4.珍しい客(2)
次の日の朝食は、ラズベリーティーと甘いパンと、ハーブとサラミ入りのチーズと、サラダ。
少し湿気がある二階へ食べ物を運ぶ。
四人掛けの木のテーブルの、テーブルクロスは分厚い白布で、藍色の刺繍が大胆に渦巻いて水や火を表している。
一人で使うには少し広すぎる空間。
~砂漠で一番高い椰子の下に、
砂漠で一番深い井戸がある。
その井戸の水を汲んで来られるなら、
泣きそうなまま乾いてしまった私の心を潤せるでしょう~
砂漠の歌を思い出した。オアシスに住んでいた頃、野外の台所で料理をしながら、火影で母がつぶやくように歌っていた。
「泣きそうなまま乾いてしまった」
せっかくだから、食べるのを一休みして歌ってみた。
「私の心を潤せるでしょう」
「心を」のところでこぶしが効いていて、「でしょう」は丁寧に折り畳むように歌う。全て砂漠の言葉で、この四行のフレーズは同じくらいの長さの文章である。
自分の声が部屋の壁に響いたのを聞いたアッチェラードは、歌い終わってもすぐには食べ始められなかった。
私はここにこうして一人で生きているのだなあ、と感じた。
朝の光が窓ガラスから射し込んでいる。このガラスは無色だけれど、もしも人の目には見えない色がついていたなら、私が今朝食を食べているこの部屋はその色に染まっているのだろう。
「悲しみ」は何色なのだろう。「悲しみ」を透過した光の中で私は生活しているのだろうか。だとしても、私には分からない。
アッチェラードは甘いパンを食べ、ラズベリーティーを飲んだ。
うん、合うね。次は生姜パンとカモミールティーで試してみようか。