1話【放課後の出会い】
さて、始りました!これから、どんな展開になっていくんでしょうか?
(シャ…ッ)
まぶしい日差しが差し込んでくる。その光に、思わず顔を歪めてしまう。何だか、今日は特別天気がいい気がしてきた。ま、ただの気のせいかもしれない。早々と着替え、高校へ行く準備をする。今日から新学年だ。そのせいで、いつもより早めに出なくてはいけなかった。まったく、忙しい朝はどうも好きになれない。時刻は―――7時を5分ほど過ぎた頃だった。
「行ってきます。」
誰もいない部屋に一言添えて、扉の鍵を閉める。一人暮らしを始めて、早3年。故郷の星谷村を離れて、約10年になる。故郷での生活は、ほとんど覚えていない。妹からは、顔を出せという手紙が、何通も届いている。行きたいのは、やまやまなのだが、如何せん遠いのだ。気軽に行けるわけでもなく、暇があるわけでもない。そんな逃げ方をしている内に、いつの間にか10年もの年月が経ってしまった…と、言うわけだ。
家を出て、大通りをまっすぐ行く。そして商店街を抜けて、左に曲がる。そうすると、丘の上に大きな学園が見える。その学園こそ、俺たちが通っている高校『私立虹の宮学園』である。中高一貫のこの学園は、とにかく生徒数が多い。高校のクラスだけでも、1学年18クラスまである。これでは、知らない奴の方が多い。
しばらく歩いていると、後ろから声をかけられた。
「よぉ、榎本!」
「お、宮野。おはようさん。」
こいつは、宮野一樹。俺の親友。去年出会ったばかりだが、色々話している内に馬が合い、よくつるんでいる。2年の半ばまで、ほとんど友達のいなかった俺に、優しく声をかけてくれた。本当に感謝している存在だ。
「なぁ、エンペラー寄って行っていいか?」
「ああ。構わないぜ。今日の昼は、パンにするのか?」
「まぁな。ま、どうせ半日だろうけど、そのまま出かけたいから。」
「本当に遠出が好きだな。」
「新しい発見こそ、男のロマンさ。」
「違いない。」
こんな、くだらない話をしながら、俺たちは学園へと向かった。歩いていける距離にあると言うのは、やっぱり良い。学園までの風景を楽しみながら、のんびりと歩みを進めていった。
校門を抜け、3つある校舎(実際は4つだが)の2つ目の校舎の下駄箱へ向かう。俺たちは、今年3年生だ。校舎は1号館の2階に位置している。下駄箱を抜け、目の前の階段を昇り、俺たちのクラス『3年11組』へ向かう。
(ガラッ)
教室のドアを開けると、去年と全く同じメンツが顔をそろえていた。2年生から3年生に上がる時は、クラス替えをしないからである。まぁ、そのおかげで、宮野とも一緒にいられるわけだが。宮野のおかげで、俺も少しずつこのクラスとも打ち解けてきた。
席に着き、担任を待つ。今日は始業式だから、朝のHRが終わったらそのままプラザ45に移動になる。プラザ45とは、体育館みたいなもので、始業式や卒業式、その他色々な学園行事を行っている場所だ。何で“45”かと言うと、この学園が建設45周年目に合わせて建てられたからだ。因みに、スタジアム35と言うものもある。大きな陸上競技場だ。
「しかし、相も変わらず…西藤先生は遅いな。」
隣で宮野がぼやいている。まぁ、確かにあの担任は遅い。去年も一緒だったから、よく分かる。
「滝川~!始業式、何時からだっけ?」
「あ?あぁ、確か8時45分からじゃなかったか?」
こいつは、滝川慎吾。宮野の友達の一人だ。宮野とは、1年からの付き合いらしい。
「ったく、いつも遅ぇーよな。西藤は。」
「全くだ。その代わり、授業の時だけは早いんだよな。」
「あぁあぁ、あるある。確かに。」
悪態をついているのが、もう一人の友人。田宮祐介だ。因みに、普段はこの4人で良く話している。夏季セミナーのメンバーでもある。あの時から、俺の周りの景色が変わった。こんなにも、愉快で馬鹿な奴らがいた。そう思うと、もう少し積極的になればよかったと、後悔する時もある。だが、過ぎた時間は戻らない。だからこそ、残り1年を、悔いの残らないように過ごしていきたいと思った。
