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結婚話

 翌朝、アレクがいつもより少し遅れてガレージにやってきた。

 しかも、女性を一人連れて。


「この人は」

「村長の孫のフレイヤさんです」

「フレイヤです。身の回りのお手伝いをします」

「ああ、よろしく。ってかどう言うこと、アレク。パレッタは?」

「来ません。彼女には薬師としての仕事があるんです。今まで、毎日、ガレージに来てたのがおかしかったんですよ」


 あー、なるほどね。

 やっぱりそうなったか。


 アレクは冷静に話しているつもりだろうが、こめかみのあたりがピクピクしている。

 本音は、浩史のそばにパレッタを置きたくない、ってとこか。


「いや、必要ないよ。自分の仕事だってあるんだろう? そりゃ、世話してくれる人がいれば助かるけどさ」

「いえ、コージローを一人にしておくとご飯も食べずに無理をするし、周りも散らかり放題だから、って」


 オカンかよ!

 パレッタが、そこまで世話焼き体質だとは知らんかった。


「それならお願いしようかな。それなりに給料は払うよ」

「いえ、そんな。祖父が散々お世話になってますし」

「そんなわけにはいかない、って」


 パタン

 浩史が入ってきた。


「あれっ、社長。朝から痴話喧嘩ですか」

「違うよ。彼女がパレッタの代わりにこれから来てくれる、って言うんだ」

「ふーん、いいじゃないですか。また違った美人さんで」


 おっかしいなぁ。浩史ってこんな性格じゃなかったはずだけど。

 ……ってか、昨日パレッタに結婚申し込んだ割になんで平然としてんだよ。


「フレイヤです。よろしくお願いします」

「あ、はい。よろしく。鍵谷浩史っす。僕にはパレッタさんという心に決めた人がいるんで、社長の嫁さんにいいんじゃないですか」

「えっ、遠慮しときます」


 何言ってるんだ。浩史。



 午前中のガレージの雰囲気は最悪だった。


 ことあるごとにアレクが浩史を睨みつけ、それをどこ吹く風で浩史が仕事を淡々とこなし。

 それでまたアレクの怒りが……



「お昼できましたよー」

「おー、ありがとう。さあ、飯にしよう」


 ナイスタイミングだよ。フレイヤさん。

 この空気、しんどかったぁ。



「それで社長、フレイヤさん。本当に身を固める気はありませんか」

「いや、ないって。彼女だって困ってるだろう?」

「ハハハ。私ももう少し仕事してたいですしね。それより結婚といえば、ピートとサティをなんとかしてあげたいんですよ。パレッタも気にしてて」

「ああ、サティのお母さんの薬作ってるんだったんけ。パジェロで苦労して材料を取りに行った奴」

「そうです。『今ならその心配もないしピートも稼げるようになったから、いいタイミングだろう』って言ってました」


 確かにな。

 元々二人は相思相愛。結婚を考えるべきはあの二人だろう。


 今なら、みんなで祝ってやれる。


「社長。やりませんか、あれ」

「ん? もしかして……あれか」


 アレクとフレイヤがきょとんとしている。

 まあ、説明せんとわからんよな。


「俺たちの世界じゃなあ。結婚するときに車を飾り付けて、花婿と花嫁を乗せて祝う風習があるんだよ」

「そんなのがあるの?」

「そうです。ちょっと待って下さい。確か資料があったような」

「でも、そう言うのを馬車でやる人がいるけど、普通は貴族しかやらないわ」


 あるんだ。こっちでも。

 おっ、浩史が何か書類を手にして戻ってきた。


「いいじゃないですか。自動車は別物ってことで。えーと、あったあった。これを見て下さい」

「うわぁ、凄い素敵。ぜひやりましょう」


 結婚式のパンフレットだ。

 そこにはブライダルカーに乗る新郎新婦が周りから祝福される写真が。


 そして、その車こそが。

 アストンマーチン DB6


 気品ある白と英国紳士のたたずまい。

 新婚の二人を祝福するベストカーである。


「それじゃあ、早速要望を書いて “お供え” するか」

「私はみんなに話して、他の段取りを進めるわ」

「缶カラつけて、リボン飾り付けて」

「ちょっとベタだけど、こういうのもたまにはいいか」

「「「「はい」」」」


 こうして世話付きの親戚会議みたいな結婚式大作戦が始まったのである。


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