20 辺境の町・新しい仲間 7
ユージ達は部屋に戻るとマルチナをベッドに座らせ、先ほどマグナスから受け取った治癒ポーションをマルチナに渡そうと差し出した。
しかし、マルチナは受け取らずユージを疑わしそうな目で見つめる。
「飲んで大丈夫?」
「マグナスは信用できない?」
「まあね」
マルチナはしばらくユージをみつめたが、マルチナはそれ以上は何も言わず、ポーションを受け取ると緑色に光る液体を口に含んだ。
マルチナの体が一瞬光りに包まれた。
白い肌が薄っすらと上気して赤みをおびる。明らかに顔色が良くなった。
「……たしかに傷が塞がった気がするかな?」
「ほらっ、マグナスを疑うなんてどうかしてるよ」
しかしながらマルチナは納得いかない表情をユージに向け、マグナスとの話を蒸し返した。
「さっきの話だけど、明日この町を出るって決めたんじゃなかったっけ?」
「そのことだけど、マグナスは危険な魔人がいるかもって言ってたでしょ。彼らについて行けば大物に接触することができるかもしれない」
「……」
「仲間を増やす絶好のチャンスだよ」
「んー、いるかも知れないけどねー」
やはりマルチナはあまり乗り気ではないようである。
「アテもなく歩き回るよりもましでしょ?」
「でも、多くの冒険者が参加するんでしょ? 偽名がバレる危険は?」
「大丈夫だよ。万が一のことがあれば俺がマルチナ(さん)を守るよ」
「えー、全然安心できないんですけどー」
確かにユージにマルチナを守り切る自信はない。
なんと言っても、最低限の能力しかないことは嫌という程自覚している。
「自分もマルチナのように戦える力があればな……」
ため息とともにつぶやくユージの耳に、マルチナが思いがけない言葉が届いた。
「ユージにも一応戦う力はあるけどね」
「えっ?」
ユージはマルチナを呆けた顔で見返した。
「わたしはユージと盟約を結んで全てを捧げたことになってるけど、それには能力も含まれるんだよね」
「能力も?」
「そう」
それって実はすごいチート? 配下を増やせばどんどん最強の存在になっていくってことじゃん。
ユージは一気にやる気があるれる。
ユージは右手を見つめ爪が伸びるよう念じた。
すると、音も無く右手の爪が伸びていく。
ユージは思わず驚きの声を上げた。
しかし、一〇センチほどで爪は伸びるのを止めてしまった。
ユージがいくら念じてもそれ以上伸びることはない。
「あのー、止まっちゃったけど?」
「鋼の爪の長さはその個体の能力に比例するんだよね」
「つまり、自分の能力が低いから、この程度ってこと?」
マルチナは残念そうに黙って頷いた。
「ちなみにマルチナ(さん)はどのくらい伸びるの?」
見える限りどこまでも伸びるので敢えて限界まで伸ばしたことはないとのマルチナの返事に、訊かなければよかったとユージは肩を落とした。
気を取り直し、それなら翼はどうかと背中に力を入れ羽が出てくるところをイメージする。
するとヒヨコのような羽が現れた。
天使の羽かよ……。
ユージはまだ飛べないことを確認しただけだった。
ファイヤーボールも試してみたが、お化け屋敷の火の玉の代わり程度には使えそうなショボい代物だった。
防殻を発動するも、ようやく直径にして五〇センチ程度。
まるで、チャンバラ遊びの子供がポリバケツの蓋を盾代わりする感じ。
さっきまでの高揚した気分が一気に萎んだ。
「気落ちしないで。成長すれば、能力は上がってくるよ」
ユージにマルチナが慰めの言葉をかけた。
(魔法が使いたければ、励めばよい……)
ユージは地下迷宮での老人の言葉を思い出す。
励めばほんとになんとかなるのか……?
ユージはため息を付いた。
翌朝、二人が宿を出ると、早朝にもかかわらず入口の脇にマグナスが立っていた。
思いがけず驚くユージ達をマグナスは笑顔で迎えた。
「よく眠ったかい? 迷うとまずいから迎えに来てやったよ」
「……ありがとうございます」
狭い街で迷うはずもないだろうと思ったが、おそらくマルチナ目当てであろう、半ば呆れながらユージは礼を言った。
マグナスの後についてユージ達が南門の前の広場に着くと、そこにはすでに大勢の冒険者たちが集まっていた。それぞれ出発前の武具の点検や、他の冒険者と情報交換をしている。その多くが、胸のペンダントを見る限りアイアン級かブロンズ級の冒険者であった。
「一〇〇人以上はいるかな?」
「そうね」
マルチナの同意に、ユージは予想以上に大掛かりな作戦だと気を引き締め直した。
その時、マルチナが集団の中に昨日の髭面の男がいることに気付きユージに無言で指し示した。マルチナが指し示す先には髭面の男に取り巻きの3人が立っていた。
この遠征にはこの町にいる冒険者の多くが参加していることからして、奴らがここにいてもおかしくはない。しかし、できれば会いたくなかった。
ユージは、面倒ごとは避けたいこと思い、マグナスにそれとなく髭面の男の存在を告げ、彼らとは距離を取った場所に腰を下ろした。
ほどなく、フルメタルの甲冑の男が冒険者達の前に現れた。
首には金のペンダント、ゴールデン級の冒険者であった。