44 鉱山の町 10
「剣士よ、諦めろ。もうお前に逃げ場はない」
ボームの叫びにジェンスは手を止め周囲を見回す。視線の先には採掘現場をぐるりと囲みオーク達が幾重にも並び立っている。
ジェンスは完全に包囲されていた。
もちろんゴールデン級以上のジェンスの実力を持ってすれば、オーク達の包囲を突破することは不可能ではない。
しかし、マルチナを倒し、アンジを殺ってからとなると話は別である。
皆で一斉に攻撃にかかれば、ジェンスとしても為す術はないはず。
ユージは勝機を掴んだと確信した。
ボームは手に剣を握りジェンスへと進んだ。手にした剣はジェンスの部下から奪ったもの。元の持ち主の血ですでに赤く濡れていた。
マルチナとボームに前後を挟まれ、ジェンスは注意深く構えを取る。
ボームが雄叫びとともに斬りかかった。しかしジェンスは軽々とボームの斬撃を受け止め、さらに、同時に飛んできたマルチナの爪に対しても、剣を切り返し撥ね除ける。
そして返す刀でボームに向けて衝撃波を放った。
ボームは手にした剣で防御の姿勢を取るも、あっさりジェンスの斬撃派に剣を飛ばされ、その巨体ごと後方に飛ばされてしまった。
受けたダメージが大きいのかボームは立ち上がれない。
力の差は絶大であった。
勝機を掴んだと思ったのは錯覚だったか……。
オークの族長がこの様では、残りのオークが束になっても大した脅威にはなりそうもない。
こうなると自分だけが安全なところに隠れているわけにはいかない。
もちろん、戦うマルチナ置いて自分だけ逃げるという選択肢はない。
ユージは意を決し、ボームの落とした剣を拾う。そして、ありったけの勇気を振り絞り、ジェンスへと踏み出した。
「やめとけ小僧、おまえになにができる?」
「さあ? 賢者には程遠いことは分かっているけど、気持ちだけなら負けない」
「ふっ、気持ちで勝てたら死ぬヤツはいねーな」
ユージはジェンスの斬撃が放たれる前に、手にした剣をジェンスに叩き付ける。
しかし、ジェンスに軽く受け止められ、切り返したジェンスの剣にあっけなく剣を後方に飛ばされた。
到底埋められぬ力の差を前に、素手で立ちすくむユージ。
さも当たり前の結果であるかのようにジェンスは勝ち誇るでもなく、無言のまま剣を叩き込む。
ユージは後方に飛び退き、指先に力を込め体を回転させ右手を横に振った。
ユージの鋼の爪が剣の如く一メートルほど伸びた。
予想外の攻撃にジェンスはとっさに下がるも踏み込んだ勢いから十分な間合いを確保できない。
ユージの爪先がジェンスの腹部を襲う。
しかし、ジェンスの服を裂いたにとどまった。
アレ……? 前より爪が伸びてる。
(能力に比例しますので……)
マルチナの言葉を思い出す。
もしかして、マグナスやセルリンとの戦闘の結果、自分の能力が上がったのか?
思わぬ変化に驚き唖然としてるユージに、ジェンスが失望と勘違いしたのか小さく笑う。
「なるほど、それがお前の隠し球だったって訳だ。まんまと騙されたよ」
「そいういうつもりじゃ……」
「しかし、種バレの手品に二度騙されてやるほど、俺もお人好しじゃないんでな」
ジェンスは高速で剣を振り回す。ユージに攻撃の隙を与えない。
ユージは爪で受け止めるのが精一杯。攻撃の手が出せないまま一方的に押されていた。
「あんたの相手はコッチよ!」
マルチナが叫びジェンスの背後から攻撃を加えた。
ジェンスも振り向き、マルチナの斬撃を剣で防ぐ。
その隙に、ユージなんとかジェンスの攻撃範囲から逃れた。
マルチナの背後ではアンジが何事かぶつぶつ呟きながら宙を仰いでいる。
魔道無効化を解除しようと苦闘していた。
ユージはジェンスの死角に回り、アンジの方へと静かに近寄る。アンジを小脇に抱えると、そのままジェンスから距離を取るべく木箱の位置まで走った。
アンジを奪われたこと気づきジェンスは舌打ちするが、目の前のマルチナを無視してユージを追いかけることはできない。
仕方なくジェンスはマルチナとの戦いに専念することに決める。
これでマルチナも戦い易くなるはず。
ユージはそう思い離れた場所からマルチナを見つめたが、マルチナも魔導が使えない分、思うような戦いが出来ていないのが分かる。ほぼ互角と言っていい。
何か自分に出来ることはないか……
アンジを木箱の陰に座らせ、ジェンスの方へ向かおうと足を踏み出した。
ガーーンッ--
そのとき、ユージの脇の木箱の蓋が滑り落ちた。
音に驚きユージは木箱に視線をやる。そこには昏睡状態であったはずの少女が目を見開いていた。
木箱の中で少女はゆっくりと上半身を起こした。
もしかして、昏睡の魔導も無効化された? これも魔導無効化のスクロールの影響か……。
驚くユージと少女の目が合った。
「魔王様……?」
少女がユージを見つめ小さく声を発する。そして、何か確信を得たかのように力強い声へと変わった。
「魔王様が助けてくださったのですね!」
「あっ、いや、そーなのかな……」
「ありがとうございます。この御恩は一生忘れません」
少女は頭を下げるが、同時に自らが裸であることに気づき、小さく悲鳴を上げ、顔を真っ赤にし白い布を掴み体を隠した。
まだ成長途上の少女の裸をまぶたの裏に残像として残しながら、ユージも視線をそらした。




