↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/47

36 鉱山の町 2

 現れた男は、責任者のゲシュトだとのみ告げ、尊大な態度で椅子に腰を下ろす。

 目は細く顔中に皺が寄っている。典型的な嫌なヤツの顔だ。

 責任者ということは領主から任されている、つまり、ゲシュトは領主ではないとユージは判断した。

 ゲシュトもユージとマルチナを探るように視線を走らせ、ボソッと口を開く。


「知らん顔だな」

「はい、お初にお目にかかります。ニコ・ヴェルナーといいます。こっちはハンナ・ウィルヘルムです。冒険者のグリフ様に指示されて、奴隷用のオークを連れてきました」

「グリフか……。ヤツは元気か?」


 ゲシュトはグリフの様子を訊くが、大して関心はないことは明らかである。元気にしてます、というユージの嘘に頷きもせず、無言のまま立ち上がった。


「オークを見せてもらうぞ」


 ゲシュトはユージ達の同意を待たずに外に出た。

 あわててユージ達もゲシュトに続いて建物を出た。



 ゲシュトは建物前の柵に集められたオークの集団を一瞥(いちべつ)した。


「これだけか?」

「はい。今回は思いのほか小さな群れだったので」

「ふん。ヤツも腕が落ちたか。全部で金貨一〇枚だ」


 一〇〇頭で金貨一〇枚。つまり、一頭について銀貨一〇枚の計算。いくら何でも安すぎである。


「ちょっと待って、よく見て下さい。どれも若く壮健な個体です」


 ケシュトは面倒くさそうにもう一度オーク達に目をやる。

 確かにどれも若く屈強そうなオークばかりである。怪我や片腕の個体もいない。ゲシュトは内心感心するも、そんなことは表情には出さない。


 「そーだな。金貨一五枚だ」


 一頭あたり銀貨にして一五枚にしかならない。それでも安い。普通の個体でも三〇枚は必要だった。


「それでは、グリフ様に説明ができません。せめて金貨二〇枚はもらわないと」

「ワシの知ったことか。金貨一五枚。それで嫌なら連れて帰れ」


 ユージは再度懇願するもゲシュトは首を縦に振らない。

 最後に渋々といった表情で頷き、示された契約書を受け取った。それにサインして渡し、ゲシュトに、領主に面会したいと申し入れた。

 しかし、ゲシュトはユージの方を向きもせずぞんざいに返事をする。


「閣下は忙しい。お前らのような下級冒険者のために時間を取ることはできん」


 下級という言葉に反応したのか、マルチナがむっとした顔を見せる。

 ゲシュトにしてみれば相手の不満は自分が利益を得た証拠。マルチナの不満そうな顔を気に掛けることもなく、格安で手に入れたオークを眺めた。


「オーク達は異様に大人しいな。お前が隷属魔導をかけたのか?」

「そうよ」

「おまえは魔導使いか?」

「見てわかんない?」


 ゲシュトは不満を露わにするマルチナを観察するかのように眺め、少し考え込んだ。


「金が足りないというなら、仕事をしていくか?」

「あんたの愛人とか? 絶対イヤよ」


 マルチナの回答に、ふてぶてしい態度だったゲシュトが一瞬口ごもった。


「バ、バカ言うな。実は魔導耐性のあるオークがいる。そいつに隷属魔導をかけて欲しい。礼はする、金貨二枚でどうだ? 金は欲しいだろ」

「金貨五枚ね」


今度はマルチナが強気に出た。相手からわざわざ話を出すということは相手も困っている証拠だろう。ここで弱腰に出る必要はない。


「金貨三枚」

「五枚は譲れないわ」

「……いいだろ。そのかわり隷属化に成功しなければ、逆に手数料で金貨五枚もらうぞ。それでもいいか?」

「いいわ」


 マルチナは即答した。

 ゲシュトはまさかの応諾に一瞬驚いた顔を見せ、すぐにまた元の渋顔にもどる。

 隷属化に成功しても領主から報酬を出してもらえば自分の懐は痛まない。失敗したら手数料の金貨五枚は自分のものにできる。

 ゲシュトは内心ほくそ笑む。しかし、そんな様子はおくびにも出さず、ぶっきらぼうに指示した。


「付いてこい」


 そう言うとゲシュトは建物をぐるりと回り、今は使われていない坑道入口へと向かった。

 坑道の入口脇に置いてあった松明に火を付けると、試掘のために掘られた地下へと続く坑道を降りた。ユージとマルチナもゲシュトに続いた。

 坑道はなだらかな傾斜となって下っていた。かつて鉱石を試掘した跡で、大人三人が立って並んでも歩けるほど広い。


