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第一三話

中学時代。

ぼくは平凡で平均的な人間だった。

その現状は今も変わらず楽しんでいたのかもしれない。

部活動に所属していたぼくは、毎日青春の汗をかくのが日常業務の1つ。

決して大変とは思わなかった。

いい汗をかき、中学生とはこんなものかと実感。

部内での強さはまあまあだった。

特別強かったわけでもないし、特別弱かったわけでもない。

至って普通の人間だった。

大人になっても、ある程度の仕事をこなし、恋愛し、結婚し、家庭を持つ。

その幸せがきっとたまらない幸福なのだろう。

そうぼんやりと思っていた。


「こんにちはっ!僕様ちゃんは篠崎しずこ。平凡な人間には興味ないの☆未来人・宇宙人・超能力者がいるのなら、僕様ちゃんを楽しませに早く来なさい!!以上」


強烈な印象を残して転入してきたのが、篠崎しずこだった。


「・・・・・・・・・」


先生も開いた口が塞がらずにいた。

ぼくは頭のおかしい女が入ってきたなと思ったくらいで、特になにも。

多感なお年頃の中学生。

変な電波を受信して、妄想と現実の区別を付けずに、生きる人もいるのだろう。

そういう子は普通特別学級に行くものなんだけど、まあいい。

同じクラスメイトだからと言って、全員と関わる必要なんてない。

せいぜい同じクラスでいる間は名前を覚えておけば良い。

うん、問題なし。

―――ぐらいだった。


当然の如く、篠崎しずこはいじめられた。

普通でない彼女は普通のものに虐げられる運命がある。

ぼくは直接的にはいじめに参加しなかった。

正確には、気にも止めずにいた。

いじめても面白くないので、見て見ぬ振りもせずにいた。

ただ傍目から見ても、篠崎しずこは屈しなかった。


「・・・・・・・・・」


無関心を通していたようだ。

朝、学校に通えば、上履きが無くなっている。

彼女は毎日新しい上履きを持参して、探すということをしなかった。

ロッカーの中には、ゴミが溢れかえっている。

毎日のゴミ袋の中身が、そのまま篠崎しずこの中にぶちまけられていた。

机や椅子が消失するなんてしょっちゅうで、よく先生に怒られていた。

なにをやっているの、と。


抵抗のしない彼女に対するいじめはエスカレートする一方であったけど、先生の前ではいい子を演じていたいじめっこたち。

ものがなくなったら探してあげて、一緒に楽しい会話を繰り広げているように見えた。

一番酷かったのは、なんだったのだろう。

耳にした話ばかりで、よく覚えてはいない。



秋が夕暮れ。

転校してきて数ヶ月経った彼女が突然、HR内で立ち上がり宣告した。

自ら動くことのなかった彼女。

クラスの全員が注目し、面白がっていたに違いない。


「・・・・・・・つまんないよ☆みんなの実力ってこんなものなの?僕様ちゃん、飽きちゃったよ。あまりにもつまらなくて中身がなくて、面白味がない。そろそろ終わりにしちゃう☆」

