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30 辺境の町・新しい仲間 17

「向こうはどうなっている!?」


 グリフは苛立ちを隠そうともせず、周りの冒険者たちに問いただす。

 

 防衛陣の向こう側では戦闘が始まっている様子はすぐに感じ取れた。

 こちらも合わせて攻撃開始を命じ、冒険者達を防衛陣地に向けて進出させれば、オークからは組織だった投げ槍の雨。近寄ることも困難な状況。

 やむなく冒険者達を一旦下げざるを得なくなる。

 どう見ても、奇襲に狼狽するオーク達の対応ではなかった。


 ケニーが手間で取っているのか……?

 グリフは壁を睨む。しかし、ケニーは場数を踏んだベテラン。ゴールデン級の魔道士である。オークごときに後れを取るようなヤツではない。しかもシルバー級の魔道士も一緒だ。戦力では圧倒的にこちらが有利なはず。

 もう少し様子を見るか、それとも自ら突っ込み防壁を破って参戦するか? 

 逡巡し、すぐには結論が出せない。


 少々手間取ってもオーク相手にケニーがしくじる可能性は無視できるほど低い。逆に今自分がここでむやみに突っ込めば包囲殲滅計画をダメにするかもしれない。

 グリフはもう少しだけ待つと決めた。

 しかし、相手はオークのみという読み違いが決定的なミスとなる。退却の時機を失うことにつながった。




「……まずいな」


 ケニーは苦々しく呟く。

 実際、戦況はかなりまずい。奇襲をかけて挟撃するつもりが逆に罠にはまっている。

 想定外の事態に味方は冷静な対応をとれず、低位の魔獣ごときに削られていく。

 さらに背後から襲ってくるのはアンデッド。生き物としての恐怖の感情を持たない分、オークより何倍もたちが悪い。

 対応に手間取る間にオークまで左右に展開し完全に包囲されてしまっていた。


 ケニーは防衛陣側のオーク達に向けた防殻を保持しつつ、ファイヤーボールを発動しアンデッドを撃ち続ける。しかし、混戦の中では味方に当たる危険もあり、数体まとめて吹き飛ばすほどの威力を持ったファイヤーボールを打つことはできない。

 一体一体を狙って撃つが、それではラチがあかない。焦りだけが募っていった。


 数で劣る以上、このままでは時間とともに磨り潰されていくだけ。

 形勢を逆転するには敵の頭を潰すしか手はない。

 頭を潰せばアンデッドも置物と化す。残りはオークのみ、いかようにでも料理できる。


 敵の指揮官はどこだ?

 ケニーはそれらしい魔族を探す。

 すぐにアンデッドの奥にトロールの肩に乗っている魔人が目にとまる。

 凶暴なトロールが自分の肩に別の魔族を乗せる。つまりその魔族がトロールよりかなり上位にあることを意味する。


「やつに間違いない」


 ケニーは防殻を保持しつつ、ファイヤーボールを発現し巨大な火の玉を生み出す。

 一撃で仕留める!

 そのため込める魔力も増大させた。ゴールデン級だけあってより高温で威力は高い。炎の玉はオレンジではなく白く輝きをはなっていた。


「死ねー」


 ケニーはトロールの肩に乗る魔族に向けてファイヤーボールを発射した。


 魔族の女は自らに向かってくる火の玉に気付いた。それと同時に炎の玉に向け手を広げ防殻を発動する。

 ファイヤーボールが女に命中したかと思われた直前でファイヤーボールははじけ散った。


「俺のファイヤーボールを跳ね返すだと……」


 信じられない光景だった。

 たしかに、一方で防殻を維持しながらのファイヤーボールの発動。全力で発現したものではない。

 しかし、そうはいってもゴールデン級のファイヤーボール。ただの炎の塊ではない。

 魔導により空気中にアーク放電を誘発しその中心温度は五千度に近い。金属であっても容易に溶かし切るだけの熱量である。ブロンズ級やシルバー級ならいざ知らずコールデン級のファイヤーボールを跳ね返せる防殻など聞いたことはない。


