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2-1.

 控え室の外も中も、静かながら慶事を喜ぶ雰囲気に満たされていた。


「良くお似合いですわ……」

 着付けを手伝った修道女がセラの姿に感嘆のため息を漏らす。


 薄青いドレスは惜しげもなく布が使われ、銀糸で蔓をモチーフにした刺繍がほどこされている。冷たいイメージのある青を、柔らかな、女性的な線を描く蔓がやわらげていた。

 髪は貝殻に白百合の彫られた髪留めで纏め上げられ、ところどころに真珠のピンが挿されていた。光を受けると、まるい真珠は朝露のようにかがやいた。


「セラお姉さま、本当に綺麗。お姫さまみたい」

 セラの妹、マリーははしゃぐ声を抑えるように口元を手で覆っていた。

 隣に立っている伯母のソフィアもほう、と息を吐く。

「本当に……あなたはどうなることかと心配していたけれど、安心したわ」

 母亡き後、セラとマリーのことを何かと気にかけていたソフィアは目尻に涙を浮かべていた。


「じゃあ、私たちはそろそろ……」

「先に行っているわね、お姉さま」

 マリーとソフィアが出て行くと、修道女が緊張した面持ちでドレッサーの上の箱を手に取った。

 天鵞絨張りの箱の中には、女王陛下から下賜された青玉の頸飾が入っている。


「お時間です」


 首飾りが胸元を飾り、すべての準備が完了したとき、ちょうど進行役の神官が扉をノックした。時間だ。

 セラは着飾った自分を姿見で一度だけ確認し、扉に向かい合った。


「いってらっしゃいませ」

 控え室の扉が開かれる。

 外にはすでに、白百合の花束を持った男が待っていた。

「準備は」

 男に問われたが、セラは返事を何も返さなかった。

 しかし、男は気にしない。

 沈黙を肯定と取り、セラに一歩詰め寄った。白百合の甘い芳香がふわりと漂う。


「どうぞ」

「……」

 セラは返事をしなかったが、素直に花束を受けとった。

 両手が自由になった男は床に片ひざをつくと、セラの手を取りその甲に恭しく口付けた。


「行きましょう」

 差し出された腕に自身の腕を絡め、セラは大神殿の祭事の間へと進む。

 廊下にも神官がずらりとならび、二人に祝いの言葉を惜しげもなく投げかけた。


「おめでとうございます」

「おめでとうございます」

「おめでとうございます」


 賓客で埋めつくされた祭事の間。

 祭壇で待つのは大司祭。

 誰も彼もが笑顔を浮かべ、二人を祝福していた。


 ――今日はセラの結婚式なのだ。

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