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ヤニ休憩は登録後に


 冒険者ギルド。

 正直な話、俺にはそれが何なのかよくわからなかった。

 やたらとゴツイ男たちが鎧を着て歩いてる。

 さすがに全員がというわけではない、ピンキリだ。

 女もそれなりにいる。

 剣だの斧だの、物騒な物をぶら下げている連中ばかりで、俺の想像していた探検隊のような冒険者はここにはいない。


 その光景に面食らっていた俺を、クロエが後ろから小突いてきた。


「主様~、早く終わらせて飲み放題しようよ~」

「お、おう。そうだな、えーっと……まず何をしたらいいんだ?」

「受付で冒険者に登録出来る、と書いてますね。受付はどこですかね」

「受付か」


 辺りを見回し、カウンターの様なものを見つけた。

 受付嬢っぽい人がいるし、もし違っていてもその人に聞けばいいだろうと思った。

 カウンターに近づき声をかける。


「こんにちは」

「はい、何か御用でしょうか?」

「冒険者、というのに登録したいんだけども」

「初めての方ですね? 少々お待ちください」


 そう言って受付嬢はカウンターを離れた。

 

 どうやら正解だったようだ。

 

 ふう、と心の中で一息つき――タバコ臭いな。

 後ろを振り返ると、ハクアがタバコに火を着けていた。


「おいハクア、ここは室内だぞ」

「知ってます。この世界に室内は禁煙なんて概念はありませんよ」

「今から冒険者に登録するんだからもう少しマナー良くしてくれよ……」

「――わかりました。では手短にすませましょうか」


 ハクアは携帯灰皿に吸殻を捨てると、俺の隣に並んだ。

 

 吸殻をその辺に捨てないのは評価できる。

 

 そう思っていると、ハクアに続いてクロエも隣に並んだ。

 そのタイミングで、受付嬢が何かを持ってくるとカウンターの上に置いた。

 

「はい、ではお名前を伺ってもよろしいですか? それが終わったら順番にこの水晶に手を置いてください」

「わかりました。俺の名前は長岡社(ながおかやしろ)です」

「はい。ナガオカヤシロさんですね」

「主様そんな名前だったんですね」

「そうだよ。知らなかったのか?」

「教えられていませんでしたから」


 そういえば名乗っていなかった気がする。

 二人が俺のことを主様と呼ぶのでタイミングを逃していたんだろう。


 そんな俺とハクアのやり取りを見て、受付嬢は言った。


「えーっと、そちらの女性二人は奴隷ということでしょうか?」

「奴隷⁈ 違いますって、この二人は……そう! 旅の仲間です」


 奴隷という言葉が出て来てビックリした。

 え、もしかしてこの世界は普通に奴隷がいるのか? そんなに文明が発展してないのか?


「私はハクア」

「僕はクロエだよ」

「ハクアさんにクロエさんですね……はい、では順番に水晶に触れてください」

「これに触れると何があるんですか?」


 俺の素朴な疑問に、受付嬢はすらすらと説明を始めた。


「魔力の量を調べる為です。この水晶に魔力を登録して、このギルドカードに魔力の波長を登録するんです。このカードが身分証の役割も果たしますので、くれぐれも無くしたり、人に渡したりしないでくださいね」


 うーん……俺の知らない言葉がどんどん出てくる。魔力ってなんだろう……とりあえずこのカードが俺の身分を証明してくれるようだ。

 文明が発展してるのかしてないのかよくわからん世界だな。


 俺が水晶に手を振れると――水晶が淡く光り出した。

 受付嬢は慣れた手付きでカードを水晶に当てる。

 するとカードに淡い光が移っていった。


「――はい、もう結構です。続いてお二人も順番にお願いします」

「僕が先ー!」

「はいはい」


 ハクアは一歩下がりクロエに譲った。


 クロエが水晶に振れ――光り出した瞬間。


 パンッと子気味いい音と共に水晶が砕け散った。


「……あれ~?」


 クロエは首を傾げた。

 俺も釣られて首を傾げる。

 受付嬢は目を見開き、口をパクパクさせている。


 その様子にハクアがため息を一つ吐き、告げた。


「ハァ……クロ。ちゃんと魔力を抑えなさい」

「あー、そういう感じ?」

「そういう感じよ」


 どういう感じ?