 ケニーは再度ファイヤーボールを発動する。

 が、結果は同じ。白い火花が飛び散ったのみである。


「熱がダメならブリットか」


 ケニーの手から黒い石粒がまるで機関銃のように魔族に向かって発射された。

 ゴールデン級ともなれば、ブリット一つ一つの比重はタングステン鋼並み。その貫通力は大理石をものともしない。それが雨のように魔族に降り注いた。

 一発二発は防げても雨の如く降り注ぐブリットに防殻が耐えきれるわけはない。防殻を割り一発でも体に当たればその衝撃で生物としての形をとどめることすら不可能である。

 ケニーはそう信じて疑わなかった。


 しかし、魔族の女は慌てる様子もなく手のひらを開き、再度防殻を発動する。

 ブリットが空気を振るわせながら発動された防殻を叩きその摩擦熱で煙を上げた。煙の向こうからドラムを乱打するような爆音がとどろく。

 ケニーが満足げに攻撃を止め手を下ろす。爆音が止み煙が霧散していった。

 しかし、そこには変わらず魔人の女がトロールの肩に座っていた。


「次の演し物は何?」


 魔族の女は愉快そうに尋ねた。忌々しいまでに余裕の表情。


「おまえ、何者だ……」


 思わず呟くケニーに女が意外そうな表情で答えた。


「なんだ、わざわざ私の名前を聞きにこんな森の奥まで来たの? 最初からそういえば、名前くらい教えて上げたのに」


 この女、ふざけているのか?

 ケニーは言葉も出ない。無言のまま見つめる。


「はじめまして アンジ・ダニエラ・コルクマズよ」


 女の言葉にケニーは一瞬凍り付く。


「……コルクマズ。まさか、ヨハン・ジェンス・コルクマズの係累……」


 ヨハン・ジェンス・コルクマズ。かつての魔王に使えた魔人の一人。

 最強の魔導使いと言われた上位魔人である。

 ただ法王庁の諜報部門の情報によれば今回の討伐戦の数年前から行方不明となっていた。死んだとの噂も流れていた。ヨハン・ジェンス・コルクマズが生きて魔王とともに戦っていれば、魔王を討つことはできなかった可能性が高い


 ケニーの呟きが耳に届いたのか、女は首をかしげる。


「あれ? あんたあのクソ親父の知り合いなの?」


 まさかコルクマズと知り合いのわけがない。コルクマズの前に出て生きて帰れる人間などいるはずがない。

 それに、親父だと!? まさかこいつはコルクマズの娘なのか……?。

 魔族最強の魔導使いの娘が自分の前に立ちはだかっている。

 ケニーは自分が人生最大の窮地にいることを確信した。


 ヨハンと知り合いか否か、どちらと言うのが正解だ?

 アンジの表情を読もうとするが、何もうかがえない。ケニーは賭に出た。


「まあ、昔ちょっとな……」

「クソ親父の知り合いなら、ますます生かしちゃおけないわね」


 賭は外れたらしい。アンジはケニーに向け不機嫌そうに口をゆがめる。


「さよなら。クソ親父の知り合いの誰かさん」


 アンジはケニーに手のひらを向けた。

 ケニーは全出力をもってアンジに向かって防殻を発動する。当然背後のオーク達に向けて発動していた防殻は消失させた。このヨハンの娘相手に余計な魔力を支出する余裕はない。


 次の瞬間、白い光がケニー視界を奪う。しびれるような振動と圧倒的な熱量を手に受ける。

 ケニーが全力で発動した防殻が溶けて地面に垂れ落ちていく。それとともにケニーの両腕も蒸発して消えていた。


 二人を遮る物はなくなった。

 アンジは再び手のひらを向けた。ケニーは慌てて再度防殻を発動しようとするが既に両手はない。


 「ま、まて……」

 「バイバイ」


 アンジが笑顔で別れを告げる

 次の瞬間、ケニーの体は白い光に包まれた。


 ケニーの肉体はこの世から消失した。


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