(ガラッ)
「HR始めるぞー!席に着けー」
担任の登場だ。今の時刻、8時30分。悠長にHRなんかしている場合じゃないだろうに。とは言え、先生の立場上仕方ないのか、時間が無くとも、始業式に関する諸注意やお知らせを簡潔に述べる。しかし、毎年行っている行事だけに、内容は把握している。耳にタコな状態だ。
「――と、言うわけだ。早めにプラザ45へ向かえよ。」
「「はーーーい!」」
長い話が終わった。とりあえず、宮野達とプラザ45へ向かった。プラザ45は、1号館を抜けて、その先の理科棟を通過する。そのまま外の廊下へ出ていき、本館と体育館(今は旧体育館)の間を通って行く。その先には、中学棟がある。そこを抜けていき――ようやく到着と言うわけだ。
プラザ45に着くと、各クラスの席へ座る。今回は2階席だった。ここは、寝ていてもバレないと言う、特権がある。始業式なんて言うのは、退屈極まりない。真面目に聞いていても、何があるわけでもない。だから、寝るに越したことはない。…これは、宮野の名言だ。いや、迷言かもしれない。椅子に座るや否や、宮野は速攻で睡眠体勢に入る。
「やはり眠いな…。やっぱ寝るか。」
「相変わらずだな…。」
「少しは我慢できないのか?」
矢継ぎ早に、宮野へ言葉を投げかける。宮野は、ダルそうに答える。
「我慢って言葉、この世で4番目に嫌いな言葉だ…。」
残りの3つは何なのだろうか。
「でも、ちゃんと聞かないとだよ?一樹くん。」
「だがよぉ…。」
かなり眠そうな声で、宮野は返した。
「まったく。ホントにだらしないわね。はぁ…。」
野郎どもで談笑していると、女子の声が聞こえてきた。このクラスで唯一の存在かもしれない。何の隔たりもなく、気さくに話しかけてくる。名は、美浜亜美。何故か、俺と宮野と話が合う。今では、滝川と田宮と同じように話す事が出来る。
「まったく、亜美は真面目だなぁ…。」
「一樹くんが不真面目なだけでしょ?」
「ま、そうとも言えるな。」
俺があいづちを打つ。だが、どうやら眠気には勝てないようだ。宮野は、ゆっくりと夢幻の彼方へ、舟を漕ぎだし始めた。
「ZZZZ…」
完全に寝た。
「仕方ない。バレない事を祈るか。」
「そうね。」
(ガヤガヤガヤ…)
「ん?」
何やら下が騒がしい。何事だろう?俺たちの席の下。クラスで言えば、3年13組の辺りだった。
「滝川。ありゃあ、何の騒ぎだ?」
「あぁ、御影さんの話題じゃねーのか?」
「御影さん?」
聞いたことあるような…。…だめだ、思い出せない。何分、女子の話題とかには疎いので評判だからな。宮野も同類だろう。興味を示しているのは、あまり見た事がない。
「3年13組、御影碧海さん。孤高の美少女よォ。」
「何で人気なんだ?」
「そりゃあ、榎本。容姿端麗、頭脳明晰。高嶺の花の存在だよな。」
そんなに可愛いのか。あまり興味はなかったが。
「それに、みんな彼女と話がしたいだろうからなぁ。」
「話?そんなん、普通に話せばいいじゃねーか。」
いくら高嶺の花だからって、話が出来ない訳じゃないだろうに。そう、思っていた。
「それが、彼女の喋っている姿は、今の今まで…誰一人として、聞いたことないんだよ。男子は勿論、女子だってな。」
「は?」
話さない?どうしてまた。そんな疑問がよぎる。普通なら、そこまでいっていたら、誰も近付こうとしないもんなのだろうけど、やはり何かあるのか…。彼女は、話題の中心だった。…話さない理由。…一体何なのだろうか…。
「ZZZZ…」
こんな話題にも、まるで興味なしの宮野。こいつは、ホントに睡眠が恋人だな。
「俺も、御影さんの声は聞いてみたいな。」
滝川がぼやく。そして、同じく田宮も同じような事を言っていた。
「まー、クラス違うし、会う事もないとは思うけどな。」
