トラウマに弾丸を
現在外縁15km、あれほど苦労した15kmが、たったの1時間で辿り着いたのは、ベティの安定力と、ユウトの高い戦闘技能のおかげだろう。
瓦礫を乗り越えようとした時、少しの揺れと、ゴトリ、と何か外れたような音がした。
「Stop!」
瓦礫を乗り越えた辺りでベティが止まる。エヴェリンが降りて確認をする。
「靴が脱ゲチャッタ。治すカラ休憩にシヨ」
どうやら、履帯が起動輪から外れたようだ。全員ベティから降りる。
中にいたルンクとカワイは、酷く汗をかいている。
「…あちぃ」
エヴェリンが大きな工具を持ち出した。すぐに出来ると言うので、10分ほどの休憩になる。
「ベゴニア、ちょっといいかな?」
フジに話しかけられる。
「マリーを見てやってくれんか。詳しいのだろう?」
「…そうだな」
ベティを直す組と、それを観察する組から外れる。
マリーは他の人達の見えないところで膝を抱えていた。
肩がゆっくり揺れている。深呼吸をしているのだろう。
「落ち着いたか?」
「…うん」
となりに座る。フジは前でおすわりをして、舌を出して息をする。
旧市街でマリーと並ぶのは何時ぶりだろうか。そんなことを考える。
「時間が解決すると思ったけど…まだみたい」
「ここまで来れたんだ。十分進歩だろ」
「…本当は、みんなとここに来るって、あの時約束したのにね…マクナも、キサラギも…みんなの方が、きっと今も役に立ててた…」
1年前に、マリーは今回みたいに旧市街へと挑戦したのだが、その時は電車からも出られなかった。
悲観的な時は、こちらが手を叩くのがお決まりだ。
ビクリとマリーの肩が跳ねるが、その顔はどこか落ち着いている。
「ごめん…」
「だから、もう誰も死なせないって、決めたろ?」
「…なのに、オダンゴくんも死んじゃった…私、何のために生きてるんだろ」
"何故生きているのか?"その解は、人が豊かに暮らしていた頃から知らない。
金とか愛とか目的だとか、みんな自分以外の事に背中を押され続けてきた。
だからきっと、人に尋ねるのだろう。
「師匠ー?どこですかー?」
カリンの声がする。ベティが直ったらしい。
「…彼女の靴擦れが治ったようだ。意味を探しているのなら、止まっていては仕方ないさ」
「そうだな。きっと、この先にあるさ」
「…そうかな?」
「さぁ?適当に言った」
少なくとも、僕はそう思う。
どデカい爆音を響かせて、ベティの主砲が唸る。
耳を塞いでも、鉄臭さが鼻を着く。
「Foo! Enemy Dawn!!」
道を横断していた鎌持ち達は、今の榴弾の一撃で全て吹き飛んだ。
砲塔から煙をあげるベティが前に進む。
虫の肉片をタネ達はしっぽで器用に拾い上げ、榴弾の破片を、まるでスイカの種を退かすように外しながら食べている。
しばらくすると、エヴェリンがこちらに注意を促す。
「ソコ!危ナイ!」
指さすところから離れると、そこから大きな鉄の筒が落ちる。
音を立てて地面を転がるそれは、砲弾の空薬莢だ。
「…なんか、空気圧縮ボンベに似てるな」
「ですね」
なんとなく、ボンベを観察する。気にしたことが無かったが、底の部分には、先程の薬莢と同じような形をしている。
「…なぁ、ユウト。このボンベって、もしかして戦車の砲弾の薬莢か?」
空気圧縮ボンベをユウトに見せる。
「…そうだな。この刻印は日本の砲弾の証だな」
言われてまじまじと刻印を見る、文字を崩して書いてあるそれは、パンデミック前によく目にした株式会社のマークだ。
「…ここ、家電の会社じゃなかったか?」
「そういうものだ」
「そもそも、この国に砲弾の薬莢なんてあったんですねー」
その問に、カリンが静かに答える。
「…当時、街には戦車が来てましたよ。今はもう無いってことは、逃げたって事ですね」
「つまり、空気圧縮ボンベはその戦闘の名残か…」
「兵器が捨てられてたら、みんな持っていきますけど、薬莢を持ってく人は居ないんでしょうね」
そういえば黎明期の頃、コミュニティから少し離れた駐屯基地に何かないか見に行った事を思い出す。
あの時まともな兵器は手に入らなかったが、大量の薬莢が保存されているのを横目で見ていた。
その後回収して、これに利用されたのだろう。
「…ハヅキはよくこんな事思いつくな」
「あれは天才だろう」
ユウトの同意に、エヴェリンが頬を膨らませる。それにユウトは気付いていない。
その時、鼻につく異臭に思わず顔をしかめる。周りを見れば、全員同じような顔をしている。
「…もうすぐだ」
「これが、噂の腐敗臭…うっ」
「カリン、吐くなよ…」
ビルの隙間から、観覧車が見えた。大きな球場の建物の周りは、昔は遊び場として賑わっていたのだろう。
腐敗臭は、風と一緒に観覧車の方角から吹き付けていた
滞在している黒船の兵士を見つける。
「…ここに、ナジールが居る。予め言っておく。俺も奴には近づくことは出来ない」
「接近戦は考えない方が良いという事だな」
マリーが呼ばれた理由が分かった。後は、事前情報が何処まで通用するか…
カリンは、観覧車を見上げている。
「…カリン、どうした」
「…この観覧車。僕が部屋の窓から見えてたやつです」