「篠崎さん。どうしましたか?」


きっといじめのことを告発するのかと思っていた。

酷いを通り越して、残忍だったと聞く。

学校という閉鎖的なコミュニティーで、人はどこまでも容赦なく人をなぶることができる。

社会の縮図がそこにあるのを、感じていたに違いない。

堪忍の尾が切れたのか。

たぶん彼女が全てを話し、先生が、原因の追究を計るため、HRは延長戦を迎え、部活の参加はできなくなるだろう。

一生懸命やっていたわけではないし、たまにはいいのかもしれない。


「そこの君でいいや」


窓の外を見ていたぼくを指さして、にんまりと笑った。


「僕様ちゃんは、この子に苛められていました。毎日毎日のいじめに耐えられなくなりました。先生、この子を処分して下さい」

「えっ?」


言っている意味が分からなかった。

クラスメイトも彼女の言葉を理解していたとは思えない。

ただ彼女がぼくを指さしたので、ぼくを見つめ、全ての視線が、ぎろりと向けられていた。

先生は彼女の言葉を受けて、お話がありますので、と事務的に対処していた。


たぶんここからだったのだと思う。

彼女の玩具にされて、ぼくの普通が壊れさたのは。


先生はぼくを問いつめた。

ぼくは身の覚えがない。

眺めているだけでも罪だと言うのなら、あなたも罪人の1人である。

彼女は一切、口を開かない。

はい、うん、と頷くだけ。

翌日、いじめの問題についてディスカッションが行われた。

いじめの主犯の人物は、いじめがいかに悪いのかを説明。

クラスのみんなもそれに賛同。

クラスの前で言えない人のために、ペーパーを配り、いじめについて書かされた。

それを先生がぼくに突きつけた。

後日、保護者の立場である親戚が教室を訪れ、三者面談を行った。

こんなことをする生徒ではなかったのに、と口を揃えていた。

頭を冷やす意味での自宅謹慎を貰い、学校に登校すると、ぼくの居場所はなくなっていた。

対象が彼女からぼくに変わっていた。

いじめをする人間なんだから、いじめられるのは当然だ。

全員が解答を分かっているはずのに、間違いを選んでいた。

彼女は、クラスメイトのみんなに声を貰い、平穏無事な学校生活へと戻る。

ただぼくへの視線は冷淡で虫けらのように扱われる。

世界が一変した感触。

仲の良かった友達に避けられ、親戚の伯母さんにドヤされて。

ぼくの普通は普通ではなくなった。

いじめる理由など、元々存在しない。

ちょっと変わっているから。

なんとなくムカつくから。

理由としては十分過ぎる。

これからの中学生活は、暗黒時代を迎える。

篠崎しずこのせいで―――

だから、ぼくはらしくもなく彼女に近寄り言い放った。

おまえのせいで。


「うん。僕様ちゃんのせいだよ。君、僕様ちゃんに全く関心なかったもんね。他の誰もが僕様ちゃんを注目しているというのに、君だけは僕様ちゃんを見ていなかった。それってムカつくんだよね☆」


なにを言ってるんだ。


「僕様ちゃんはね。楽しませてくれる人間が好きなの。楽しませてくれないなら、せめて僕様ちゃんのことを忘れないような眼差しを向けて欲しいの。例外を認めたくない。例え、良い意味でも悪い意味でも無関心な人間は放っておけない。僕様ちゃんを忘れさせたくないの☆」


はあ?


「悪いことをしたなんて思ってないよ。ちゃんと目標は達成できたもんねー☆僕様ちゃんは僕様ちゃんのために生きている。あいつのものも僕様ちゃんのもの。世界は僕様ちゃんのもの」


・・・・・・・・・・・


「頭の悪いイかれた女の虚言癖だと思ってそうだよねー☆君、普通をこよなく愛してそうだもん。でもねー僕様ちゃんは、変を実現させるための力を持っているのん☆だって、僕様ちゃんはーーー」



嘘をつけ。


「アハハハハハ☆ホントだよ。信じてないねー☆僕様ちゃんの凄さを思い知らせてやろおー」



そして、次の日。

担任が諸事情により転勤をした。

いじめの主犯のメンバー全員の親が、急に解雇通告をもらったらしい。

あの日以降、疎遠になっていたクラスメイも進んで話しかけていた。

できすぎている。

現実感が全く存在していないおとぎ話のようだ。


「これで信じてくれた☆」


信じるもなにも。

これはウソだろ?


「うん嘘だよー☆普通はありえない。でも、僕様ちゃんは普通じゃない。普通じゃないことをできるエリートさまなの。えっへん、誉めて誉めてー」


なにをした?


「何でもできるよ☆こんな庶民の生活なんて壊せるくらいには全治全能☆君だって僕様ちゃんのもの」


そう言って、彼女はぼくの体の体内の進入を計った。

ぼくは言葉も出なく、されるがまま、犯された。

目の前での光景が偽物としか思えない。

だって、ここは学校で、授業を受けて、嫌いなテストをして、友達と話、忘れていく場所。

ぼくの日常はここにあり、ぼくの日常で非日常的なことが起こっている。

今、ぼくの前で、声を荒げて、愉しそうにしている彼女は誰だ?


(篠崎しずこ)


今、腰を振り、言われたことをこなし、悦に入っているのは誰だ?


(ぼく)


感覚が失われている。

事実が事実として認められない。

頭がおかしくなったのか?

おかしい?

ぼくはいつからおかしくなったんだ。

篠崎しずこに摘発されてから?

篠崎しずこのことを見て見ぬ振りをしてから?

篠崎しずこが転校してきてから?

それとも、はじめから嘘で、どこにも本物がなく、全てが偽物で彩られていたんじゃないか。

わからない。



自分を信じることができなくなった。

世界を信じることができなくなった。

全てがどうでもいい―――



そんなぼくを殴りにきたのが和泉だった。

昔からの知り合いで友達でも何でもなかった―――ただのクラスメイト。

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