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終末都市の塵芥  作者: Anzsake
マリー:ツミトル/白夜
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機械の身体

回収員の列車が止まる。物資が降ろされていく。

疲れた顔をしたジニアの横から、タネが歩いて来る。心做しか可愛らしい。


「おかえりタネ」


「ベェ」


「こういう時はただいまって言うんだぞ」


「ただいまベェ」


ユユはそのまま、マリーの所に行った。シライシが降りてきて、こっそり無地のシャツを貰う。

本来ならばこう言う市販品は一度店を通すのだが、曲がりなりにも命の保証のない仕事である以上、こういうことは黙認されている。


「サイズ、合ってますか?」


「問題ない。助かるよ」


「ドラゴンの柄シャツはありませんでした…本当はびっくりさせる為に1枚くらい拾いたかったんですが」


「普通のシャツを持ってきたことに既に驚いてるから、気にするなよ」


「ベェさんが変なシャツを着てたら、笑っちゃって死ぬかも」


「縁起でもない」


「龍は本来、縁起物なんですけどね」


エヴェリンのM41が下ろされる。そこに、片腕を外したユウトがやってきた。エヴェリンが驚いた顔をする。


「ユウト!腕ハ?」


「じっくり見たいから置いてけと言われた」


「…What?」




僕も用事があったので、ユウトとエヴェリンと一緒にハヅキの工房に向かう。

ハヅキは機械の腕を解体して、中身を見ている。


「ユウトおかえりー…ってなんか増えてる。ご飯1人分しか作ってないけど?」


「僕は要らない」


「ベゴニアに聞いてない」


ユウト自身は、自身の義手のノウハウは無いらしい。ハヅキは外し方から構造まで、一人で中身を開いて理解したとの事。


「やっぱりガチのところはすごいわ。完全再現は無理」


「指とかどう動かしてるの?」


「ユウトの身体の方についてる機械で、神経と繋いで何とかかんとか…」


「そこからはブラックボックスという訳だ」


片腕を外したユウトは、ハヅキにご飯を食べさせて貰っている。気まずそうにしている。


「…これくらい食える」


「ダメ。義手に負担はかけられない。ほら、あーん」


子供が作れないハヅキが拗らせているのは理解出来る。

だがそんな顔をしながらも口を開けるユウトは、ヒモというより赤ちゃんプレイに近い。

エヴェリンが顔を真っ赤にさせる。


「Are you kidding me!? This is a battlefield, not a damn daycare!」


なんと言ったか分からないが、怒っているのは伝わる。


「ここは人の住処で戦場では無いし、もちろん保育園でも無い」


「エヴェリンは、そう言ったのか?」


「No」


違うらしい。


「英語って、難しいんだな」




ご飯を食べ終えたユウトは、立ち上がり服を脱ぐ。

腕の他にも、肩や脇腹にも金属が見える。


「それは?」


「ユウトは、身体ノ半分ガ機械ナノ」


エヴェリンが工具を取りだして、ユウトの金属の部分を触る。

ネジを締め、ぐらつきを確認する。背骨の部分に見える金属の可動域をチェックして、動きの悪い所を直す。


「俺はもう、人の手が無ければ生きていけない」


ユウトがボソリと呟く。彼が以前言った"弱い"も、ここから来ているのだろう。

ここに来るまでに、僕やみんなよりはるかに戦ってきたことが伺える。


「この腕が、この機械が俺を強くした。俺が強い由来はどこにも無い…」


「あるだろ」


無言でこちらを睨むユウトの額にデコピンする。


「知識、経験だ。どんな高性能な兵器を積んだって、使い手が悪ければただの鉄くずだよ」


複雑な顔をするユウトを見て、エヴェリンが口を開く。


「exactly! ベティも、私が居ナキャダメダシネ!」


「戦車と人間は比較したらダメだろ」


「構わん…俺は既に、軍の管理下みたいなものだ」




裏に行っていたハヅキが、箱を持って戻ってくる。


「はい、ベゴニアの斧」


「来たな」


以前とそこまでの変化は無い。決め手と言えば、斧の刃が交換可能になった事くらいだろう。


「試し撃ちしたくない?こっち来て」


ハヅキと一緒に外に出る。広いスペースに的が置いてある。


「そこの紐を引いて、こっちのレバーを押せばいいよ」


言われたとおりに紐を抜く。レバーを押すと中でピキッと音がなり、腕に衝撃が加わる。

刃が破裂し、破片が前方に拡散して放たれる。破片が的に当たり貫通した。


「…なにこれ」


「連戦してたら刃こぼれするでしょ?だから交換式にして、最後に一花咲かせてやろうって事よ。その名も"ブロッサム"」


「ふーん。面白いな」


「…名前、ちゃんと覚えた?」


「ブロッサムだな。覚えた」


「怪しい…」


上から刃を差し込む。近くで見ると、刃には小さな切れ込みが入っている。叩いてみる。強度は大丈夫そうだ。


「爆発はこのシェルを装填してくれればいいよ。1回使ったらちゃんと次を装填してね」


散弾銃で使うショットシェルを受け取る。猟銃で使ったことがあるが少し軽い。火薬だけを容れているようだ。


「火薬なんてどこにあったんだ?」


「俺が持ってきた。そもそもM41は、大量の砲弾が積んであるからな」


「…ユウト、勝手に使ッタノ?」


無表情のユウトの顔がこわばったのが分かる。エヴェリンに英語で怒られているユウトを見ていると、長い付き合いを感じられる。

ハヅキがこちらを薄目で見る。


「…で、名前ちゃんと覚えてる?」


「…」


「あんたって奴は…」


その時、エヴェリンの持っている通信機が声を拾った。ノイズ混じりの声は焦っているようだ。


「This is Alpha-3. Nazier spotted. Coordinates: …Over」


それを聞いたユウトとエヴェリンが固まる。


「…なんて言ったんだ?」


「…東京にナジールが出た。大陸で街一つ滅ぼした終末種だ」

「ブロッサム」(Blossom)


ベゴニアの愛用している斧。黒船から火薬を譲り受けたことでハヅキが改造した新形態。


炭素を混ぜた特別な鉄の刃は、柄に収められたショットシェルの起爆により破裂し、前方に拡散する。

これにより、旧市街にて刃こぼれする刃を交換して長期戦に持ち込める。


刃とショットシェルそれぞれの交換を必要とするので、使用は限定される。


花の名を持つベゴニアにちなんだ名前だが、ベゴニアは虫や武器に名前は不要だと思っているので、わざわざ覚えてくれない。ヒドイ!


……ほんと、昔からそう。せっかく作ったのに名前なんか聞かずに壊すばっかり。

まぁ、それで命拾いしてるなら、技術屋としては文句は言えないか。回収員だけに。

あいつってそういう生き物なんですよ。変わらないなぁ、まったく。(ハヅキ)

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