46 鉱山の町 12 最終話
ユージは気がつくと真っ白い空間にいた。
辺り一帯が霞がかかったかのよう。焦点を合わせようにもその対象がみつからない。
体も動かず、宙に浮いているようにフワフワした感覚を覚える。
ユージは記憶を辿ろうとするが、思い出せたのはアンジを助けようと飛び込んだこと、その後真っ白な光に包まれたことのみであった。
そこから先のことは全くの不明。
やっぱり死んだ……か?
とすると、ここはあの世? まあ、今までいたのも異世界だからあの世みたいなもんだったけど。
でも、転生な女神が現れてほしい、魔王じゃなくて。
未だぼーっとする意識の中、ユージは引き籠もり時代のアニメやラノベを思い出す。
そして、今度は絶対最強な存在に転生させてほしい……
「目が覚めた?」
耳元でささやく女の声。ユージはその方向に視線を向けた。
ぼんやりと女の顔が浮かんでいる。
「め、女神様?」
「そう、女神様よ」
おおっ! 今度こそ来たー! とりあえず第一希望は賢者で、次がユニークスキルで……
ユージのテンションが一気にマックスに上がる。
いや、でもこの声、聞き覚えがある気が……
ユージは目の前にかかる曇りを晴らそうと強く瞬きをした。
マルチナの顔がそこにあった。
いつもの意地悪そうな笑みを浮かべていた。
ユージは自分がルアンの使っていたフカフカの天蓋つきベッドに寝かされていることに気づいた。
どうやら死んではいなかったと気づく。
転生は無しか……。
ユージは安堵とも落胆とも言えぬ気持ちになる。
「ユージの黒翼が攻撃を防御したんだよ」
マルチナが落胆してるユージに声を掛けた。
「黒翼……」
マルチナがユージが死ななかった理由を話し始めた。
ユージがアンジを庇って攻撃に背を向けた時、ユージは無意識のうちに黒翼を開いていたことで攻撃の威力を半減できたらしい。
前は天使の羽のような弱々しいものだったが、マグナスとの戦いを経てユージの能力も上がり黒翼も敵の攻撃を防御できるほどに成長していた。
もちろんジェンスの捨て身の攻撃を完璧に防御できるはずもなく、ユージが受けたダメージも甚大であった。丸二日間、意識がなく寝たきりであったとマルチナが説明した。
「まあ、これもあたしの訓練のおかげね。」
釈然としない顔のユージにマルチナが笑った。
「ところで、アンジは?」
ユージの問いかけに、マルチナが部屋の端で小さくなっていたアンジの袖を引っ張りベッド脇に寄せた。
「ど、どうも。助けてもらってありがとう」
アンジはおどおどしながら頭を下げた。アンジを眺めユージは安堵の息をついた。
少しは魔王らしいことが出来たかな……。
ユージの頭にジーグルの顔が浮かんだ。気のせいかも知れないがジーグルは笑みを浮かべ頷いているように見えた。
突然耳元で聞き慣れない声が響いた。
「魔王様!」
ユージが声の方見目線をやると、そこには木箱にいた少女が立っていた。
少女はユージと視線が合うと、姿勢を正し自己紹介を始めた。
「あらためまして、私はミーシャ・アクスアームです。ふつつかですよろしくお願い致します」
「ああ、よろしく、ミーシャ」
ユージの声にミーシャは嬉しそうに笑い、すこしはにかんだ。
微笑ましい気分にユージは笑みをこぼす。
ミーシャは有力な魔人の一人娘だったが、その魔人が早くに病没し、それから一人で城を守っていた。魔王討伐戦の一年ほど前に居城での戦いで冒険者達の死体の山を作った末、孤立無援の中でついに人間に捕獲されたとのことであった。
ユージはまだ残る背中の痛みに耐えつつ、上半身を起こしベッドに腰掛けた。
すると壁際にウサギ型メイドが並んでいるのが目に入った。
マルチナがユージの目線がメイドにいったことに気づくと、意地悪そうな目でユージに説明を始めた。
「彼女たちはこれからユージに忠誠を尽くすって」
「えっ」
夢の自前メイドカフェ、しかもエロいコスチューム……
思わず顔がほころぶユージにマルチナが釘を刺す。
「でも手を出すと逆に殺されちゃうわよ」
驚くユージにマルチナが、ユージが昏睡状態の間の出来事を説明した。
ジェンスが斃れた後、ルアンはメイド達に石で打たれ殺されたのだった。
メイド達はルアンを殺したことをもってユージへの忠誠の証としたらしい。
もっとも、ルアンに対しては相当の恨みもあったし、そちらの方が動機としては大きかったのかも知れない。
マルチナは最後にユージもメイド達の恨みを買わないようにした方がいいよ、と念を押すのを忘れなかった。
