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アルコールハラスメント

 

 夜が明け。

 俺は貴族の使いが来るのを待っていた。


 昨日は仮眠をとった後に、ボロボロの二人を相手に貴族の家での作法を聞き出した。

 何でボロボロなのかは聞かない。どうせアホな理由だろうから。

 日本生まれの孤児院育ちの俺からすると、貴族という存在がどういったものなのかイメージが湧かない。

 事前にこの世界の貴族というものは――といった内容の話をハクアから聞いてはいるが、実際に会って対応するのは初めてだ。

 相手はこの街の権力者であり、ある意味王様のような存在だ。

 失礼があってはいけない。


 手遅れな気もするが…………もう過ぎたことなのでごちゃごちゃ言っても仕方がない。

 相手していたのはあくまでも貴族の部下だ、本人じゃない。


 そんなわけである程度の作法を教えられたが、ハクア曰く「極端に失礼な態度でなければ問題ない」と言われたので、取引相手にする態度で挑むことにした。


 ◇


 部屋の扉がノックされ、宿屋の店主の声が聞こえてきた。


「あの~、ヤシロ様。領主様の使いの者と名乗る人物が訪ねて来ていますが……」


 その声を聞き、俺はベッドから腰をあげるとハクアとクロエに一声かける。


「よし。行くぞ」

「承知しました」

「ういよ~」


 扉を開けるとなぜかビクビクしている店主の案内のもと、一階へと向かった。


 一階には昨日会った執事風の男が一人。

 俺たちが降りてきたのを察したのか、執事風の男はすぐに恭しく俺たちを出迎えた。


「ヤシロ様。お待ちしておりました。旦那様が是非お会いしたいと仰っておりましたので、迎えに参りました」

「わかりました。では向かいましょうか」

「こちらへどうぞ」


 執事風の男の後に続き宿屋を出ると、豪華な馬車が止まっていた。

 この世界の馬車は何度も見てきたが、目の前の馬車はそのどれよりも立派な作りをしている。


 執事風の男が扉を開き、俺たちを中へと促す。

 反抗する気もないので素直に従い足を踏み入れた。


 なるほど……これは見事だ。


 馬車の中の装飾は、下手な部屋よりも豪華で、対面に設置された椅子は驚くほどに座り心地が良い。


「それでは出発致します」


 その声を聞くと同時に、馬車は動き出した。


 ◇


 馬車が街中を進む。

 石畳の道を進んでいるが、ほとんど振動を感じない。


 イメージ的にはこう……ガタガタ揺れるイメージだったが、高い馬車だとその辺は改善されているのかな?


 そんなことを考えていると、おもむろにハクアがタバコに火をつけ始めた。


「おい、馬車の中だぞ」

「窓を開ければいいのでは?」

「そういう問題じゃ――『カシュ』……おい」

「馬車から見える景色を肴に一杯ってのも乙なもんじゃん?」

「カス共がよぉ……」

「主様って、最近僕たちのことカス呼ばわりするよね〜。失礼しちゃうな〜」

「今日まで一緒にいてわかった。お前らはヤニカス天使に酒カス天使だろうが」


 俺の言葉に二人は抗議の意を込めて「ブーブー」言い出したが、当然無視。

 だって本当のことだもの。

 この二人はタバコと酒が絡むと途端に沸点が低くなる。


 ハクアはとある冒険者に言い寄られ、タバコを持つ手を握られた瞬間、男を壁の向こうへ蹴り飛ばしたりもした。

 壁の向こうとは比喩ではなく、文字通り壁をぶち抜くくらいの威力で男を蹴り飛ばしたのである。


 死んではいないので良しとした。

 一応悪いのは、いきなり手を掴んだ男なわけだし……


 他にもクロエが街の男に言い寄られた時に、強引に行く手を遮られ持っていた酒を少し零した瞬間。

 最初の町の冒険者ギルドでやったような強化魔法で声を強化し、街の往来の中――声を上げた。


 その時は、クロエが急に喉を触りだしたので嫌な予感がした俺は、即座に耳を塞いだ。


 まあ……その後はあまり語りたくない。


 直撃したナンパ男はそのままにしたが、関係のない人たちまで倒れたのでかなり焦った。

 ハクアが回復魔法を込めた煙を吐き、全員の鼓膜が治ったのを確認したあと即座にその場を離れた。


 ……そうだった。あの時回復魔法を使っていたじゃないか。


 あまりの出来事にそのことをすっかり忘れていた。


 そんなエピソードを思い返している内に馬車の中は煙たくなり、酒の空き缶が増えていた。

 窓を開けてすらいないし、窓の外を見てもいない。


 なぜ自分で言ったことを実践すらしないのか……何なんだコイツらは…………


 そうこうしているうちに、馬車が急に止まり――執事風の男の声が聞こえてきた。


「到着致しました。今扉を開けますので少々お待ちを――」


 その声の数秒後に馬車の扉が開き――タバコの煙が一気に外へと漏れ出た。


「足元にお気を――ゴホゴホ!!」

「ご苦労様」

「ごーくろー」


 煙に咽る執事風の男を尻目に、ハクアとクロエが何食わぬ顔をして先に降りた。

 俺もその後に続いたが、煙に咽る執事風の男を気遣う必要があった。


「大丈夫ですか?」

「ゴホッゴホッだいじょう、ゴホッ! ……大丈夫、です……」

「アイツらにはあとでよく言い聞かせときます……」


 馬車から降り立った俺たちを出迎えたのは――

 引きつった笑みを浮かべたメイドたちと執事たちだった。


 まあ……言いたいことはわかる。

 タバコって吸わない人からしたら凄い臭いもんな……それがいきなり大量に目の前に立ち込めたらたまったもんじゃない。

 俺はカバンに手を突っ込み《無限嗜好品供給むげんしこうひんきょうきゅう》でファブリーズとブレスケアを出すよう願った。


 ……出ないか。

 さすがに消臭剤は嗜好品として認められないか。香りを打ち消すもんな……


 俺が無意識に舌打ちをしたのを察したのか、ハクアが思念を飛ばしてきた。


(主様。私たちはタバコや酒の匂いはつきませんよ?)

(は? どういう意味だそれ)

(僕らは天使だからね。そういう不純物は、身に着けている衣服や体に染みついたりはしないんだよ~)


 さも当然のようクロエも割り込んできた。


 たしかに思い返してみれば、変な意味ではないがハクアとクロエからは良い匂いがしていた気がする。


(なんだよ……俺だけが変に気にし過ぎていただけか……)

(あ、でも主様は普通に匂いが染みつくので普通にタバコ臭いですよ)

(主様は天使じゃないからね~)


 ……………………はぁ? ほんとふざけんなよ。


 俺は二人に対する怒りを押し殺し、目の前の出迎えた人たちへと意識を向けた。


「では、領主様の所へ向かいましょうか――!」


 俺はもう半ばヤケクソ気味にそう告げた。

ハクアは花系の香りで、クロエは赤ちゃんのような香り


ヤシロはヤニ臭い。


仕方ないね。

甘んじて受け入れろ。

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― 新着の感想 ―
やっぱり被害を受けるのは副流煙を吸う側かあ(何か違う)
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