禁忌
残されたコミュニティの人々は、合計約100人。
その中で渡米を決めたのは40人。子供全員を含めた残る組は60人だ。
髭を触るアジサイは、あまり良い顔をしない。
「…なるほど。結局、別れて行動するのですね」
「そうだな…その方が都合がいいのも事実だ」
マリーの方は、残る組の安全確保をして、ジニアの方は渡米する組を海まで誘導する。
「で、ベゴニア君は海まで誘導する方なんですね」
「そっちの方が危険が多い…だから…」
「いいえ、言わなくても良いですよ。心中お察しします」
アジサイの顔は笑っているが、その目はとても柔らかいものではなかった。
それは僕に、というよりも、こんな事で揉めてぐちゃぐちゃになってる僕らに向けてだった。
「僕も残ります。ベゴニア君たちが何時でも帰って来れるように。またレストランでも開きますよ」
レストランの事を話すアジサイは、いつもの優しい目をしていた。
彼は、古参から一歩引いた男だ。故に彼は、僕らを俯瞰で見ている。
それと同じくらい、彼は僕らとは違う所を見ている。
「…アジサイにとって、ヒマワリってなんだ?」
聞いてみたくなった。思わず口に出した。
アジサイは真顔で、僕の頭にチョップをする。
「いてっ」
「…そういう所ですよ?ベゴニア君」
アジサイは。柔らかいようで、その薄く開く目で僕を見る。
「君は、周りに流されて満足しなかった。だから今、不貞腐れたみたいな顔をしている。だからみんなにそう思われてしまう。そうでしょ?」
「…そうか、そんな顔をしてたか」
「悩むなら動く。決めたなら、真っ直ぐ行くほうがいいです。その方が、君について行く人も安心出来ますから」
「…やっぱり、アジサイはすごいな」
「いいえ?僕は、自分が何を持ちえないのか分かっているだけです。あなたほど拾えた物はありません。戦わない選択をして、負けないようにしているだけですよ」
「…でも、自分でもわかってるよ。ヒマワリを追いかけるのは後だ」
「ベゴニア君は、今は渡米される方達をよろしくお願いします」
「了解した」
人々が別れる中、ルンクとヴィンとフジは別に動いていた。
「ルンク?」
「あぁ、ベゴニアさん!俺達も向かいますよ!旧市街の中央!ヒマワリさんを探しに!」
激励の言葉を口にしようとした時、カリンが大声を上げた。
「なんでみんなヒマワリさんばっかり…助かるかもしれない命があるんだから協力してくださいよ!」
そんなカリンをルンクが睨む。
「…リズの事、そういう目で見てたろ、分かってるぜ。他人の色恋に首なんか突っ込まない」
その言葉に、カリンが俯いて拳を握りしめる。
「…そんなつもりじゃ」
「だいたい、妹じゃないのか?それ、本当にリズの為か?」
近くに居た全員が、カリンを見る。何か言葉を必死に探す。
「ルンク、もうやめろ」
何も言い返さず、ルンクは踵を返してどこかに行ってしまう。
「ベゴニア、本当か?カリンは…」
ジニアは、どこか信じられないと言った顔をしている。
「リズがケラ喰いの交配対象だから、カリンも…」
「違う!!」
カリンがこちらに歩み寄る。
「違う!僕は人間だ!…化け物なんかじゃない!!」
タネを指さして、カリンは怒鳴る。ここは胞子が無いのに、カリンの目は少しだけ黒くなっていた。
その黒い目の中に映るタネは、少し怯えながらカリンを呼ぶ。
「カリン」
「うるさい!!お前なんかに!お前もリズを…」
すぐそこまで来たカリンをユウトが掴む。カリンは抵抗するが、そのままマリーの方に投げ飛ばされた。
カリンに駆け寄ろうとしたが、マリーとカリンに睨まれて立ち止まる。
「行きますよ、マリー」
間にアジサイが立ち、カリンを抱えて向こうに歩き出す。カリンは何も言わず、こちらを睨みつけたまま、マリーも行ってしまった。
サルビアも、黙ってカリンを睨む。横にいるホルンは、抱えられるカリンをじっと見つめていた。
「気にするな、ベゴニア」
ジニアに励まされる事が心苦しい。
「…僕が上手く出来れば良かっただけだよ」
本当は、走って誤解を解きたかった。けれど、それは個人的なエゴに過ぎない。
ヒマワリが、リズがよりも、今目の前にいるコミュニティの人が優先だ。
「リズちゃんには悪いけど、あれには同情出来ないね。欲望が剥き出しなのも、関係あるのかな?」
「…分からない」
過ぎ去るアジサイに抱えられたカリンを、ただ見つめるしか無かった。
呼び止めようと上げた手で、自分の頬を叩いて切り替える。
また会えば誤解をとけばいい。それまでに、僕は僕のやる事をやる。
コミュニティの人達を船まで送り届け、リズを助けてヒマワリを探す。
そう決心し、カリンに背を向けて歩く。




