第二十七章 舞踏会
私とゼロは馬車に乗った。
私は窓から風景をぼんやりと見ている。
馬車に乗っている間もゼロは私の手を放そうとはしなかった。
まぁ、別に振りほどくほどいやではないから抵抗はしなかった。
抵抗する力がなかったといってもいいけど。
風景が魔の国から光の国へ変わる頃、ゼロが馬車の中で初めて私に話しかけてきた。
「ユウナ、気分が悪いなら言えよ?」
「え、えぇ。」
ゼロが何でそんなことを聞いてくるのか私には分からなかった。
光の国の景色は私が出て行く前より明るく華やかになった。
夜景だけでは一つ一つの細かいところまでは分からないが。
・・懐かしい・・
と、思いながら私が風景を見ていると、馬車が止まった。
ゼロと私は馬車から降りた。
手はそのときに、はなれたが。
私とゼロは舞踏会の主催者に会い、参加者の覧に記名した。
私たちはすぐに舞踏会の開かれている大きなホールに入ることができた。
ホールはとても大きく隅まで見渡すことができないくらいだった。
まぁ、もっとも、人が多すぎて見えなかったと言ってもよさそうな大きさとでもいえるほどだったが。
ダンスができる広場を囲むように離れたところに食事が乗っているテーブルが並んでいる。
ゼロがホールに入って早々にダンスの申し込みを私にしてきた。
「俺と一曲踊ってくれませんか?」
当然仮面をしているからどんな表情で言っているのかは分からない。
「えぇ。喜んでお受けしましょう。」
私はゼロの差し出した手のひらに自分の手を置く。
そして私とゼロは踊った。
曲に合わせてゼロが私をリードする。
「一応って自信がなさそうに言ってたわりにはできてると思うぞ。」
ゼロが言う。
「・・ゼロのリードがいいからよ・・・」
私は言う。
私よりゼロのほうがすごくうまかった。
よっぽどダンスを叩き込まれたのだろうか・・
そのうち、一曲が終わって私とゼロはダンスをやめた。
「とりあえず何か食べるか。」
ゼロはそういって私と一緒に近くのテーブルに向かう。
ゼロと私に参加者たちの視線が集まる。
私はともかくゼロは他のかたがたの目にとまってもおかしくないほどかっこよかった。
だからといってもいい、ゼロの周りは舞踏会の参加者ばかりで埋もれてしまったのだから。
それで、その参加者たちに押しのけられてもといた場所からかけ離れたところに今はいる。
つまり、はぐれてしまったのだ、ゼロと。
私はゼロのところへ戻ろうとしたが
なぜか私にも貴族だと思われる男性たちの波に押し寄せられ
行きたい場所とは真逆の方へと追い詰められてしまった。
「かわいらしいお嬢さん、俺と踊ってはくれないか?」
「いやいや、僕が先だ。可憐なお嬢さん、僕と一曲お相手願いたい。」
「俺のほうが先だっ。清楚なお嬢さん、俺と一曲踊ってはくれま・・・・」
などと、さまざまな男性たちが言い寄ってくる。
「ありがとうございます。ですが人を探しておりますゆえ、踊れませんわ。」
私の言葉に男性たちは
「なんてお冷たい言葉を~~~」
「僕を断って君は誰と踊ろう何て思ってるんだぁ~~~」
「お、俺をおいてかないでくれぇ~~~」
嘆き、わめいて言っている。
酔っているんだわ、きっと。
私はそう思ってその場を抜け出した。
隅でやり過ごそう。
そう思って隅のほうにいくと、一人の男性が声を掛けてきた。
「お嬢さん、あなたはなぜ踊りに行かないのですか?こんな隅に来られて・・」
その男性は言った。
「人を探しているのですが、なかなか見当たらず
いろいろな方が踊りを誘ってはくれるのですが断るのが大変で・・」
私は目を伏せがちに言った。
男性は近くのテーブルにあったグラスを私に差し出した。
「あなたはとても美しい方だ。きっと飲む暇もなかったでしょう?」
男性は言った。
私はグラスを受け取って、
「美しいだなんてお世辞はやめてください。
でも、ありがとうございます。のどが渇いておりましたの。」
そういってグラスの中の飲み物を飲み干した。
のどが潤う。
それと同時に体がほてったのを感じた。
これ・・お酒だったのね・・
「お嬢さん、一曲お相手してくださいませんか?」
男性は言った。
「え・・でも私は・・人を探してると・・・!」
私の言葉の最中に男性は私の手を引き、自分のほうに引き寄せた。
「今宵はどんな無礼も許されます。それにここは舞踏会。踊らずとして何の場所でしょうか・・?」
「・・そこまで・・・いうの・・・・な・・・ら・・・・っ」
私が誘いを受けようとしたとき、めまいが私を襲った。
男性のほうに私の体は倒れるはずだった。
私の体が男性に触れる前に後ろから誰かに支えられたのであった。
だ・・・れ・・?
ぐらぐらする頭の中に会話が聞こえた。
「こいつが迷惑をかけた。俺が運ぶから気にせず舞踏会を楽しんでくれ。」
「君、誰だい?あ、聞くのはタブーだね。
せっかくこの子を踊りに誘おうと思ったけど、この子には酒が強すぎたみたいだね。」
「あぁ。じゃぁ、俺は連れて行くから・・・・迷惑かけたな。」
私を支えた人が私をすっと抱き上げる。
狭い視界の中に見えたのは黒髪の持ち主。
ゼロが・・・・来て・・・・くれ・・・た?
目が回る。
くらくらする。
熱い。
これが酔ったということなのか、それとも日ごろの疲れのせい?
ゼロは私を部屋に運んだ。
そしてベットではなくソファに自分にもたれかかせるような状態で私をおく。
ゼロは私の仮面を取り上げて
「無理してたのか?」
と、聞いてくる。
「むり・・なんか・・してない・・・ただ・・疲れてた・・だけ。
お酒が・・あんなに強いとは・・・思っても・・・みなかった・・だけ。」
私は言う。
そしてすっと目を閉じる。
「分かった。この話はまたにする。だからもう寝ろよ?」
ゼロはそういって私の頬に手を置き、私の唇に自分の唇を重ね合わせた。
いつもよりやさしくてほんのり甘いキス。
それを最後に私は深い眠りについた。