 俺は更に首を傾げた。



 その後、追加で三回ほどクロエは水晶を砕いた。

 四回目でようやく光り出したが、正直かなり眩しい。

 車のハイビームをもろに受けた時のような光を放っていた。

 

 クロエが終わり、ハクアの番になった。


 バンッと勢いよく砕け散る水晶。


「おかしいわね……」


 おかしいのはお前らだ、というツッコミを飲みこみ、ハクアに言った。


「クロエにどれくらい抑えたか聞いてからやろうか」

「……わかりました。クロ、どれくらいまで抑えたの?」

「ええーっとね。ギュンッ! てくらい」


 ダメそうだ。


「……………………ああ、わかったわ。あれくらいね」

 

 どうやら通じたようだ。

 

 受付嬢が新しい水晶をカウンターに置き、ハクアが手を乗せる。

 ほどよい光が水晶から放たれた。

 その光景に、俺と受付嬢は安堵のため息を吐く。


 よかった、これ以上ギルドの備品を壊さずに済んだ。

 ……待てよ、これってもしかして俺たちに請求が来るパターンか?


 そんな俺の心配を他所に、受付嬢は咳ばらいを一つしてから冷静に手続きを続けた。


「ゴホン。では登録が完了いたしましたので、カードをお渡しします。登録したばかりですので、ランクはGからになります」

「ランクがG……それはどういう」


 また俺の知らない単語が出てきた。

 そもそもランクってなんなんだろう。

 Aが一番上だと考えると……七段階ある感じか?


 そんな俺の疑問に、受付嬢は簡単にまとめたものを説明した。


「ランクは最上位をSとし、それより下をA、B、C、D、E、F、Gという形になります。基本的に初めて登録した際はGランクからのスタートとなります」

「なるほど……上に上がるにはどうすれば」

「依頼をこなし、ギルドが適切と判断したタイミングで声をかけますので、その時にランクを上げるか維持するかを決めてください」


 ランクを上げるのは任意なのか、ということはランクが上がるデメリットが存在するはずだ。じゃなければ、ランクを維持する理由がない。

 まあランクを上げるかどうかはその時考えればいい。

 今は優先することは、どうやって金を稼ぐかだ。


「ランクについての説明は以上となります。次は依頼についてですが、基本的にはあちらのGランク専用の掲示板から選んでください。受ける依頼を決めたあとこちらに持って来ていただければ処理いたします」


 受付嬢の指差す方向を見ると、確かに掲示板がある。あるが……小さく、何枚かの紙が貼り付けられている。

 

 あそこから仕事を探して来いってことか……え、冒険者ってこんな雑な勤務体系なの? 社会保険とかはない感じ?


「説明は以上となります。何かご質問はありますか?」

「え、あー、そうだ。町に入る時に金を取られたんだけど、依頼?っていうので外に出た時もまた金を取られるんですかね?」

「……は? 何を言ってるんですか。冒険者カードを提示すればお金なんて取られませんよ?」

「あっ、そ、そういえばそうだったな! すまない、変な勘違いをしていたみたいだ」


 受付嬢の「なんだコイツ」という視線を受けていたたまれない気分になった。

 この世界ではそれが〝常識〟なんだな……やばい、俺ってかなり世間知らずってことになるじゃないか。


「……おい、なに笑ってんだ?」

「ふ、ふふふ……いえ、主様何も知らないのに知ったかぶりしてるのが――ブフッ!」

「あー、ハーちゃんのツボにはいっちゃったか~。主様やるね~」

「………………ハクア。お前三日禁煙な?」

「――⁉⁉⁉ ハア⁉ 何でですか!! ちょっと笑っただけじゃないですか! 私を殺す気ですか⁈」

「たかが三日禁煙した程度で死ぬわけねえだろ!」

「ハアアアアア⁈ 三日も禁煙なんてしたらイライラし過ぎて、こんな町余裕で更地に出来ますがあ⁈」

「おう、やってみろや!」


 そこで俺の服をクロエが引っ張った。


「……なんだ?」

「主様。ハーちゃんはマジで更地に出来るよ」

「………………は?」

「前に神様がハーちゃんに、二日禁煙させた時は神様の配下を八割半殺しにしたから」

「…………っ、ハクア!!」

「なんですか……」

「ごめんなさいって言えば許してやる」


 これが俺に出来る精一杯の譲歩だ。


「――チッ。ごめんなさい!」

「いいよー、俺もむきになってごめんねー!!!!」


 こうしてこの町の危機は免れた。

長岡 社。


入れ替えると岡社長。


だからなんやねん。

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