第5話:前兆の夜(2026年2月26日・木曜日)
木曜日の夜、俺は部屋のカレンダーをじっと見つめていた。
2月の数字は確かに並んでいる。22日から始まった違和感は、日に日に大きくなっている。昨日までは微かだったずれが、今日はもっと鮮明に感じられた。
「……まさか、こんなに早く進むとは」
独り言を呟く。時計の秒針は正常に回っているはずなのに、体内の感覚は勝手に狂っているようだ。テレビの画面も、昨日より映像が乱れる。歓声の音が遅れて聞こえたり、映像の人物がほんの一瞬止まったりする。
スマホを見ると、美月からメッセージが来ていた。
『翔、夜になっても異変続いてる。私の家の時計もズレてる……。怖いね』
俺は返信する。
『うん、俺もだ。何か大きなことが近づいてる気がする』
夕飯を食べ終わった後、部屋の窓を開ける。夜の街は静かで、遠くで犬が一声鳴く。いつも通りの夜景なのに、どこか不安定な空気を感じる。窓の外の街灯が、微かにちらついて見えた。
「……29日まで、あと三日か」
数字を呟く。胸の奥がざわつく。昨日までの違和感が、夜の静けさの中で膨らんでいるようだ。美月に会って、互いに確認しなければと思ったが、今夜はまだ連絡を待つしかない。
ベッドに腰かけ、ノートを開く。これまでの異変を整理し、どの時間に何が起こったかを記録する。昨日の街の時計のずれ、学校での微妙な光の変化、そしてテレビやスマホの乱れ――小さな前兆が、確実に日常を侵食していた。
「……何が起こるんだろう」
俺はつぶやきながら、窓の外をじっと見つめる。風も音も、昨日までと同じなのに、どこか違う。世界が微かに歪み始めている気配を、俺は感じていた。
時計の針が一分一秒と進むたび、29日の影は確実に近づいている。俺はその影の中で、美月と共に立ち向かう覚悟を、胸に静かに決めた。