アキバのお店並みにルールを守ってお話ししないといけないのね……
マルチナの説明にふくれあがった妄想がしぼんでいった。
「ところでユージ、お願いが……」
アンジがおずおずとユージに声を掛ける。
「一生お仕えしますので、盟約を」
急な申し出に戸惑いながらマルチナの様子を窺う。
マルチナも文句を言うようなそぶりを見せない。
ユージはアンジに左手を差し出した。
アンジが盟約の宣誓を行い、自らの指をユージの指輪に重ねた。
アンジとの盟約がなされる様子を、ミーシャが目を輝かせてユージを見つめていた。
そして、アンジが脇にさがると、今度はミーシャがユージに向かって自らの手を差し出した。
さ、さすがに幼すぎる。
ユージは躊躇する。
「ミーシャはもう少し大きくなってからだね」
ミーシャは不満そうな顔をしたが、すぐに鼻息荒く宣言した。
「わかりました。これから魔王様のお役に立って盟約を勝ち取って見せます」
「うん。あんまり無理しなくていいからね」
ユージはミーシャの納得が得られたことに、胸をなで下ろした。
ユージが欲しいのは配下ではなく、共に戦う仲間である。なら、ミーシャなら一緒に戦ってくれるのだろう。それで十分であった。
◇
翌日、いくらか痛みも改善し、ユージはマルチナ達に付き添われ、屋敷を出て町を歩いた。
町中ではオーク達が慌ただしく動き回っていた。
あれこれ指示を出していたボームがユージに気づくと駆け寄ってお辞儀をする。
「もう大丈夫なのですか? 陛下」
「ああ、まだ完全じゃないけどね。鉱山の方はどう?」
「採掘の方は部下達を動員しています。もっとも、以前のように酷使できないため効率は落ちていますが」
「それでいいよ。あまり無理させないでね。製鉄の方は?」
「はい、隷属化した人間の作業員がこれまでどおり働いていますので、日常的な作業は問題ないかと」
ユージはボームと別れると、城壁の見張り台に上った。マルチナ達もユージの後に続く。
ユージは見張り台から眼下に広がる町並みを見渡した。
そこにはルアンの屋敷と作業員達の住居。そしてその奥に採掘現場に製鉄施設が並んでいる。
「我が領土、だな」
ユージの呟きにマルチナも隣で頷いた。
「狭いけどね」
相変わらずアンジが空気の読めない発言で雰囲気を壊す。
ユージはアンジの言葉に苦笑し、ふと思いついたように尋ねた。
「ところで、アンジは盟約の代わりに何を望むの?」
「えーっと、クソ親父を探して欲しい」
「やっぱり父親が恋しいのか……」
「ちがうわ。ボコボコにしてさんざん苦労を掛けされたことを思い知らさせてやるの」
「そーいうことね……」
しかし、マルチナが呆れたような声を上げる。
「あんたは、命救ってもらったんだから、もうお願いはダメに決まってんでしょ」
「別に、一個って決まってないでしょ」
だめ出しされたアンジはマルチナに向かって大きく舌を出した。
またこれだと苦笑いをこぼし、ユージはマルチナに向かって声を掛けた。
「ところでマルチナは何を望むんだっけ? そのうち話すっていってたけど」
マルチナは指をあごに考え込む。
そして、真顔になりユージを見つめた。
「世界を手に入れた魔王の后になること、かな」
「えっ」
マルチナの言葉の意味するところに、思わず無言になるユージ。
「なーんてね」
はーっ、またかよ。マジでドキドキした。
ユージは溜息をついた。
「そういう冗談はもう止めてよ」
ふくれるユージにマルチナは返事をせず、笑みを浮かべた。
背後からの風に吹かれてユージは振り返り、城門の外を眺めた。
ユージは呟く。
世界を手に入れた魔王か……。まだまだ先だな。
目の前には深い森、そしてその先には平原がどこまでも続き地平線の弧を描いていた。
終わり
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。はじめての小説で試行錯誤しながらなんとかここまで来ることができました。
もう少し書きたい気持ちもあるんですが、ここから先、ほとんど手付かずの状態で、中途半端でエタるよりか、一旦終わらせたほうがいいかなと思い、完結しました。 (しばらくして、書きたいという欲求が湧いたら再開するかもしれませんが……)
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最後にもう一度お読みいただいたことにお礼を申し上げます。 作者拝




