後輩との話。その3
月日は巡って卒業式になった。
秋の文化祭での美術部による作品展用の絵やら立体作品の制作を期に、僕ともう一人の3年生の美術部員は引退という事になっていて、それからは受験に控えるという事になっている。
まぁろくに長々と勉強してはいないけど。
学校の周りは時期が時期だけあってまだ桜が咲くには季節としては早く蕾がある程度の木々と子の晴れ舞台を見に来た親で溢れかえっている。
小学校の時の卒業式はやはりというべきか大体の人は変わらずエスカレーター式で近くの公立中学に入学するという事もあって、泣く姿を見せる人は本当に稀であったが今回は卒業すれば一緒になるのはホントに一握りの人数だ。
そんな事もあってか泣く姿を人前だというのにさらす生徒も少なくはない。
かくいう僕は泣かなかった。
みんなが嫌いだったのかはいまいち分からないけれどしかし泣くことはなくて今日はしずくの一つも目から落ちていない。
別れの涙を全く零す気配を見せない自分が何故か自分であるのに薄情な奴に思えてきた。
と言うよりは恐らくだがちゃんとした"別れ"という事への実感が沸いていないだけなのだろう。
君が代と旅立ちの日に。
その定番の二つと校歌を歌った。
別れは惜しいとは思うけれどどうせ早いか遅いかの違いに過ぎないと思っていた。
友人と卒業式後の軽い雑談を交わすところに一つの声が聞こえてきた。
快活明朗な女生徒の声だ。
「せんぱい!!」
「ん……高後か……」
部活を引退してからは会う回数は極端に減っていて今日会うのが少し久しぶりな気がする。
「えっと……第二ボタンください!!」
(古……)
今まで一年間……というか半年くらいだが後輩として関わりを持っていた。
しかしこいつがここまで思考回路が古い野郎だとは思っていなかった。
こんな言葉を吐くのはせいぜい昭和か平成序盤の人間位のものだと今まで僕は決めつけていたが……。
いや流石に周りにそんなことを要求してくる人間は見当たらないしやはりこいつの思い描く卒業の形というか恒例の行事みたいなものがこういう物ということだろう。
「……流石にボタンは無理だわ……この先に面接もあるし……」
「うー……」
「まぁ、機会があったらまた遊ぼうぜ」
彼女の顔が明るくなる。
「はい!」
そして元気な声で返事を返された。
僕はそのまま家路をたどった。
連絡先すら聞かずにいた。
多分僕はもうこの学校の美術室を訪れることはないと思う。
自室のベッドでようやく後悔の涙を流した。




