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35 鉱山の町 1

 トロールの肩に乗りユージ達一行は森の中を進んだ。


 トロール三頭にオーク四〇〇頭、アンデッド三〇〇体。規模的には歩兵大隊程度の戦力か。これが今のユージの保有戦力の全て、。


 道中は、森の中の道を避け木や草を掻き分けながらの進行であったが、トロールはブルドーザーの如く、邪魔な木をなぎ倒し、草や蔓を踏み分けて進んでいった。

 それにも増して良かったたのは、マルチナとアンジは別のトロールに乗っているおかげで、無駄なケンカをしないで済んでいることであった。

 ユージにとっては二人の口ゲンカに煩わされず、頭を整理する時間がとれたのは幸いだった。


「ユージ、あれを……」


 ユージ達が緩やかな上り斜面を越え尾根にいたった時、アンジが遙か先を指さした。

 アンジの指の先には、木々が広範に伐採され、すり鉢状に山肌が削り取られて岩が露出している一帯があった。そこが目的地である鉱山であることはすぐに分かった。

 そして、そのすり鉢の縁の東側と西側にそれぞれ建物が並んでいる。北側には製鉄設備であろうか、大きな煙突が2本、そこから煙が上がっている。

 そして、そのすべてをぐるりと高い城壁が囲んでいた。


「思った以上に大きいな」


 感嘆の言葉が思わず口をついて出た。

 どうやらそこは鉄鉱石が地表に露出しており、露天で下に掘り進めているようだった。

 そのため、周辺部から中心へとらせんを描くように掘り進められたすり鉢型になったものだった。


 その大きなすり鉢の西側に並んでいる建物はいずれも平屋建で粗末な作りだ。おそらく隷属化された使役用オークの収容場所となっているのであろう。

 それに比べると東側には奥に大きな屋敷が位置し、その手前には様々な大きさの建物が並び中心には広場のような場所もある。東側が領主やオークを管理する人間達の居住区のようで一〇〇人は住んでいそうであった。



「どうしましょう?」


 作戦を変更すべきか? マルチナがユージに尋ねた。

 一〇〇人以上も人間がいるとなると忍び込んで敵の制圧は簡単ではない。かといって、正面から力でぶつかって何とかなるものでもない。しかも、鉱石経営や製鉄の知識はユージにはない。とくに、鉄鉱石からいかに鉄をとりだすか、つまり製鉄については専門のノウハウが必要であって、人間の技術者を殺してその後をオークに任せることは不可能だろう。


 ――地主から土地を取り上げて農奴に分配したけど農園を運営できなくて破綻しました―― 

 ネットでよく見るダメダメな結末は目に見えている。

 そこで、道中、トロールの肩で考えたプランをマルチナ達に確認してみることにした。


「隷属魔導って、人間に対しても有効なの?」

「もちろん」


 マルチナが応えたところに、アンジが割って入った。


 「でも、魔導耐性を持った上級の魔導使いや剣士みたいな人間には、マルチナには荷が重いんじゃない? その点、私なら何の支障もないけどね」

「隷属化できないなら殺せばいいだけの話でしょ」


 放っておくとまた口げんかが始まりそうなので、ユージはあわてて説明を進めた。


「そうなると、やっぱり鉱山運営に必要な技術者は隷属魔導で生かしつつ、領主や守備兵は基本的に殺すという計画になるな」

「そうね」


 マルチナとアンジが頷いた。


「問題は、どうやってそれを実現するかだが……」


 ユージは考え込んだ。しかし、具体的な作戦を立てるにも情報が少なすぎである。

 こんなことならマグナスからもっと鉱山の話を聞いておくんだった。

 さすがにマグナスももう死んでいるだろうから、今さらどうしようもないが。


「情報収集のためにも、とりあえず二人で行ってみるしかないな」

「私は? 私の魔導で自分の魔族反応は封じ込められるから、人間にバレることはないよ」


 アンジは自分だけ置いて行かれるのが気にいらないのか、自分も一緒に行きたいアピールをした。


「いや、用心のため外で待機してもらった方がいいと思う。コッチは何にも情報がない以上、どんな強敵がいるか分からない。皆でまとまって行って三人まとめて捕まっちゃいました、何てことになった目も当てられない」


 アンジは残念そうにユージに従う意を示した。


「どうせアンジじゃ助けにはならないから、留守番はぴったりね」

「ドジ踏んで、”助けてー”、って叫んでも、マルチナは絶対助けないから安心して」


 ユージは溜息をつきながら二人を眺め、話を進めた。


「それと、奴隷商を偽装するためオークを一〇〇頭ばかり借りるよ。それに鉱山で作戦を実行するにも手足となる兵隊が必要だしね」


 アンジーはオークのリーダ格に指示して、ユージに付いていく一〇〇頭ほどを選ばせた。


「ユージの役に立つように、戦闘力に優れた個体を一〇〇頭選んどいたよ。また、敵に気取られないように隷属魔導も施してあるからね」

「たしかにオークに隷属魔導にかかっている高度な演技を求めることはできないしな。で、どうやって解除するの?」

「ユージの号令で覚醒するようにしてあります。」

「ありがとう、アンジ」


 アンジは自分の仕事が評価されたことに満足気の表情だ。横目でチラチラとマルチナの様子をうかがう。

 マルチナはそんなアンジに、ふんっ、と横を向いた。


「ここから鉱山までは徒歩で行こう。アンジは残りのオークとアンデッドを率いて、森で待機していてくれ」

「オッケー、ユージ」


 ユージとマルチナは見送るアンジを残し、森の中から鉱山につながる道へと出ると、オークの集団一〇〇頭を率いて鉱山を目指した。



 谷間の細い道を抜けると、街の城壁の前に現れた。

 街を囲む城壁は想像以上にしっかりしていた。高さは四メートルはあり日干し煉瓦で組まれている。城塞都市さながらの規模だった。


 剣を腰に下げた兵士二名が城門から進み出て、ユージ達を止めた。そして、ユージの後ろに続く、オークの一団を眺めた。


「奴隷商か?」

「そうです」。


 一人の兵士がちょっと考え込み、おもむろに告げた。


「通行料は銀貨一〇枚だ」

「通行料が必要なんですか?」

「いやなら、戻れ」


 警護の兵はユージから銀貨一〇〇枚を受け取ると自分の懐にしまい、門の奥を指さした。


「奴隷の買取の入ってすぐの右側の建物だ。オークは建物の前の柵の中にまとめておけ」



 ぶっきらぼうに対応する兵士に頭を下げ、オーク達を連れて城門をくぐった。

 ユージはオーク達を指示されれた建物の前の柵の中に入れ、マルチナと建物に入る。

 建物内の受付には亜人の男が座っていた。狼系であろうか顔まで毛で覆われていた。

 初めて見る亜人に戸惑いながらもユージが来訪の目的を告げた。


「オークを買ってもらいたい」

「ちょっと待て、ゲシュト様を呼んでくる」


 亜人の男はそう言うと、建物の奥へと入っていった。

 しばらく待たされた末、小柄な痩せた老人の男が現れた。


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