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異世界転工場!?

 カタン


 静かに置いたつもりのレンチが、思ったより大きな音を立てる。


「おっ、と。道具は大事にしなくちゃな。まあ、いい。すぐに働かせてやるからな」


 今、一台の車のレストアが完了したのだ。


 そこにあるのは日本のどこにでもある普通のトラック。

 だが、このガレージの外は――


 ガラガラガラ


「これが神様が言ってた異世界ってやつか」



 ある日、天から降ってきた隕石が直撃。

 俺はガレージもろとも一巻の終わり。


 神様は自分のミスだと言った。

 お詫びに転生を勧められたが、車の修理がなくちゃあ生きている甲斐がない。


 その結果がこれ。

 異世界転生ならぬ異世界転工場。

 


 ざわつく人々がいる。

 周りにはとれたての野菜、だが、その一部は腐りかけている。


 この村は今、存続の危機に瀕しているのだ。


(神様の言ってた通りか)


 その中で光治郎に近づいてくる白いあごひげの爺さんが一人。

 この村の長老か村長、ってとこだろう。


「あんたは一体どこから来なさった」

「俺か? 俺は三峰光治郎(みつみねこうじろう)。この『三峰(みつみね)モータース』のオーナーで自動車の修理を生業としている」

「ジドウシャ?」

「ああ、ここにある車輪が付いている鉄の塊のことだ。町に作物を運べなくて困ってんだろ? 俺がコイツで今から運んでやるぜ」

「なぜ、村にある一台きりの馬車が壊れていることを知っている」

「企業秘密だ」


 神様から言われたことだ。

 説明してもわかるまい。



 しかし。


 どいつもこいつも顔に生気が薄く、すがるような瞳に明るい色はない。

 わかってるよ。信じられないって言うんだろう?


 だけどさ。このまま放置されたままでは破滅するだけさ。

 俺に掛けてみるのも悪くないと思うけどな。


「野菜を持ち逃げするつもりじゃないだろうな」

「そんなことしねぇよ」

「信じられるか」

「そいつはあんたら次第だな。とにかく、今回は金を要求するつもりはない」

 

 痩せこけた連中ばかりじゃねーか。

 こればっかりは信じてもらうしかない。


「なぜだ。そんなことをしてお前に何の得がある」

「そりゃ、この村に厄介になるつもりだからな。挨拶がわりさ。今回は初回サービス、ってわけだ。第一、こんな大きなガレージをこさえちまったんだ。逃げることもできない」


 おっ、脈があるか。

 何人かの顔に逡巡の色が見える。だが、動くものはなし。


 タダと言われて”はいそうですか” とはいかないらしい。



 まいったな。

 この村をなんとかするのは、神様との約束だ。

 交換条件でガレージを残してくれたんだから、始めにタダで運ぶぐらいどおってことはないのだが、通じなければどうにもならない。


 俺はレストアが終わったばかりのトラックを押し出した。


 勢いで押し切る。

 村人の信用を得られなければガレージもろとも俺は詰みなのだ。


「今日出荷できなければ売り物にならない野菜もあるんだろう? さあ、どうする。乗る奴はいないのか」



 ざわざわとするばかりで、誰も彼もが尻込みしている。


 そんな中。

 一人の少年が大八車を押してトラックの隣に止めた。


「オイラはこの兄ちゃんを信じる」


 よし、まずは一人。

 大八車の野菜をどんどん積み込んでいく。


「これで終わりか」

「うん」

「さあ、まだまだトラックには荷が乗せられるぜ」


 これだけじゃダメだ。

 神との約束は ”村を救うこと” である。


「信用できるのか」

「でも、早く取れた野菜を売らないと」


 顔を見合わせる村人たち。

 逡巡しているのがわかる。


 もうひと押し。

 これでダメなら、救えるのは少年一人のみだ。


「さあ、どうする? どうせ腐るなら賭けてみてもいいと思うがな」


 自分でもニヤけた顔が引き攣っているのがわかる。

 俺も必死、村人も必死だ。



 そしてついに。


 何人かが荷物をトラックに乗せ始めた。

 その顔には信頼も信用もない。


 どうせ、このままじゃ立ち行かなくなるという諦めとまるで知らない俺を天秤にかけた結果なのだろう。


 心配すんな。騙したりはしねぇ、って。

 ほどなくトラックは満載となり、あとは町に向かうだけだ。


「よーし、今から積まれた作物を町で売ってきてやる」

「ほ、本当か?」

「任せておけ」


 運転席に乗り込み、キーを回しエンジンをかける。


 カチッ、シュルルルル


 掛かれっ!



 ブルン

 ブルブルブルブル


 来た。一発始動。

 フゥゥ。あっぶねぇ。


 古い車だし、まあこんなもんだろ。

 レストアに抜かりはない。



 だが、周りの連中はあとずさり

 中には鼻を押さえて顔を顰めている者さえいる。


「なんだよ。馬だって臭いじゃねーか。慣れだよ、こんなのは。……それより、誰か俺の隣に座って道案内をしてくれよ」

「………………」


 その声に応えたのは最初に大八車に野菜を乗せてきた少年だ。

 助手席に駆け込んできた。


「それじゃあ、行くか……と、お前の名前は……」

「オイラはピート。南門からまっすぐ行けば半日で町に着くはずだ」


 半日? フッ、そいつは馬車でだろ。

 今から”自動車”ってヤツのスピードを見せてやるよ。



 などと思っていると。

 目の前に立ち塞がるものが一人。



 こいつは厄介だ。顔を見ればわかる。


 “見知らぬ男、不快な音を立てる見たことのない乗り物。

 どうして信用などできようか”


 そんな風にでも思っているんだろう。


「ちょっと待て。お前、村の作物を持ち逃げするつもりじゃないだろうな」

「そんなことしねぇよ。第一ピートが乗ってるんだぜ」


 するとその男は車に近づき、ゴソゴソといじり始めた。


「ふむ、金のバッチか」


 車のエンブレムが二つ。

 一つは”ISUZU” もう一つは “ELF” である。


「お、おい。何すんだ」

「ちゃんと代金をもらってきたら返してやる」

「いいだろう。約束だぞ」


 価値があるとでも思ってるのか? 残念、メッキだよ。

 だが、絶対取り返してやる。

 光治郎はニヤッと笑い、親指を立てた。



 ピピー、とクラクションを鳴らすと、悲鳴をあげて人の波が後退していく。


 トラックは動き出した。

 さほど長くもない通りを過ぎるとすぐに町の門である。


「コージロー、外に出たら真っ直ぐ南に進んでくれよ」

「分かった」


 三峰光治郎、神様とのギリを果たすため、異世界最初のドライブに繰り出した。


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