神様との約束
いつもお読みいただきありがとうございます。
今回、第2話「神様との約束」を新たに追加しました。
話を重ねる中で、光治郎と神様との約束や、この世界でガレージを営むためのルールを早い段階でお伝えした方が、今後の展開をより楽しんでいただけると考えたためです。
そのため、これまでの第2話以降は一話ずつ繰り下げとなります。続けて読んでくださっている皆様には、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。
より読みやすくするための変更になっていればいいのですが……
いすゞエルフの助手席にはピートがいた。
緊張しているのは、自動車に乗り込むところから丸わかりだ。ドアを開けたところで驚き、閉まる音でまだ驚く。シートベルトを閉めるのに手間取り、窓から頭を出しては荷台の農作物の心配をしたりと落ち着きがない。
「危ないぞ、首を引っ込めろ。車を出すからさ」
「ちょっと待ってくれよ。少しでいいから」
「わかった。じゃあ、一分だけな」
考えてみれば当たり前のことだ。
押しの強い男に突然『村を救う』と言われ、乗り込んだのは得体の知れない自走する車。
電気もないガスもないこの異世界で、交通手段は馬しかないところに地球の文明の利器が現れたのだ。
(ピートに余裕がないのも当たり前か。まあ、俺も神様との話じゃ、緊張したし)
光治郎は転生する直前のことを思い出していた。
天界で自分が死んだことを知った。
天から落ちた巨岩にガレージごと潰されたらしい。
原因は神様にあり、罪滅ぼしとして別の人生を送る権利を授ける、と。
「日本に帰ることはできるんですか」
「どうしてもというならそれでもいい。ガレージも少し大きくしてやろう。だが、別の人間として、ということになるぞ」
「それじゃあ困ります。人脈や伝手もなく、自動車の修理屋を新規で開くのがどんなに大変なことか」
三峰モータースには、祖父の時代から受け継がれた顧客がいた。少ないながらも自動車用品店やガソリンスタンドと提携もしていたのだ。
それが一切ないところから、経営を続けるのは無理。
「転生先に異世界じゃ」
「異世界? そこで自動車の修理は……」
「無理じゃのう。電気などない剣と魔法の世界だからな。もう、いいじゃないか、お主のガレージの経営は厳しかったはずだ」
「そういう問題じゃない」
やりたいことをできない人生など意味はない。
光治郎の望みは ”一人のメカニックとして一生、車をいじり続けること” である。
「らちがあかんな」
「…………」
正念場だった。
異世界だろうがなんだろうが、自動車がいじれるならそれでいい。
それ以外の人生はいらない。
そんな光治郎の葛藤などどこ吹く風。
神様はふむ、と一瞬考え込んだのち「転生先の村がピンチなんじゃ。それを救うと言うなら考えんでもない」と言った。
「自動車修理を続けられるんですか?」
「条件はあるがな」
神様は異世界でガレージを経営するための条件を空中に写しだした。
一つ、修理業を営むためには、自動車が走る世の中にならなければどうしようもない。よって、旧車のレストア販売を認めるが、現地世界の文明を根底からくつがえすほどの自動車の普及は控えること。
一つ、ガレージ内では電気、ガス、水道が自由に使えるが、ガレージの外では一切使えない。
一つ、レストアする車は旧車を中心に、車種については要相談とする。また、必要な交換部品は神サイドで用意する。
一つ、レストアや修理によって得た代金は、神棚にお供えという形で納めること。
「こんなところじゃな。何か質問はあるか」
「まずは、転生先がピンチ、ってどの程度なんだ? 俺は車以外はからっきしだからな。魔物と戦うなんてできないぞ」
「安心せい。お主ができる範囲で協力すれば、十分助けになるはずじゃ」
「それと……」
その後も光治郎からの質問が続き、車を買った後に異世界人が使えるガソリンスタンドをどうするかとか、日本のガレージは修理工場部分しかないが、転生先では住居も兼ねられるように拡張するなどと言うことが決まっていった。
どうやら折り合いをつけることができそうだ。
「それじゃあ、今から転生してもらうことになるが」
「うーん。最後にもう一つだけ」
「なんじゃ」
「日本じゃ旧車はバカ高い。それをそのまんま現地の通貨水準で売るとしたら貴族ぐらいしか手が出せないんじゃないか」
「ああ、そのことか。それなら大丈夫じゃ。ワシが入手する旧車はその車の価値で扱えるようにしておくでの。希少性とかプレミア価格なんぞは気にしなくて良い。パーツについても同様じゃ。ディスコンで高価になっても値が上がる前の価格で入手するから」
「つまり?」
「お主の裁量でレストアした車の値段を決めて良い。その辺については信用しておる。ふっかけたり、バカ安で売り捌いたりはしないじゃろ?」
「そりゃ、まあな」
「さあ、そろそろ時間じゃ。自由に生きるが良い。現地の文明と仲良くやるんじゃぞ」
その言葉を最後に光治郎は意識が遠くなり、気がつくと異世界辺境の村に突如現れたガレージの中にいたのだ。
トントン
「ん、なんだ」
「もういいぜ。出してくれよ。町まで馬車で6時間もかかるんだ」
不意に肩を叩かれて我に帰った。
神様との邂逅を思い出して、すっかり隣のピートのことを忘れていた。
「それじゃあ、いくぜ」
ブゥゥン、ダダダダ
「う、うわぁ」
「こんなんで怖がってちゃ、体が持たないぜ」
「だ、大丈夫さ。ちょっと驚いただけさ」
光治郎には村の周囲の地図が頭に入っている。
少なくとも途中の難所までは、問題はない。
ピートも悲鳴をあげてはいるが、強がっていられるなら問題ないだろう。
「さあ、飛ばすぞ」
光治郎はいすゞエルフのアクセルをさらに踏み込んだ。




