は懐からタバコを出し松本に勧める。秋沼は自衛隊に入ってから20数年間もの間愛用しているに火をつけた。中身を見るとあと12本しかない。


「大事に吸わないとな……」

「良いんですか? 頂いても。」


 秋沼は笑顔で答える。


「初めての本格的な実戦だ。思考も落ち着かなくなるし、誰でもストレスを感じる。タバコは心許ないが、他にストレス発散方法が無いだろう。今の内に味を染み込ませておけ。」


 秋沼の配慮に松本は感謝しながら受け取る。火を貰い、ゆっくりと吸い始める。

 外では小山田率いる72連隊が哨戒に向かうところだった。




 米軍司令部ではクルーガーの怒声が鳴り響く。


「ジャップのモンスタータンクをどうにかしてくれとこっちは言っているんだ!! それをなんだぁ? 貴様ら陸軍の管轄だとお前らは言うのか! このクソッタレがぁ!! だったらマニラに持って来たT-28を持って来いと記者共にポーズを取っているダグラスに伝えろ!!」


 クルーガーは無線機を壊れるのではという程の勢いで置いた。


 先程の戦闘の生存者である戦車兵から聞く限り、本来対ドイツ軍兵器であったT-28超重戦車以外に対抗手段が無いと判断していた。

 だがあれは量産が計画されていた訳でもない為、無意味に国力を見せ付けるためかマッカーサーが4両をマニラに持って来ているのだ。


 M26パーシングをもちろん持って来ているのだが、動き回りながら砲撃する平べったいモンスタータンクに敵うかどうか怪しいところである。それでもあのモンスタータンクをどうにかしなければこっちの損害ばかりが増えていく。

 幸いモンスタータンクはここ千葉の九十九里浜付近にのみ確認されている。イバラギ付近から上陸した部隊を後ろに回り込ませて包囲する方法もあるが、そんな事をして損害を増やすよりは航空機のほうが早いのである。


 ダグラスの奴、さっさと来いってんだ……!


 内心で悪態をつきながら作戦地図を見直した。




「モンスタータンク?」


 第3艦隊のハルゼーがコーヒーを飲みながら尋ねる。


「はい。そいつらに相当やられているようでして、かなりの数の上空支援が来ています。」

「なら何故出さない? マッカーサーの奴が出さないなら俺が出してやる。さっさと準備させろ!」


 ハルゼーは語気荒く命令する。

 第5艦隊はマッカーサーが最高指揮官という事もありマッカーサーの命令によって航空機を限定的ながらも飛ばしていた。しかしそれは殆どが歩兵部隊の方に回され、肝心の戦車部隊には回されていなかったのだ。

 これを知ったハルゼーは激怒。すぐさま爆装、ロケット弾を装備させたF6F-5を多数発艦させた。続く支援要請の為に上空旋回もするため発艦したのは96機と、27師団からしたら驚異的な数である。


 それを受け止めようとする脅威が、戦闘準備を整えようとしたいた。




 陣地構築が完了した高射特科は数ある対空兵装を上空に向けて睨み続けた。


 各高射特科部隊が装備する兵装及び部隊編成と配備数は次の通りである。


第7師団

・第7高射特科連隊

  第1~第4高射中隊

   87式自走高射機関砲×32両

  第5、6高射中隊

   81式短距離地対空誘導弾×20両


第2師団

・第2高射特科大隊

  第1高射中隊

   93式近距離地対空誘導弾×8両  

  第2高射中隊

   81式短距離地対空誘導弾×10両

  第3高射中隊

   87式自走高射機関砲×8両


第1高射特科団

・第1高射特科群

  第301高射中隊

   93式近距離地対空誘導弾×8両

  第302、303高射中隊

   81式短距離地対空誘導弾×20両

  第304高射中隊

   03式中距離地対空誘導弾×10両


・第4高射特科群

  第315高射中隊

   93式近距離地対空誘導弾×8両

  第316、317高射中隊

   81式短距離地対空誘導弾×20両

  第318高射中隊

   03式中距離地対空誘導弾×10両


 合計すると87式40両、81式70両、03式20両、93式24両とかなり強力な編成と装備である。

 それだけ実施する予定だった演習に力を入れていたことがわかる。存在感が大きいのは87式自走高射機関砲であろう。


 この車両は74式の車体を流用しており、砲塔の左右に35mm機関砲を装備。砲塔上部の後方にパルス・ドップラー方式の索敵レーダーと、追尾レーダーが配置されている。

 後上方の水平棒状のものが索敵レーダーのアンテナ、前を向いた皿状のものが追尾レーダーのアンテナで、これらの装備を用いた戦闘を行う。機関砲は威力、射程、命中精度が高くなっている。


 81式短SAM、03式中SAMも対空誘導弾としてかなりの期待が込められている。しかし演習では87式の方の弾薬を多く持って来ており、あまり頻繁には使えない。もって3回戦分だと言われている。

 特に03式は装備しているコンテナ1基分(6発)しかミサイルが無い。つまりは中SAMの弾数は120発しかないのだ。これは切り札としてとっておく必要がある。


 戦車も地味だが砲弾を減らしてきている。積極的に戦闘に関与する様になったが、砲弾の節約は命令してある。もしもの時に備えておかねばならない。

 燃料もそこまであるわけではない。大規模演習の予定だったから多くあるものの、師団が全力戦闘を行えば3回戦で恐らく全力戦闘は困難になるだろう。


 


「全車停止。」


 小山田の乗る10式を先頭に全車が停止する。


「おい小嶋。ありゃあ、重戦車か?」


 小山田が言っているのは、M4と一緒に行動している一際大きな戦車だ。主砲先端のマズルブレーキが特徴的なM26パーシングである。


「松本連隊長に聞けばわかると思いますが、少なくともM4よりは大きいですね。」


 小嶋もモニターを見て判断する。


「全車に警戒態勢。発砲用意かかれ。」


 32両に緊張が走る。この世界に来る前に教本で知ってはいたが初めての対重戦車戦。しかも小山田の部隊は初めての戦闘だ。


「距離2000、撃っ!」


 32両の一斉射撃。再び、戦車戦が始まった。


fin

第1高射特科団の編成には気を使いましたが、この世界での運用は機動力を重視しているという設定にしました。


実際の第1高射特科群と第4高射特科群の装備は改良ホークですが、機動力重視なので03式と81式にしました。ご了承ください。


それと、この世界では03式が北海道防空の主力となり、03式の配備は始まったばかり。主力は81式が現役で、ゴールキーパー的役割として93式を近接支援として編成に組み込んでいるという設定にもいたしました。

車両数ですが、ミサイルを運用する車両は発射器を搭載している車両だけの数となります。なのでレーダー車などを含めると膨大な車両数になりますが、それらも全てタイムスリップをしていると思って頂ければと思います。


自衛隊は結構謎が多いので、私の安直的な考えではありますがご理解頂ければと思います。

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