出会い《ロメル編》その3
「おーい、蛇ノ目ロメル!そいつが例のチャラ男かよ?」
この声は‥‥‥‥小白くん。
顔を上げると目の前には小白くんと麻井くんが下卑た笑いを浮かべて立っていた。
まだついて来るなんて‥‥‥‥どんだけ暇なのよ‥‥‥あんたたち。
どうしたら私から離れてくれるの?
「小白くん、麻井くん。まだ何か用なの?」
もう、抗う気力も出ない。
私はうつ向いた。
「何だよ?おまえ、泣いてんの?はーん‥‥‥‥もしかして、振られた?別れ話してんの?」
ただ、ポシェットの紐を握りしめ自分のブーツの先を見てうつ向いてる私の顔を覗き込んで来ようとしてる。
もうやめて‥‥‥私の顔を見ないで‥‥‥私にかまうのは止めて‥‥‥‥
「‥‥‥‥おまえら、ロメルから離れろ!」
えっ?‥‥‥‥流河くん?
ロメルって‥‥‥‥‥私のこと、誰だかわかったんだ!
沙入くんから聞いていたのね?
私は振り向いた。
そこには、超然とした鋭い眼光。冷たくあいつらを見定める表情。
流河くんは素早く私の腕をつかみ私を自分の背中に隠した。
きゃっ!すごい力!
流河くんの背中。
この背中に頼っていいの?
私を助けてくれるの?
「‥‥‥‥聞いたぜ!おまえ、俺らと違う学校のさ、蛇ノ目とできてるっていうチャラ男なんだろ?」
「それがどうした?」
流河くんは私を後ろ手でかばいながら投げ捨てるように言った。
「だったら自分の学校の女子を相手にしろよ!蛇ノ目ロメルは俺らの学校のもんだぜ?」
「は?なんだそれ?」
流河くんはバカにしたように嗤った。
ほんとだわ!そのおかしなマイルール。ワケわかんない人たち。
「おまえ、蛇ノ目を泣かせてんじゃんか!蛇ノ目も泣かされてんだったらそんなやつほっといてこっちへ来いよ!」
麻井くんが私に向けて言った。
私が泣いてしまったのは元はと言えばあなたたちのせいなのよ!
流河くんのせいじゃないの!
流河くんの背中越しに私は心の中で叫んだ。
「ちげーよ!ロメルは俺に会えて嬉し泣きしてただけだぜ?バーカ。」
えっ?
流河くんも私のフェイク彼氏をしてくれているの?
‥‥‥‥‥そうか、きっと流河くんは沙入くんから私がェイク彼氏を必要としてる事を聞いているんだ!
「はぁ~?ちょっとイケメンだと思っていい気になってんじゃねーぞ?やんのか、俺らと?」
「あんた、マジ、胸くそ悪いやつだな!なんだよ?自信過剰すぎじゃね?反吐がでるぜ!」
小白くんと麻井くんがマジ怒ってる‥‥‥‥‥
流河くん確かにカッコいいから無駄に反感買ってる。
でも、こんなところでケンカなんかしないで!
ほら、通りすがりのカップルがチラチラこちらを見ているの。
流河くんはちょっと振り向いてこそっと言った。
「おい、駅まで走るぞ。」
空白の5秒後、
流河くんはいきなり振り向くと私の右手首を掴んで走り出した。
すごい力!私、浮いちゃいそう!
「おいっ、逃げんのかよっ?」
「けっ、情けねーやつ!嗤えるせ。」
小白くんと麻井くんが罵る。
公園を出たところで小走りに変わった。そして流河くんは私の手首を掴んだ手を手首から手へとすべらせて握った。
握られた手が熱い‥‥‥‥‥
途中、ちらっと振り向くとあの二人はもうほとんど歩いているみたいだった。
良かった。もう大丈夫みたい。
新黒豆駅の前についた。
私たちは壁際に寄って一休み。
はぁ‥はぁ‥はぁ‥‥‥私、息切れしてる。
流河くんはずっと私の手をきつく握りしめたまま。
手をつないでくれたってことは‥‥‥‥
私のこと、もう、おかしな子って思ってないよね?
