ヤンキー君、反撃される
「――ふう」
長く……貪っていた気がする。キスはもう終わりだ……勢い任せだった。
リアムさんから紋は消失していた。顔色も良くなってきているな……俺を見上げる眼差しも圧がすげぇ。
「アンタには感謝している……けどな、この呪いは俺のもんだ。ずっと抱えて生きていく」
俺はその上で、なんだ。
「SAN値がゴリゴリ削られようとな……乗り越えてみせる。克服するのは俺の方だ。アンタじゃない」
アンタが言ってくれた――諦めないでって。これまでは向き合うこともしなかったけど、今は違う。
気持ちが高ぶるばかりだ。アンタに伝えたいこと、想いだって止まらなくて――。
「俺だってそうだよ。アンタが苦しむのは、嫌なんだよ……!」
ポタっと。リアムさんの頬に涙が落ちた。
「あ……」
俺は泣いていた。気持ちが高ぶり過ぎていて――。
「……ユーマ」
「……リアム、さん」
リアムさんが指で拭ってくれていた。子供をあやすかのように、穏やかな手つきだ。 この人は優しいから、俺が強引に出たことも怒りはしない。
「……ありがとう、ユーマ。またしても君は私を救ってくれたんだ」
「そっか……」
本当にさ、なんて優しい顔をしてくれるんだ。
「本当にありがとう……」
「おうよ……」
苦しい。胸が満たされ過ぎて、苦しいんだ……。
「あー……しまらねぇな――」
涙でぐしゃぐしゃな顔。そんな俺を。
――リアムさんが抱きしめてくれた。背中をゆっくりと撫でてくれて。
「いいよ、今は。子ども扱いでもいい。このまま抱きしめてて……」
俺は彼に寄りかかって、身を委ねた。体温を感じられる、その幸せも噛みしめたくて。
「……?」
背中を撫でる手が、止まった?
「……どこまで愛らしいんだ」
リアムさんがそう呟くと。
「……は?」
なんか、視界が反転した? こう、視界がぐるっと? いつの間にか俺は……押し倒されている?
「……すまない、抑えられそうにない」
「……っ」
耳元で囁かれた――耳を溶かすような、低い声音で。
「――成婚まで待とうって、思っていたのにな」
俺の髪を、彼の手がすくう。今度はリアムさんが上になっているから――。
「いや、待て? 待て待て? 待とう、な? アンタ、病み上がりだろ? な?」
相手の鬼気迫る表情が、俺に恐怖を与える。落ち着けと、なだめようとするも。
「――君も待ってくれなかっただろう?」
拗ねたような声が愛らしいと。そんな風に呑気に考えていた時にはもう。
「んんっ!?」
情動的に口づけられていた……! 俺が仕掛けた時とは比べられないほどだ!
「……っ!」
は、激しい……! 呼吸だってままならない……!
「……ああ、すまない」
息が上がってた俺に気づいたのか、中断はされた。ただ、リアムさんの瞳は熱が籠っていた。この人、こんな捕食者みたいな目すんの……?
「……なんなんだよ、もう」
――それも悪くないって。望んでもいるのは……俺なんだ。
「すまなかった。ゆっくり、君を味わせてくれ……」
「……うん」
お互いの唇を確かめるかのように、触れ合わせていく。ゆっくり、ゆっくりと深く。もう息苦しくはなくなった。
「ん……」
自分の吐息交じりの声、それが恥ずかしくてならない。頭が沸騰しそうだ……。
「ユーマ……私のユーマ、愛してる……」
合間に合間に、愛を囁いてくる。
「……うん、俺も」
俺の顔、きっと蕩けきってるだろうな……。
こんな声。
こんな顔。
耳にするのも、目にするのも――アンタだけだ。
「ああ、夢のようだ……ユーマ、ずっと君が大切だったんだ」
長く想ってくれていた。
「幸せを願っていた。君だけを想ってきたんだ……」
温かくもあって、重い愛があったんだ。
「ユーマ。ユーマ……」
何度も何度も俺の名を呼ぶ。
繰り返されるキス。俺も応える。
なんだろうな、不思議な感じがするんだ。
胸が温かくなっているというか、ぽかぽかするんだ。
それだけじゃない。目に見える世界が輝いているというか。
好きな人と触れ合っているからだって。そう言われたら……まあ、そうだろうな。
満たされているから、いいか――。
永遠とも思えた時間、ようやくリアムさんから解放された。
「……やっちまった」
この部屋にいたのは、俺たちだけじゃなかった。
「「「……」」」
聖職者の皆さんだっていた。見入っていたのか、静かでもあり。固唾を飲んで見守ってもいた。つまり……ずっと見られていたわけだ!
「あああ……!」
人に……これだけの人に見られてたんだ! 冷静になった今、俺は羞恥に悩まされていた……!
「すまない、ユーマ。我慢がきかなくて」
「いや、いいけど……」
なんとかキスは終わったし……一緒にベッドに座って、俺は肩を抱かれているけど。
「……ユーマが頑張ってくれた。アダムも力を貸してくれたんだろうな。命を繋いでくださった皆様方もだ。深く感謝する」
俺から手を離した彼は、深々とお辞儀をした。そうだな、みんなアンタを助けたかったんだ――。
あとは自宅で療養することになった。リアムさんは調子を取り戻していると豪語していた。そこは無理はよくないと、彼に言い聞かせた。なんとか大人しくなった。
今日一日は休んで、明日から各方面に挨拶に回るという。俺も同行を願い出たら、リアムさんは快諾してくれた。そういうの緊張するけど、ちゃんとしていきたんだ。
船着き場まで並んで歩いていた。夏の日差しが眩い。
「……」
「……」
自然と寄り添う二人。手は触れるか触れないかの距離だ。
「……そうだな」
アンタもそう、俺だって気にしていたことだ。
「……嫌だったら、離してくれていいから」
夏の汗ばむ手で――俺から手を繋いだ。
「!」
リアムさんは驚きが表情に出ていた。そうだよな、あれだけ拒否っていたのに。
「……アレだよ、アレ。『あんなところ』まで見られたんだ。手繋ぎでビビってられるかって話だ」
「そうだな。口づけを見られてしまったな。あんな愛らしい姿を見せてしまうとは、迂闊だった。君に恥ずかしい思いまでさせてしまった……」
リアムさんは手を握り返してくれた。そのことに安堵しつつも……ソレはソレだ!
「く、口づけってさ……アンタさ、声にすることないだろ? 人がぼかしてんのに……そうだよ、恥ずかしいに決まってんだろ!」
「ああ、すまなかった。それはそれとして、だ。私達が口づけ合って愛し合ったのは事実だ。ぼかすこともないだろう?」
「アンタなぁ……」
なんなんだ。こっちは羞恥で悶絶してるんだけど? なんでアンタはそんな理路整然としているんだ……!
「……まあ、事実なのは認める。けどな、人前でそういう話はやめてくれ」
さすがに人前で『ああいうこと』はしなくなるだろ。うん、本人の発言からして。あとは話も控えてくれれば。
「……自慢と牽制でも駄目だろうか」
「やめて。つか、牽制ってなんだよ」
なんなんだよ、この人は。なんでそこで『君は自覚がない』って首振ってんの?
「……ったく」
こんなやりとりをしつつも、俺たちの手は繋ぎ合わさったまま。
呆れつつも、満更でもない俺。
惚れてるから、仕方ないか――俺は小さく笑った。
リアムさんは呪いの影響を受けなくなった。俺も二度と呪いを渡したりしない。ちゃんと向き合ってみせるんだ。
これからもこの婚姻が続いていく為に。
リアムさんと共にいられるように――。




