走って、転んで、学んで
カリン含むケラ喰い役が先にコミュニティに出る。
「カリン」
「はい、師匠」
「手は抜かなくていい」
「…はい!」
意気揚々と走り去るカリンを見送り、リズやリナを含む逃げる役を集める。
「いいか、これはチーム戦だ。9人居る君らの5人がゴールまで辿り着けばいい。カリンになるべく見つからないように。また、コミュニティ全体を使って逃げるんだ」
「はーい」
「わかった!」
元気よく返事をするので、笑い返して送り出す。分かっていなくとも、楽しめればそれでいい。
回収員の駅までは、ここから直線で500m程ある。一直線に行くか、それとも回って行くのか。それは彼らに委ねた。
境内の前で待ち伏せしてるケラ喰い役は居ない。9人がいっせいに飛び出した。後ろからついて行くことにする。
早速1人目のケラ喰い役と出会い、みんな散り散りに逃げる。
「にげろー!」
「うぉぉ!!」
「リナちゃんこっちー!」
「ケラ喰いさんこっちだよー!」
カリンはまだ居ない。大人たちが騒ぎにこちらを見るので、簡単に説明する。
「あら、鬼ごっこ?たしかに子供たちで遊ぶ事無かったものね。私達も、喧嘩しないよう見張っておくわ」
「ありがとう、助かります」
逃げているうちに、出店で働いていた子供や、家に居た子供も出てくる。
その子たちも巻き込んで、逃げる役が増えていく。
「たっち!」
「くそー!」
「こっちおいでよ!いっしょにあそぼ!」
「喧嘩したらダメよー」
「はーい!」
自分一人では見切れないが、コミュニティの中ならば大人たちが居る。ズルをしたらバレるし、喧嘩があれば止めてくれる。
手伝い帰りのルンクがこちらに寄ってくる。
「何してんだ?これ」
「ケラ喰いごっこ」
「物騒な名前だなぁ」
まぁ、鬼ごっこも名前自体は物騒だなと今更思う。
子供達は鬼もケラ喰いも見た事ない。いや、タネやユユでは無く、旧市街にて人を襲うケラ喰いだ。
「俺も混ざっていいかな?」
荷物を置いてルンクが身体を伸ばす。その荷物を受け取る。
「なら、ケラ喰い役で入ってくれ。このリストバンド付けて。捕まえた子にこっちのリストバンドを渡して駅に向かうよう言ってくれ。この荷物は家に届けておくよ」
「わーった。よっしゃ!覚悟しろよ!!」
声を上げて走り出すルンクのリストバンドを見て、子供たちが逃げ出す。
手を上げてバタバタと走るルンクは、この手の遊びに慣れていそうな雰囲気がある。
ヴィンにルンクの荷物を渡してまた歩く。ケラ喰いごっこをしている子供を見ながら、大人たちが何やら話しているのが耳に入る。
「黒船の話、聞いた?」
「アメリカに逃げるかでしょ?聞いた聞いた。あなたはどうするの?」
「そんな急に言われてもねぇ。みんなに合わせるかしら」
「でも、全員は乗れないらしいわよ」
「え!?何よそれ」
少し早めに駅に行く。既に3人リストバンドを持って待機してる。
「あ!ベゴニア兄ちゃん!」
手を振って近づく。別にお兄さんと言わせてる訳ではない。だから余計に気まずいのだが。
駅には珍しくアジサイが居て、何やらマリーと話してる。
「珍しいな。どうしたんだ?」
「おや、ベゴニアくん。特に理由は無いが、偶然会ったので立ち話を」
「ベェ、これはなんの騒ぎ?」
Fzは子供たちに撫でられて遊んでいる。最近マリーはFzの為に外に出ることが多いらしい。
喋る犬を見て、子供たちは大興奮だ。
「へぇ…ケラ喰いごっこねぇ」
「いいですね。鬼ごっこは昔から、生きる為の知恵として遊ばれていたそうですよ」
「そんなつもりは無かったよ」
「ベェが子供に懐かれるのは、昔からだもんね」
「そうだっけ?」
「あぁ、ありましたね。違うコミュニティに足を運んだ時、ベゴニアくんだけ子供たちとかけっこしてましたもんね」
「大人気なく全員置き去りにして、走り方を教えてたもんね。あそこの人たち、まだ元気かな?」
「…だといいな」
逃げ切った子供たちも、リストバンドを持った子供たちも増えてきた。
しばらくして、カリンが駅に来る。ここで待ち伏せする作戦だろう。
その後すぐに、リズや他の子供たちが走ってくる。
後ろにルンクが手を挙げて追っている。
「ガォーー!!」
「あ!カリン兄ちゃんが!」
待ち構えて腰を低くするカリン。走りながらリズが声を上げる。
「みんな!走りきって!」
そう言ってリズは、カリンに抱きついた。カリンが顔を真っ赤にしている。兄妹だろうに。
「リ、リズ!?」
ニヤッと笑うリズの横を、子供たちが駆け抜ける。棒立ちのカリンの持っているリストバンドを手に取り、リズが駅に入る。
「チームの勝利を選んだわけだ」
「みんながゴールできるなら、私一人くらい」
卑下した言い方に、なにか言おうと思ったが、子供たちがリズに寄ってきては
「リズお姉ちゃん!ありがとう!」
と笑って言う。照れ臭そうに頬を触るリズを見て、まぁこれでいいかと口を閉じた。
最終結果は、逃げる役が20人の逃げ切った子が10人の引き分け。そのうち6人がカリンの手柄だ。
「やるな、カリン」
「最後もっと行けると思ったんですが…」
「ま、次だな」
「もっかいやろー!」
「やるー!」
はしゃぐ子供たちに、難色を示す大人は誰も居ない。みんな、子供たちが楽しそうなのが嬉しいのだ。
「じゃあ、次はさっきのスタート地点、あそこがゴールだ。ケラ喰い役決めるぞ!」




