町についたら一杯どお?
石畳の道を歩き続けること約二時間。
途中でヤニ休憩と言ってハクアが一服したり、喉が乾いたとクロエに酒を要求されたりと、二人の好き勝手な行動でやたらと時間がかかってしまった。
だがその苦労も終わりを迎える。
道の先に城壁のようなものが見えてきた。
おそらくあそこが、紙に書いてあった街なのだろう。
俺は声を上げた。
「おー、アレが異世界の街か?」
「そうですね。主様のいた世界の街と比べるとゴミカスみたいな大きさですね」
「言い方な?」
「主様主様ー、街についたら到着を祝して一杯やらない?」
「…………夜までその瓶で我慢してくれ」
クロエがブーブー言っているが、言われた通りにするつもりなのか、渡した赤ワインをチビチビ飲み始めた。
「主様、クロは言えば素直に聞く子ですよ。我慢の限界はありますが……」
「我慢の限界を迎えたらどうなるんだ?」
「聞きたいですか?」
「……やめとく」
やはりとんでもないのを押し付けられたんじゃないのか? あのクソ神め……
「ハーちゃんも長時間吸えないとイライラして物に当たるくせに」
「私にとってタバコは空気と同じだから、吸えないと辛いから気を紛らわせているだけよ」
「タバコは空気と一緒……生前、そんな風に言ってるオッサンいたなぁ」
「一緒にしないで下さいね。オッサンよりも、私のような美女に言われた方が嬉しいですよね?」
「オッサンと美女を比べるなよ……」
「あら、私のことを美女と認めてくれるんですね?」
「――よし、さっさと街に行こうか」
この話は終わりにしよう。
俺は足早に歩き出した。
◇
「町に入るのに金が必要なのか?」
「ええ、神様から貰った紙にそう書いてあるわね」
俺たちは町に入る前に、もう一度神から貰った紙を読むことにした。
俺はもう読む気がしないので、ハクアに変わりに内容を確認してもらった。
「そもそも俺は《無限嗜好品供給》しか渡されてないぞ」
俺がそう言うと、服の袖を引っ張らりながらクロエが言った。
「僕とハーちゃんも最低限しか渡されてないよ?」
「あ、うん、そうだな……今はそういう話じゃなくてな。金がないんだよ」
「ありますよ?」
「…………え?」
「はい。こちらです」
ハクアは何もない空間に手を入れて、中から数枚の銀色の硬貨を取り出した。
本当にあるんだ……銀ってことは銀貨ってやつか?
「なんで持ってるんだ?」
「事前に神様から紙と一緒に渡されてたので」
「僕も持ってるよ」
……頭痛くなってきた。
この天使どもは報連相が壊滅的に死んでいる。いや、聞かなかった俺も悪いか? あの紙を最後まで読んでいれば、事前に金の話題は出せたはずだ。
思考が若くなった弊害か? 本来向けるべき注意を疎かにしてしまった。
この件で二人を責めるのはやめておこう。
もう一つ新たな問題がでてきたわけだが……
「あの……」
「ん?」
「俺の分とかは……」
二人は顔を見合せ――ニヤリと笑うと。
「私とクロで半分ずつ出してあげます」
「た、助かります……」
「私は1カートンで」
「僕は町に入ったら飲みほうだ〜い!」
「…………はぁ、わかった。わかりました!」
クソ……やっぱり不良債権なんじゃないかこいつら。
確かに《無限嗜好品供給》で俺になんらかのデメリットがある訳でもなさそうだが。
なんだろう……このカツアゲにあったような感覚は。
「わたしのは前払いでくださいね」
「はいはい――銘柄は?」
「うーん。今はメンソール系の気分ですね」
「あれ、好みの銘柄はないのか?」
「これといってないですね。そのときの気分によって変わります」
「そうか。マルボロでいいか。むむむ――」
頭の中でマルボロのカートンを願ったが――手の上に一箱だけ出現した。
あれ? もしかしてカートンは出せない感じか?
「むっ、一つだけですか?」
「違うって。カートンで出そうと念じたけどこれしか出なかったんだよ」
「……一度に出せる数に上限がある、とかですかね」
「この《無限嗜好品供給》について詳しく知らないのか?」
「神様が与えた能力なのでわかりかねます」
どうやらこの能力は検証する必要があるようだ。
町に入ったらいくつか試しみよう。
ハクアとクロエから金を受け取り、町の入り口へ向かった。
◇
無事に町の中に入ることができた。
入る際にハクアとクロエは、周りからの視線を集めていた。
見てくれは両方とも美女だからな……ヤニカスと酒カスでなければ良かったんだがを……
「さてと、次は冒険者ギルド?とかいう所に行くんだよな?」
「らしいですね。どうやって探します?」
「どうやってって、普通に聞けばいいだろうに――あっ、すいませーん」
適当な通行人に冒険者ギルドの場所を聞きだし、移動を開始する。
「うー、お酒ー酒ー」
「もう少し我慢してくれ。冒険者ってのに登録したら飲ませてやるから」
「はーい」
クロエに渡していたワインは既に飲み干したのか、逆さまにして最後の一滴を大口を開けて待っていた。
「あーもう行儀が悪いなぁ」
「この子はお酒が絡むといつもこうですよ。長い付き合いになるんですから、今のうちから慣れてください」
「新しいお酒くれたら行儀よくするよ」
「その手には乗らないからな?」
クロエがブーブー言っているが無視して歩き続け、ようやく目的の場所についた。
その建物は大きく、なかなか迫力のある外観だった。
正面には大きな生き物の頭の骨が飾られている。
なんだろうなあれ。サメとかでもないし、かといって猪にしてはデカすぎる。
俺が首を傾げていると、クロエが答えた。
「アレは魔物の頭ですね。大きさからみて、そこそこ強い魔物かと」
「まも……の? えーっとゲームとかに出てくる怪物のことか?」
「ええそうです。ご存じないのですか?」
「そういうたぐいのものには興味がなかったからな」
「そんなんで今後大丈夫なんですか? この世界には魔物がゴロゴロいますよ?」
「大丈夫……だと思う。一応二人は強いんだよな? 危なくなったら助けてくれ」
「「……」」
「なんか言えよ」
ハクアは無言でタバコを吸い始め、クロエは再び最後の一滴を絞り出そうとし始めた。
そんな二人に期待するだけ無駄だと悟り、俺は冒険者ギルドの扉を開けた。
紙幣は銅、銀、金の順で高くなる設定。
なお細かく枚数を明記する事はないので、フワッとした金額を各自想像してください。




