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婚約破棄されたので辺境で薬師を始めます  作者: 七七街


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1/5

1話

前から書いてたのが出来上がったので一気投稿します

5話分ぐらいになりますがお付き合いいただけるとありがたいです

 エレノア・バレットは、昔から目立たない令嬢だった。


 流行りの化粧もしない。

 華やかな会話も苦手。

 夜会では壁際に立っていることが多い。


 社交界では、よく陰で言われていた。


『バレット伯爵家の陰気な令嬢』


 本人としては静かにしているだけなのだが、周囲からすると暗く見えるらしい。


 だから婚約者である第二王子アルベルトにも、最近は露骨に避けられていた。


「お前は本当に愛想がないな」


 夜会の最中。

 アルベルトはため息混じりにそう言った。


 周囲の貴族たちが小さく笑う。


「申し訳ありません」


 エレノアは静かに頭を下げた。


「また謝ってる」


「それしか言えないのか?」


 令息たちの声が聞こえる。


 慣れていた。


 言い返せば、もっと面倒になるだけだ。


 するとアルベルトの隣にいた少女が、困ったように笑う。


「皆様、あまりエレノア様をいじめてはいけませんわ」


 ミレイア・ローゼン。


 最近、アルベルトと頻繁に一緒にいる子爵令嬢だった。


 明るくて可愛らしい。

 誰にでも優しい。

 社交界でも人気者。


 アルベルトが夢中になるのも無理はなかった。


「ですが殿下」


 ミレイアはアルベルトを見上げる。


「エレノア様も頑張っておられるのですから」


「頑張るだけで王族の婚約者が務まるか」


 アルベルトは鼻を鳴らした。


「社交もろくにできない。笑顔もない。隣に立っていて華がない」


 周囲がまた笑う。


 エレノアは黙って視線を落とした。


 父にも言われている。


『耐えなさい』


 王家との婚約は、バレット家にとって重要なのだ。


 ここで感情的になるわけにはいかなかった。


「少し休んでまいります」


 軽く頭を下げ、その場を離れる。


 背後から笑い声が聞こえた。


 最近は、もうずっとこんな感じだった。


 王城の廊下は静かだった。


 エレノアは小さく息を吐く。


「……疲れました」


「まあ、エレノア様」


 振り返る。


 ミレイアだった。


 一人で追いかけてきたらしい。


「大丈夫ですの?」


「少し人酔いしただけです」


「無理をなさらないでくださいね?」


 柔らかい声だった。


 悪意はない。


 本当に心配しているように見える。


 だからこそ、余計につらかった。


「殿下も、不器用なだけなんです」


「…………」


「本当は期待しているんですのよ?」


 期待。


 エレノアは小さく目を伏せた。


 期待している相手に向ける目ではなかった気がする。


 だが、それを口にしても仕方ない。


「ですが……」


 ミレイアは少し言いづらそうに笑った。


「もし婚約が解消されても、わたくしを恨まないでくださいね?」


 その瞬間だった。


 背後でガシャアアン!! と大きな音が響く。


 ワイン棚が崩れたらしい。


 給仕たちが慌てて駆け回っている。


「申し訳ありません!!」


 若い給仕が真っ青な顔で頭を下げていた。


「もう、危ないですわねぇ」


 ミレイアが振り返る。


 その直後。


 ミレイアの身体がぐらりと揺れた。


「……え?」


 手に持っていたグラスが落ちる。


 次の瞬間。


 ミレイアはその場へ倒れ込んだ。


「ミレイア様!?」


 給仕が悲鳴を上げる。


 ミレイアは苦しそうに喉を押さえていた。


 呼吸が荒い。


 口元に泡が浮かんでいる。


「毒だ!!」


 誰かが叫んだ。


 一気に空気が凍りつく。


 騒然となる夜会場。


 アルベルトが駆け込んできた。


「ミレイア!!」


 ミレイアは震える指をゆっくり持ち上げた。


 その先にいたのは。


 エレノアだった。


「まさか……」


 アルベルトの顔色が変わる。


「エレノア……貴様……!」


「わたくしは——」


 そこへ騎士が飛び込んできた。


「殿下!! エレノア様の部屋から毒草が見つかりました!」


 静寂。


 そして。


 一気にざわめきが広がる。


「やはり……!」


「嫉妬ですわ!」


「怖い女……!」


 好き勝手な声が飛び交う。


 エレノアは何も言えなかった。


 言ったところで、誰も聞かない。


 その空気が、もう出来上がっていた。


「エレノア・バレット」


 アルベルトが低い声で告げる。


「お前との婚約を破棄する」


 夜会場がどよめく。


「さらに毒殺未遂の罪により、王都から追放とする!」


 令嬢たちは満足そうな顔をしていた。


 父も。

 使用人も。

 誰も目を合わせない。


 その時。


 エレノアは、ふと気づいた。


 ああ。


 もうここに、わたくしの居場所はないのですね、と。


 悲しいというより、納得に近かった。


 昔は違った。


 アルベルトも優しかった。


 使用人たちも笑っていた。


 でも少しずつ変わっていった。


 社交が苦手な自分は、王族の婚約者に相応しくない。


 きっと皆、ずっとそう思っていたのだろう。


 今日の出来事は、ただ最後のきっかけだった。


 エレノアは静かに頭を下げる。


「……承知いたしました」


「言い訳はないのか?」


 アルベルトが睨む。


 エレノアは少しだけ考えた。


 だが。


 何を言えば良いのか分からなかった。


 誰も信じない相手に、何を説明すればいいのだろう。


「ありません」


 そう答えるしかなかった。


 周囲がざわめく。


「認めたぞ!」


「最低……!」


 そんな声が飛ぶ。


 エレノアは静かに目を伏せた。


 ただ少しだけ。


 疲れてしまった、と思った。

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