 坑道の中は所々から地下水が染み出し、松明に反射して光る。

 メインの坑道を進むと広い空間に出た。そこから横に試掘を進めた横穴がいくつかある。その横穴の一つを牢獄として再利用してあった。

 ゲシュトは格子の前で立ち止まり、松明をかざした。


 ユージが目を凝らすと、揺れる松明の光に照らし出され、奥の岩盤に鎖で繋がれたオークが座っているのが分かった。


 長い間牢獄に繋がれていたためか、見た目はやつれてはいる。

 しかし、ゲシュトを睨む目は力がみなぎっている。反抗心がユージまで伝わっていた。

 ゲシュトはユージとマルチナに振り返るとあごでオークを指し示した。


「こいつだ」

「オークの族長ね」


 マルチナはオークを眺めながら答えた。

 普通のオークより体も一回り大きい。オークの族長の徴(しるし)である角が頭の両脇あたりから生えている。体の色がやや黒みがかっているのは大陸に広く生息するオークうちの東の種族の特徴であった。


「どうだ?」

「問題ないわ。ただし、ニコにも手伝ってもらうわ」

「いいだろ。近づきすぎるなよ。殺されても知らんからな」

「他人の心配より、あんたこそ死にたくなければ離れていなさい」


 ゲシュトはポケットから鍵を出し、格子に付いていた扉の鍵を開けた。

 マルチナとユージが扉をくぐるとゲシュトはすぐに扉を閉め、自らはオークの族長から距離を取るかのように数メートル後ずさった。


 マルチナはゲシュトが格子から十分に後ろに下がったのを確認して、オークに近づいた。



 オークは近づく人影を睨む。近づく人影の正体を確認すると、興味なさそうに吐き捨てた。


「何かと思ったが、サキュバスか。何しに来た? 人間に取り込まれたか?」

「控えろ。オークの族長。魔王の御前よ」


 マルチナは小声で呟き、横に半歩ずれた。

 ユージはマルチナの脇から左手の指輪が見えるように手をオークの族長に小さく手を振った。


「まさか、魔王陛下……」


 オークの族長は目を見開いた。思いも寄らぬ者の登場に言葉が続かない。

 そのままひれ伏した。

 

 ユージは平伏するオークの族長に近づき、ゲシュトが十分下がっていることを確認すると、オークの族長の耳元に顔を寄せた。


「手を貸して欲しい」

「もちろん。このボーム、陛下に絶対の忠誠を誓います。しかし、ご覧の通り、捕らわれの身。できることなど……」


 ユージはボームの手に自分の手を重ねる。そして、ボームの耳元でささやいた。


「とりあえず、チャンスが来るまで、隷属化されたことを装って欲しい」

「は?」

「隙をみて、鉱山にいる人間は殺す。それまで人間には計画を気取られないようにしてほしいんだ。大丈夫かな?」

「もちろんでございます」


 マルチナもユージの脇にしゃがみ込み、ボームに語りかけた。


「ところで、あんたは何で捕まったの?」

「実は捕らわれた仲間を助けるためにこの鉱山を襲ったんだが、逆に捕まってしまった。気をつけろサキュバス。とてつもなく強いヤツがいる」

「どんなヤツ?」

「守備兵の隊長だ。詳しくは分からんが、剣の腕は半端なく……」


そのとき、会話を遮るように後ろからゲシュトが、まだ終わらないのかと、大声を上げた。


「もうすこしよ!」


 マルチナが小さく舌打ちをして、叫んだ。

 できればもう少しこの鉱山の事情を訊いておきたい。ただ、余り長く話していると怪しまれかねない。


「そいつは剣士なのか?」

「ああ、魔導は使わず剣のみで戦っていたから、おそらくな」

「残りの兵の数は?」

「五〇程度だ」


「いい加減諦めろ!」


 再びゲシュトが後ろから叫んだ。


 これくらいが限度か……。

 マルチナは立ち上がると、ゲシュトに向かって叫んだ。


「終わったわ。もう近くに来ても大丈夫よ」

「ほんとか?」

 

 ゲシュトがおそるおそる格子をくぐり、牢の中に足を踏み入れる。そして平伏したままのボームを見下ろし、足でボームの頭を小突いた。

 しかし、ボームは何の反応も示さない。平伏したままであった。


「立て」


 ゲシュトはボームに命令した。その命令に応じたかのように、ボームはゆっくりと立ち上がった。

 次の命令を待っているかのように直立の姿勢のまま動かない。


「うーむ。確かに隷属化されているようだ」


 ゲシュトは唸るようにつぶやいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。