ボルボ珍道中
ボルボを仕上げには一月半かかった。
王都に行くことを考えるとギリギリのタイミングだ。
このレストアで一番の貧乏クジは間違いなくアレク。
おまけに敬愛するパレッタは俺と一緒に王都行き。
まあ、お土産くらい買ってきてやるから待つがいいさ。
「そんじゃ、車出すぞ」
「「「「おーー」」」」
ボルボ240トースランダ、王都に向かって発進である。
「これなんか安心感がありますにゃ」
「まあな。『空飛ぶレンガ』って言われてたぐらいだから」
「へぇー、そうなんですか。それにしてもパレッタ様が一緒に来るとは思いませんでしたにゃ」
確かにそれは俺も意外だったんだよな。
鉄を忌避するエルフ族。パジェロにも乗れなかったはずなのに。
「大丈夫です。エミリアが水魔法のバフを掛けてくれましたから」
「水魔法? それ、車錆びないよね」
まあ、いいか。
錆びたらまたアレクにやらせるし。
途中で二泊、三日目の夕方に王都に到着の予定だったが。
ガガッ、ブゥゥン
町を出て一時間も経たないうちにエンジンが止まった。
「まいったな。丈夫なだけが取り柄だったんだがなぁ」
「すぐにボンネット開けます」
「ああ、よろしく頼む。ピート」
早速、調べ始めたが、ちょっとかかりそうだ。
タープを出して、サティとパレッタにはお茶でも飲んでてもらおう。
「私は手伝うぞ」
「おう、ミランダか。頼りにしてるぞ」
町からはすでに離れているが、ここは国で一番の大きな街道である。
往来はそれなりにあるので目立つこと目立つこと。
「あんれ、消防団の隊長じゃねーですかぁ。そっちは『赤いあ……』じゃなかったコージロー様ですか」
「ああ、そうだ。ちょっと車が故障でな。なるべく馬車の邪魔にならないようにするから」
「大丈夫ですだよ。こんの街道は広いですけ」
そう言って、軽く挨拶をしていくと馬車は去っていった。
町にはきていると言っていたが、うちの村とは反対側にある村の住民だから見たことがなかったのだろう。
でもミランダは知っていた。ずいぶん有名なんだな。
でも、気になったことが二つ。
俺の名前を言う時に赤い何ちゃら、って言ってこと。まあ、こいつはいい。
問題は、馬車の御者がこっちを睨みつけてたことだ。気のせいならいいのだが……。
修理は完了。
原因は凡ミス。とにあえず帰ったらアレクをとっちめることだけは決定だな。
そんなこんなで二日半が過ぎ、ようやく王都が見えてきた。
城壁は人の進入を拒むかの如く、立ちはだかっている。
「あの高い塀に囲まれたとこが王都なのか?」
「そうです。それにしても毎度のことながら随分と並んでますねぇ」
厳しい入場チェックが行われているらしく、長い列ができている。
これは入るまで時間がかかりそうだと思ったのだが……
衛兵が走ってきた。
「おい、そこのおかしな馬車。どうやって動いてるんだ。滅多なことをすると牢屋行きだぞ」
「馬車じゃありませんよ。自動車です。俺たちは王宮から召喚されたんです」
横柄な態度にムッとしながらも、光治郎は手紙を見せる。
「お、お前が『赤い悪魔のコージロー』」
「なんの話だ。確かに俺は三峰光治郎だが」
振り向くとサティとピートがクスクス笑っている。
そういや、車がエンコした時も……
こいつら知ってやがったな。
結局、王様の手紙の威力は絶大で、並ばずに城門を通過。
今、城下を徐行中である。
さっすが王都。
今までの村や町とは人の数が違う。
手を振ってくれる人、わけもわからず逃げ出す人。
あー、豪勢な馬車から丁寧に礼を返してくれた人もいたな。
問題はその中に明らかに敵意を持って見てくる奴がいること。
そのほとんどが背が低くガッチリとした髭面なのだ。
「あの睨みつけてくる連中は何なんだ」
「ドワーフですね。自動車の導入に反対しているらしいです」
エミリアがなぜそんなことを知っているのか不思議だったが、消防車に嫌がらせをされたことがあったんだとか。
まあ、そういう連中はいずれ出てくるとは思ったが。
「あいつら王宮にもいんのか?」
「いません。ですが、バンゲルトという大臣がドワーフたち後ろ盾になってますので」
どうもこのまま王宮に乗り付けるのはやめた方が良さそうだ。
この王都には村長が用意してくれた物件があるのだ。
滞在中はそこを宿兼仮ガレージとして使うつもりである。
「よーし、ついたな。簡単に掃除したら、荷物を下ろそう」
「「「「わかりました」」」」
全員がテキパキと動いてくれる。
これなら早く片付きそうだ。お茶を飲んだら町に繰り出そうとしていると。
トントン
「はい。どなたですか」
「あなたが『赤い悪魔のコージロー』か」
「そんな名前の奴は知らん」
まただよ。
ジッと睨みつけると、明らかに恐縮した態度に変わる。
「失礼しました。私は王宮から参りましたフェリスティンです。三峰光治郎様でまちがいないですか」
「ああ、そうだ」
「それでしたら、是非王宮へお越しください。陛下がお待ちでございます」
うーん、いきなりきたか。
いかにも王宮勤め、って感じだったな。まるっきり腕っぷしは強そうに見えんが。
まあ、王様からの正式な使いとなると断るわけにもいかない、と。
「全員連れてってもいいのか」
「い、いえ。できれば三名までで」
となれば、物知りのパレッタと頼りになりそうなエミリアかな。
ピートとサティは留守番してもらおう。
「じゃあ、行ってくるわ。ピート。あんまりサティと仲良くしすぎんなよ」
「しませんよ!」
軽口を叩いて、光治郎たちはいきなり王宮へ移動。
陛下に謁見となったのである。




