カリン:光なき混沌の色
駅の中に1歩踏み入れる。外のジメッとした暑さと違い、どこか涼しい風が通っていた。
駅に地下があることを知らなかった。真っ暗な中に伸びる暗闇。
その暗闇から見える真っ黒の節。
「やっぱり、ディレージです」
「節には触れない方がいいな」
「水も触れないでください」
装備品は、地上と地下に半分ずつ置いてあるそうだ。
キキョウさんとミリアさんが地上に行き、僕とマリーさんとシャミさんとボルトさんで、地下を見に行く算段だ。
4人は多いのではと思ったが、常に全体を見るならこの人数が良いらしい。
「上は?」
「常に上を見て歩くようなやつがいれば、特例で5人だな?下は?とかは聞くなよ?」
ボルトさんは表情を変えることなく言う。
灯りのない道は、ライトが無ければ本当に真っ暗だろう。
4人分のガスマスクの音と、廊下を歩く音が響く。
黒い節は、壁に張り巡らされているが、対して天井と床は綺麗だ。
「おそらく、さらに地下があるのだろう。余計な反響を拾う可能性がある床には、節を付けて無いようだ」
天井にも節が張ってないのは、地上があるからだ。
時折、節がカサりと動く。その都度マリーさんが小さく反応する。
「リーダー。暗いのは苦手ですか?」
シャミさんが小さく尋ねると、マリーさんはゆっくりと頷く。
「私たちが付いています。頑張りましょう」
細い廊下を抜けると、少し広い所に出た。地下鉄のホームだ。
その線路の通る窪みの所に、やけに派手な色の芋虫が居る。ディレージだ。
身を隠して様子を見る。
「随分と趣味の悪い色ね…子供の落書きみたい」
「まぁ、幼虫だしな」
ホームを挟んだ反対側に、装備が積んである。
「あっちに行くのは、他の道では無理ですか?」
「あそこを見ろ」
鏡合わせになってる向かいのホームの階段は崩れているらしい。まったく都合が悪い。
「正直、ここの装備も諦めるべきだな」
「ですね。1度もど…」
パチンと言う、電球の爆ぜる音。それに驚いたマリーさんが尻もちをついた。
その手が、節に触れる。
「まずい…!」
一瞬にして、出口は節の根に覆われて行けなくなる。マリーさんを掴んで節の手をメイスで弾く。
「参ったなこりゃ…」
「リーダー、怪我は?」
「だい、じょうぶ…ごめん…」
シャミさんはマリーさんの手を優しく握る。ボルトさんは辺りを警戒する。
壁から伸びる節は、こちらの振動目掛けて一直線にやってくる。
「動かないで下さい!」
ピタリと止まる3人を置いて、僕だけ単身走り出す。反響する足音にライトの光が揺れる。
目指す所は反対側、装備の木箱だ。
ディレージの節の手を身一つでギリギリ躱す。線路の上に横たわる。極彩色の楕円形。
その目玉みたいな模様と目が合いそうになり、前を見る。
駅のホームを飛び越えて、砂利道を踏みしめて飛び出す。
反対側のホームに乗り越えて反対側を見た。
尻もちを着いたマリーさんしか居ない。
怯えたマリーさんの視線の先。節の手に握られたはみ出た脚。
直ぐに前に向き直る。助けには行けない。
ごめんなさい。
木箱から1人分の装備を取り出す。その時にはディレージはこちらに興味は無いみたいだが、まだ出口は開かない。
動かないマリーさんは、ディレージにバレてない。
ふと肩を何かが触れた。ボルトさんだ。二人で物陰に隠れる。
「いい判断だ。シャミは諦めろ」
黙って肯定する。その時べキリと音が鳴った。握られているシャミさんの骨の音だ。
「俺はリーダーを起こしてくる。打開案は任せていいか?ベゴニアの弟子」
その言われ方に、少し癪に障る。
「…あの人を助けてどうするんですか?」
そもそも、何故キキョウさんじゃなくてマリーさんなんだ。
こんなに動けない人だと、キキョウさんは知らなかったのだろうか。
「…あんなのでも、顔として立ってることに意味がある。俺なんかよりもよっぽど生きておいて貰わないとな」
「あんなの…」
「まぁ、カリンはこちらを気にせずにやりたい様にやってくれ」
「分かりました」
今の僕に、他のことで悩んでる余裕は無い。
リズを助ける。その為に、今何が必要なのか。
「何にしろ、今俺たちはここから出ることが第1目標だ。それは同じだ」
「…分かってますよ。そんな事」
マリーさんは、まだ動かない。本当に、あんなのがリーダーなんて。
そう愚痴っては居られない。元から、この世界のどこに期待できるような場所があったと言うのか。
ガスマスクを外していてゆっくり息を吸う。
視界が良い。
「ガスマスクIV型」
黒船の呼吸器を踏襲した新しいガスマスク。
空気ボンベを必要としておらず、空気汚染を弾く専用のフィルタの充電式で稼働する。
ユウト達が以前の遠征で兵士の死体から呼吸器を回収し、それをハヅキが使いやすいように改造されている。




