第6話:差し迫る恐怖(2026年2月27日・金曜日)
金曜日の朝、起きると世界は昨日よりさらに不安定に見えた。
時計の秒針が飛ぶように進む、テレビの映像が止まる、街の人々の動きがわずかにぎこちない――異変は、日常のあらゆる場所に現れ始めていた。
「……あと二日か」
俺は独り言を呟く。29日までのカウントダウンが、肌で感じられるほどに迫っている。
登校途中、美月と合流する。駅前の人通りは普段より少なく、店も早めに閉まっているように見えた。
「翔、昨日より酷いね……」
美月の声には、冷静さと同時に恐怖が混ざっていた。俺も同じ気持ちだ。
教室に入ると、窓の外の光が微かにゆがみ、時計の針が正常に進んでいないように見える。教室の空気も、わずかに重い。周囲の同級生たちは何も気づいていないようだが、俺と美月にははっきりと異変が伝わる。
昼休み、俺たちは校庭のベンチに座る。
「翔、私たち、どうすればいいんだろう……」
美月は小声で言う。俺はノートを開き、昨日までの異変を整理した。
「記録して、確認して、29日までに何が起こるか予測するしかない」
俺は答える。美月も頷いた。二人で協力することで、少しだけ不安が和らぐ。だが、世界のずれは日に日に大きくなっているのが分かる。
午後の授業中も、俺は窓の外や教室の時計を無意識に確認していた。光の角度、影の長さ、秒針の微妙な飛び――小さな異変が日常を覆い始めている。
放課後、駅前で美月と再会する。街の時計がまた少しずれている。夕暮れの空に、いつもとは違う色の陰影が落ちていた。
「翔、もうすぐだ……」
美月の言葉に、俺の心臓が速く打つ。恐怖が、日常にじわじわと忍び寄る。だが、手を取り合うわけにはいかない。互いに距離を保ちながら、それでも存在を感じ、支え合う――それが、今の俺たちにできる唯一のことだった。
29日まで、あと二日。
世界の異変は確実に迫っている。俺は美月と共に、その日に立ち向かう覚悟を胸に、夕暮れの街を歩いた。