「夢がない奴だな。榎本は…。」
当たり前のことを言ったつもりなのだが、何故か滝川達から非難の嵐を浴びてしまった。…夢、ねぇ。出会いに夢も奇跡もあるのかね。俺は、そんなことは無いとは思うんだがな。…恋愛なんて、傷付くだけだ。傷付け合いの…繰り返しだ。俺は、そう思っていた。去年の事を、少し思い出しながら―――
―――
そして、時間は過ぎていき…。放課後になった。放課後と言っても、夕方ではないが。今日は、始業式だけだから、半日で終わったのだ。宮野は、終業と同時に、急いで帰って行った。またどこかの山でも登るのだろう。しかも、チャリで。俺もたまに、宮野の旅に着いて行くが、あいつが行くところは本当の田舎道や山だから、体がもたない事がしばしばある。…まぁ、楽しいから構わないのだが。
帰り支度を済ませ、下駄箱へ向かっていると、西藤先生に呼ばれてしまった。
「おい榎本。今少し時間あるか?」
「はい。どうしました?」
今日は特に用事はない。用件を聞くことにした。
「整備美化の仕事を、手伝ってほしいんだ。特進クラスだけで構わないから、戸締りとかの確認をお願いできるか?」
「はい。わかりました。終わったら、日誌を職員室まで持って行けばいいんですよね?」
「ああ。頼む。宮野はどうした?」
宮野と俺は、去年同じ委員会(整備美化)だったからな。多分、今年もやらされるんだろうな…。きっと
「あいつは、もう帰っちゃいましたよ。出かける予定があったみたいですから。」
笑いながら話す。
「そうか。悪いが、頼む。」
「はい。」
俺は、下駄箱の廊下をそのまま素通りして、3号館へ向かった。3号館は、特進クラスがいるところである。この学園は、進学校だ。特進、進学コースに加えて、美術、福祉、体育…色々兼ね備えている。最も俺たちは、普通の理系進学クラスだ。特に秀でた物もないし、そのままエスカレータ方式で、大学へ行くコースだ。
「さっさと終わらせて、早く帰るか。今日は、買い物もしなくちゃいけないからな。」
(ガラガラ…)
1階、2階…と、特に問題なく仕事をこなしていく。そして、最後はこの3階のこのクラスだった。
『2-3』
「ここで最後か。」
(ガラガラ…)
「!!」
小さな人影が動いた。誰かいるようだ。この時間まで珍しい。
「すまない。まだいたのか。驚かせたか…?」
「い…いえ。」
「俺は、榎本。3年生だ。整備美化の委員会で、見回りをしてるんだ。帰る時、戸締りをよろしくお願いな。」
軽い自己紹介と、お願いをする。
「あ、はい。ありがとうございます…。」
ここに長居してもしょうがない。さっさと書いて、職員室に持って行くか。そう思い、出ようとした時…。
「あ、あの…。」
「ん?」
「あたしは……水無月恵美と言います。…榎本先輩。」
突然の自己紹介。まぁ、俺が先に言ったからな。しかし、この時直感的に感じた。この子は…何か違うと…。不思議な感じがする少女だった。
「水無月か。あまり遅くなるなよ?」
「はい。」
にこりとも笑わず、ただ感情を面に出さないように、まるで…誰にも悟られないように。そんな表情で、あいさつを返した。俺は、特に追求するわけでもなく、この場を離れた。
「………。」
俺が教室に出るまで、彼女はずっとこちらを見ていた。
――
3号館の確認が終わり、俺は職員室のある本館へ向かった。
「これです。」
適当な職員に渡して、下駄箱へ戻って行った。もう時刻は、14時を過ぎていた。
水無月恵美。
彼女との出会いが、この俺の学園生活を…いや、運命を変えていく存在になるなんて事は―――今はまだ知らなかった…。
良い方向、悪い方向。どちらでもあり、どちらでもない。…そんな感じに、変わって行く気がした。
そんな事を考えながら、俺は帰路へ着いた。
どうも、スザミです。第一ヒロインが登場しました!…え?その前にもいたって?気にしたら負けですよ?←




