22 辺境の町・新しい仲間 9
グリフは不可視化魔導を使えるシルバー級魔道士一人を偵察のため森の中へと送ると、自分の周りに冒険者たちを集めた。
皆の注意が集まったのを確認するとグリフは作戦について説明を始めた。
「まず隊を二つに分ける。先発隊が森に入りオークらとひと当たりする。別の一隊は森の入口脇で待機だ。先発部隊は頃合いを見計らって、敗走を偽装して後退する。オークが追走し森を出てこの草地に至ったタイミングで森の入口脇に控えていた後発部隊が飛び出し森への退路を塞ぐ。先発部隊も反転してオークどもを完全包囲したところで、魔導士たちがまとめて隷属魔導をかける」
一通り作戦を説明が終わった頃、斥候に送られたシルバー級の魔道士が戻ってきた。
「オークがいました。数にしておよそ二〇〇」
「二〇〇……少ないな。五〇〇近い数がいるんじゃなかったのか」
グリフのつぶやきに落胆の色が交じった。数が少なければそれだけ稼ぎも少なくなる。
不機嫌そうな表情のグリフにおずおずと斥候の男が報告を続けた。
「もう一点気になるところが……」
「なんだ?」
「やつら、木を切り倒して森のなかに開けた土地を作り、その後ろに防壁を作って防衛陣を引いています」
障害物のない土地に身をさらしての攻撃は防衛陣地の背後で待ち構えるオークたちにとってはいい的である。かといって、森の木々を盾にできる後方からの攻撃ではオーク達に有効な打撃は与えにくい。
グリフは腕を組んで考え込む。
「なるほど……。少しは頭の回る奴がオークをまとめているってことか」
「どうするグリフ? 作戦を変えて、防衛陣地を迂回して背後から攻めて、ここまで追い立てるか?」
ゴールデン級の魔道士であるケニーがグリフにプランBを提案する。
ケニーはどちらかというと慎重派でグリフらのパーティーの副官的役目を担っていた。
「いや、要は防衛陣地からおびき出せばいいだけだ。所詮ゴブリンやオーク、戦いが始まれば興奮して訳も分からず突出してくるだろう」
グリフには自分たちの勝利を疑う様子はみじんも見られない。
この包囲戦は失敗したことのない作戦であり、経験に裏付けられていた。
マグナスを含むユージたちの組は先発部隊に組込まれた。
先発部隊は真っ先に敵と戦うことになり危険ではあるが、オークをまとめている上位魔人と接触するチャンスはある。ユージの目的のためには願ったりである。
よしと覚悟を決めたユージの肩をマグナスが叩いた。
「所詮オークやゴブリンだ。侮りは禁物だが、過度に恐れる必要もない。それに目標は敵の殲滅ではない、あくまで誘導だ。適当なところで敗走するだけ。それに俺が側にいてやる」
「ありがとうございます」
「お前を守れば、ハンナちゃんも俺のことを見直すだろうしな」
自信たっぷりのマグナスはマルチナに目をやるが、マルチナは相変わらずマグナスを無視していた。
先発隊の指揮を執るのはグリフだった。ケニーは後方で後発隊を指揮する役割を担った。
グリフの号令のもと、ユージ達を含めた五〇名ほどの冒険者が森の奥へと進軍を開始した。
森の木は背の高い針葉樹が多く、どの木も幹は人間の胴体くらいの太さがある。視界は木々に阻まれ三〇メートルほどしか届かず、奥までは見渡せない。
ただし、少なからぬ者が行き来しているため森を横切る路が自然に出来上がっている。
地面は踏み固められわずかに下草が茂っている程度。歩くのに困難はなかった。
グリフは斥候として数人を先行させ、慎重に森の中の道を進んだ。少なくともオークからの奇襲に備えるくらいの周到さはあった。
もっとも、オークらからの牽制もなく順調な行軍であった。
三〇分ほどかけて一キロほど森の中を進むことができた。
突然、ユージの前の視界が開けた。
辺り一帯の木が切り倒され森の真ん中に大きな空き地ができている。
そして五〇メートル程先には切り倒した木で組んだ防壁が構築されていた。
防壁は高さが三メートルほど。木が隙間なく組まれており木柵というよりはまさに壁であった。
そのため、ユージ達からは防壁の向こう側は見渡せない。
ゴブリンやオークの姿は見えないが、防壁の背後には確かに何かがいる気配が感じられた。
「さてどうする……。 燃やすのが手っ取り早いか……」
グリフはつぶやき、先発隊に帯同した数名の魔道士たちに魔導攻撃を命じた。
グリフの命令に従い数人の魔道士がファイヤーボールを柵に向かって飛ばす。
炎の塊が防壁に向かってうなりを上げた。炎の塊は防壁に当たって空気を震わせる。
しかし、防壁に火は燃え移らず火の玉が弾け、盛大に火の粉を散らしたのみであった。
「防火魔導か……」
舌打ちしたグリフにシルバー級の魔道士が問いかける。
「ファイヤーストームを使いますか?」
グリフは即座に却下した。
「目的はあくまで生け捕りだ。丸焼けにしては意味がない。それにファイヤーストームは魔力の消費量も大きい。肝心の隷属魔導の発動に余力を残さねばならん」
グリフは代わり『ブリット』--魔導による砲弾の一斉斉射を命じる。
グリフの命令に魔道士たちが詠唱で応え、直径五センチほどの黒い塊が防壁に向かって次々と発射された。
黒い塊は防壁にぶち当たると振動と鈍い音を伴い壁を削った。
しかし、人の胴体ほどの木の幹で組まれた壁を撃ち抜いて防壁を破壊するまでには至らない。
オークたちは柵の向こうで我慢強くグリフの隊が突出してくるのを待ち構えていた。
こちらの攻撃にオークが興奮して我を忘れ突出してくるはずであった。が、早くもその目論見は外れた。
しかも、グリフは今回の遠征では森の中での白兵戦と平原におびき出してからの包囲戦を想定しており、攻砦用の武器のたぐいは用意していなかった。
加えて生け捕りが前提。もともと取り得る攻め方のバリエーションは乏しい。
作戦開始早々、戦況は膠着状態となってしまった。