私のこと、もう怒ってないよね?
私のこと、嫌いになってないよね?
ねえ、お願い。そう言って。
流河くんの横顔を見た。
走ったのに息切れも汗もかいてない。
涼しい顔のまま。
沙入くんとは違うタイプ。
精悍な感じ。だからってマッチョな感じでは無いみたいだけど。
握りあった手がじんじんする。
ドキドキがなぜか収まらない。
もしかして、この手のせい?
「あの‥‥‥‥手。」
私が言うと流河くんはどうでも良かったことのようにパッと手を離した。
私はちょっと傷ついた。
「ここまで来れば大丈夫だろ?」
流河くんは私をちらっと見てから言った。
「はい‥‥‥‥‥そうですね。」
なんか私、ぞんざいな扱いされてるみたい。
胸の奥の方で大きく一回、ずっきんと鈍い痛みが起こった。
私が胸を押さえていたら流河くんが私の好きな無糖の紅茶のペットボトルを差し出してきた。
「飲む?これ、買ったばっかだし。」
「でも、これ流河くんの‥‥‥‥」
「いいって。」
ぶっきらぼうに寄越してきた。
なんだか、すごくうれしい‥‥‥‥‥
「ありがとう‥‥‥‥‥‥‥‥おいしい。」
流河くんに貰った紅茶が喉にしみた。
なぜだか胸がすーっとしてきた。
私は流河くんが気にかけてくれたことでほっとしたような落ち着いた気持ちになってきていた。
貰った紅茶を飲んでいたら、ふと横目に見えた!
私のこと、羨ましそうに見てる!
流河くんも、喉渇いてたんだ!
そうだよね!見た目涼しげな顔だからって。走ったんだもん。
私だけ、ごくごく飲んじゃって‥‥‥‥‥!私はなんてたわけもの!
流河くんに気の利かない女の子だと思われてしまったの!そんなの最悪。
「ごっ、ごめんなさい‥‥‥‥私だけ飲んで。私、新しい飲み物買ってくるわ。同じのでいいかな?」
私は急いで取り繕った。
「いいって、別にっ。」
「でも‥‥‥‥喉、渇いてるんでしょう?」
「あ‥‥‥まあな。」
ああ、やっぱりそうだったの!
「じゃあ、買ってくるわ。」
「だから、いいっていってるじゃん。」
「でも‥‥‥‥」
内心私のことあきれているよね。
私、本当にダメな子。
流河くんもしかして、その困惑顔、私にさんざん迷惑かけられてうんざりしてるの?
「じゃあ、それかせ。」
流河くんはいきなり私の飲みかけのペットボトルをもぎ取った。
「えっ?」
そして、突然一気飲みした。
‥‥‥‥‥‥これって間接キス。
「どうかした?なんだよ、ロメルはもっと飲みたかったのかよ?」
「‥‥‥‥‥‥‥いえ。」
私は流河くんに握られてるカラになったペットボトルを見た。
‥‥‥‥‥‥そういうの気にしない人なんだ?‥‥‥‥流河くんにとって特別な意味はないのね‥‥‥‥‥
でも、私は。
ほほが熱い。
また鼓動が騒ぎ出す。
「ロメル、もしかして、トイレ行きてーのか?」
「えっ?ち、違います!」
どうしてそうなるの?
私そんなにキョドってる?恥ずかしい!
流河くんにトイレ我慢してると思われてしまったなんて。
超カッコ悪い!
もう、至急話題をそらさなければ!
「えっと、あの、もうそろそろ待ち合わせの時間です。私、二葉ちゃんとさっきのコンビニの前で待ち合わせしているの。」
「ふーん。さっきのやつらがいるかもしんねーな。俺も一緒に待ってやるよ。行こうぜ!」
‥‥‥‥流河くん、優しい。
「‥‥‥‥‥はい。」
私たちまだ自己紹介もしてなかった。
二葉ちゃん遅れて来てくれたらいいのにな。
そしたら流河くんと二人でお互いのことお話できるのに。
私は歩き始めた流河くんの背中を見つめながら思った。




