村長様。オースティン・ミニお買い上げ!
ガラガラガラ
シャッターを開ける。今日も快晴だ……ん?
「おお、コージロー殿。作業は順調ですかな」
「あっ、ああ問題ない。旧い車なんで手がかかりますが、複雑じゃねーすから」
また、村長だよ。
ガレージの前にいつもいるのはなんなんだ。
なんか、じっと見てる。
視線の先は………………ははーん、そう言うこってすか。
ピートの運転講習はまだ続いている。
最近はほとんど問題なし。時々ミラーに注意がいってないのが心配だけどな。
「ところでよ。あの村長はどんなヤツなんだ?」
「ああ、若い頃は職人だったみたいですよ。手先が器用でかなりの腕だったそうです。新しモノ好きで王都のデザインを取り入れた調度品は大層人気だったとか」
これは脈アリだな。
手先が器用な腕の立つ職人。しかも、新しモノ好き。
「あのジジイが車を欲しがると思うか?」
「えっ、もしかして今直してる小さな車を売るつもりですか。……いいかも知れません。最近足腰が弱くなって出かけるのが大変なんです。元々村長は付近の町や村に行って、近隣の政の調整をしてたんですが、基本的に話好きなんです」
決まりだな。
あとは対価に何を要求するか。
翌日、ガレージを開けるとまたしても村長が。
「村長、おはようございます」
「あ、ああ、お早よう。コージロー殿……」
なんだなんだ。妙にモジモジして。
爺さんがそんなことしても嬉しくないんだが。
「実はちょっとお話がありましてな」
「へぇー、そうなんですか。聞きましょう聞きましょう」
わかってますよ。視線の先にオースティン・ミニがあることは。
とりあえずゆっくり商談と参りますか。
目指すは村長の家。
徒歩にして五分である。
「へぇー、こんな風になってたんですか」
「ええ、ここは村の者にも滅多に見せない部屋でしてな」
十二畳と言ったところか、手先を使う職人の作業場としてはまあこんなもんだろう。
おおっ、ありゃなんだ。もんのすごい一枚皮だ。しかもデケー。
「それで要件は」
「ズバリ言いましょう。あの今、直しておられる車を売ってはもらえませんかな。それとも、もう売り先が決まっているとか?」
「いえ……まあ、引き合いはありますが。お譲りしても構いません。その代わり対価として二つの条件を飲んでもらいたいんです」
来たよ来たよ。
ちなみに引き合いは、嘘だ。駆け引きってやつだな。
対価についちゃあ、もう腹は決まってる。
「ほう、それは」
「まずは、パレッタを今のまま、村に置いてやって欲しい」
まずはこれだ。
村の立ておなしは神様との約束だ。
ピートには、トラックで役に立ってもらわなきゃならん。
サティのことで悩んだままでいるのでは困る。
「わかりました。それは呑みましょう。して、もう一つは」
「あの見事な一枚皮を」
「おっ、おおお、あれに目をつけられましたか……いいでしょう。お譲りします」
やった。商談成立である。
車買うのに皮一枚じゃ安いって? とんでもない!
聞くに魔獣の皮だそうだが、とにかく見事。
アルカンターラが裸足で逃げ出す見事な肌触りと光沢だ。
しかもデカい。
あれだけあれば、当分革張りの内装張り替えで困ることはないのだ。
あとは運転なのだが、こんな爺さんに覚えられるんか?
ブゥゥダアァァァ
ズザーッ
「そう。そこでターン。いや、村長うめーじゃねーですか」
「何か、フィーリングが合いましてのぉ」
心配は無用だった。
なんで異世界人の爺さんが運転習った初日からドリフト決めてんだ?
「もう、やめにしませんか。こ、怖いです」
「いいだろう。村長。もう十分です」
運転教習はこんなもんだろう。
後部座席のピートが可哀想だしな。
「そうですかあ。じゃあ、川沿いの道をあと二往復」
「やーめーてーー」
村中にピートの悲鳴が響き渡っていた。
その後、村長は近隣の村に車で乗りつけては、世間話に花を咲かせていると言う。
そして、ある日。
シャッターを叩く音が。
ガラガラガラ
「あ、あんたは」
「私の罪を許して下さり、ありがとうございます」
なんと、ガレージの前にいたのはパレッタだった。
しかもその姿はいつもと雲泥の差である。
今はフードも被っていない。
薄い羽衣のような衣服を纏っているその姿は、清廉な森の妖精だ。
エルフすげーな。
「それで要件は」
「コージロー様にお願いがあります」
なんと答えるか。
その面持ちと様子を見るだけで、簡単に済む話じゃないと光治郎は感じていた。




