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45 鉱山の町 11

 「おまえら、何話しているんだ」


 ルアンは少女が覚醒したのに気づき、ユージを押しのけた。

 ルアンにしてみれば少女は自分の所有物、それが自分を無視してユージと親しく話すのは我慢ならない。


 押されてよろめくユージを見て少女が叫んだ。


「魔王様にさわるな、豚野郎!」


 少女の容姿からは到底想像できない言葉にあっけにとられ、ルアンは返す言葉が出ない。

 しかし、自意識だけは異様に肥大化したルアン。自分のことを豚と罵った、そのことは理解できた。


「なんだとこの小娘」


 メイド達に行ってきた折檻をこの少女にも加えるべく掴みかかろうとしたルアンの(ほお)を少女が平手で叩いた。

 バチンっと鈍い音を残し、ルアンは二メートルほど吹っ飛ばされ、気を失い動かなくなった。



 ユージは大の字で地面に転がったルアンを呆然と眺め、少女へと視線を戻す。


「き、君、けっこう力強いね。でも、危険だから少しの間、木箱の中に隠れてて」

「危険? もしかして敵ですか?」


 少女の問いにユージはマルチナとジェンスの方を指し示す。

 その先へと少女は目をやり、しばしの間、戦いの様子を見つめた。


「あの女が敵ですね。意地悪そうな顔してます」

「いや……。そっちじゃなくて男の方が敵ね」

「あっ、そーでしたか」


 意外! という表情でユージに答え、少女は立ち上がる。白布を体に巻き付け服とした。

 そして、木箱の中に手を伸ばし、何かを取り出した。


 巨大な戦斧であった。


 少女の背丈よりも長い柄に取り付けられた大刃が黒く鈍く光った。

 それを少女は右手一本で軽々と持ち上げている。


 ユージにちょこんとお辞儀をする。振り向き長い金髪をなびかせ、ジェンスに向かって滑るように疾走った。

 少女は高く飛び上がり、無言のままいきなりジェンスに戦斧を叩きつけた。

 ジェンスは新たな敵にあわてて剣で戦斧を受け止める。しかし、その斬撃の力強さに思わず後ずさった。


 少女はコマのようにくるくる回りながら、さらに攻撃の手を緩めることなく、軽々と戦斧を振り回し、ジェンスに叩きつけ続ける。

 ジェンスは防御に精一杯となった。

 マルチナも一息つき、一旦間合いを取る。

 その間も少女はまるで踊っているかのように戦斧を振り回し、ジェンスを追い詰めた。


 コッチの女もただ者ではない……、いやサキュバス以上か……

 少女の繰り出す一撃一撃が想像以上に重い。手の痺れにジェンスは顔を歪めた。

 再びマルチナも攻撃に加わった。



 形勢が完全に逆転した。

 ジェンスは二人の攻撃を防ぐのに精一杯の状態。これまでのマルチナとの戦闘の疲労も無視できないレベルまで来ている。

 それに、スクロールの効果が破られるまでそう時間はない。

 冷静に判断すれば、残された時間で二人とも(たお)すことは不可能。


 このままではジリ貧。もはや(かたき)であるアンジを斃すだけの力が残っているかも怪しい。

 ならばと、ジェンスは覚悟を決める。

 

 ジェンスは防御に専念しつつ気合を剣に込めた。

 その剣はマルチナの鋼爪と少女の戦斧を受け止め火花を散らしつつ、ジェンスの気合を受け青白く光った。

 


 ユージはただ黙って三人の戦いを見つめていた。

 一方的に攻めている展開ながら、ジェンスの巧みな防御にマルチナも少女も攻撃があと一歩が届かない。その状況がもどかしくユージは手に汗を握る。

 ジェンスは攻められながらも素直には後退せず、攻撃をかわしながら左右に動く。

 

 マルチナと少女はユージを背にする格好でジェンスと打ち合う。

 もう少しっ、とマルチナの背中に向け念じるユージ。

 すぐ脇では、アンジがもう少しで魔道無効化を解除できると声を上げる。

 その声にユージはアンジに目をやり、頑張ってくれと声を掛ける。。


 これでアンジも攻撃に加われれば……

 そう思いながらマルチナ達の戦いに視線を戻すと、ジェンスの視線が正面に対峙するマルチナを通り越し、なぜかユージの方に向けられている……。そんな気がした。


 「俺? いや……」



 ジェンスは残った全ての力を剣に込めた。

 マルチナの鋼爪を弾くと、後方に飛び退き、マルチナと少女から距離を取る。同時に、最後の咆哮とともに、剣を振るった。

 白い光の玉が剣から放たれた。


 ジェンスの捨て身の一撃がマルチナと少女に向かう。

 しかし、これを読んでいたのかマルチナも少女も軽く身をかわす。

 光の玉はマルチナと少女の間を突き抜けていった。


 余裕の表情のマルチナに、しかしジェンスはニヤリと笑い返す。

 マルチナはジェンスの笑いにハッと表情を変え、後方を振り返った。


 ジェンスの放った最後の白い光の玉はアンジに向かって飛んでいた。


 狙いはそっちか……

 マルチナは舌打ちをするも、もう間に合わない。


 アンジも魔道無効化の解除に集中しており、向かってくる光の玉に気づくのが遅れた。

 迫り来る光に気づいた時、アンジにできたのは呆然と見つめるだけ。


 白い光がアンジを呑み込もうとする瞬間、黒い影がアンジに向かって飛び、覆い隠す。

 その黒い影、ユージであった。

 ユージはアンジを庇うように光の玉に背を向けて地面に押し倒した。

 そのままユージは光の玉に飲み込まれた。


 「ユージ!」

 「魔王様!」


 叫んだマルチナはジェンスに向き直り、怒りの雄叫びと共に鋼の爪をジェンスに叩き込む。同時に少女の戦斧もジェンスの腹部を襲った。

 ジェンスは最後の力を使い果たしており、もはや二人の攻撃を受け止めきれない。

 そもそもジェンスはアンジへの一撃に全てを賭け、その後の防御など考えになかった。


 ジェンスは剣をたたき折られ、胸にマルチナの爪を、腹部に少女の戦斧を食い込ませた。

 血を吐き膝から地面に落ちる。

 しかし、ジェンスは自らが放った光の玉がアンジとユージを呑み込むのを確かにその目で捉えていた。

 むせぶような笑いを血と共に吐き出す。

 

 ジェンスは混沌となる意識の中、光を失いかけた目の先に女の顔が浮かぶ。


 「ユ、ユリア……?」


 ジェンスは目の前で揺れるユリアに向けて手を伸ばした。

 薄れつつある意識の中でユリアはジェンスに向け微笑んでいる。

 ジェンスは満足そうな笑みを浮かべる。

 そして、静かに目を閉じた。



 マルチナはジェンスの最期を見届けようともせず、ユージに向って駆けていた。


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