スモークハラスメント
「……なんですかね、それは」
「何って……えーっと」
(世界樹の葉で作った薬って言っといて~)
「世界樹?の葉で作った薬だ」
クロエの言うままに口にすると、場がシンと静まり返った。
突然、執事風の男の後ろに引けていた騎士の一人が剣を鞘から抜き放つ。
「ふざけるのも大概にしろ!! 世界樹の葉をお前みたいな冒険者風情が持っているわけがないだろ!!」
「……えーっと。信じる気ない?」
「当たり前だ!」
さて……この男が怒るくらいだ。
世界樹の葉というのはかなり貴重な代物なのだろう。
世界樹というものが何なのかよくわからないが……これだけ怒るくらい、俺は訳の分からないことを口にしたのだろう。
まったく……クロエー。ん? クロエさーん? おいクロエ! コイツ無視してやがる……
クロエに顔を向けながら、心の中で呼びかけるも応答がない。
――チッ、仕方がない。
「ハクア。説明して差し上げろ」
こういう時は、素直にハクアに頼ろう。
俺よりもこの世界の知識があるからな。
「説明するのは構いませんが……主様に向かってその物騒な物を突き付けたままとは、人の話を聞く態度ができていませんね。何より、主様に対して無礼ね」
そう言いながら、ハクアは剣を抜き放った男に無造作に近寄った。
突然のハクアの行動に、他の騎士たちも身構えるも――ハクアはクスクスとバカにする様に笑いながら言った。
「ほら、私の首はここよ。よく狙ってその玩具を振りなさい」
自分の首を指でトントンと叩きながら男に近付く。
「それ以上コチラに近寄るな!」
「あらあら、怖いの? こんな腰抜けを騎士として雇わなきゃいけないなんて、この街の領主様はさぞかし人望がないんでしょうね。だって貴方みたいな腰抜けにしか忠誠を誓われないんだもの。見返りは何? 金銭? それとも女? ああ、もしかして病気のお嬢様?」
「――き、さまあああああああ!!!!」
男がハクアに向けて剣を振り抜いた。
だが刃は首に届くことはなく、ハクアの肩の上で止まっていた。
止まっていた――というよりも、止められていた。
男の刃をハクアは指で摘まむようにようにしておさえていた。
内側からではなく、外側から――
男が剣を両手で握り直し、動かそうとするがビクともしない。
その様子にハクアはただクスクス笑うのみ。
「わかった? 私たちは何時でもお前らを殺せる。これ以上主様への無礼な態度は見過ごす気はないからそのつもりでいなさい」
「わ、わかりましたとも。早く下がりなさい。今すぐ」
「――っう、わかりました……」
男が一歩下がると、ハクアは剣を手放し男から離れると、俺の隣に座った。
「では説明いたしましょう――と言っても世界樹について今更説明する必要もありませんね。貴方たちが主様を信じるのであれば、コレでお嬢様とやらを治してあげましょう」
俺の手から葉巻をサッと奪い取ったハクアがそう告げた。
俺的には説明してほしんだけどな……
主様に無礼な態度を、というのならお前の態度はどうなんだろうな? ……おい、やめろよ? なんでヨダレ垂らしながら葉巻見てんだよ。
俺はハクアから葉巻を奪い返し、執事風の男に言った。
「ま、まあそういうわけだ。俺も旅の途中でたまたま手に入れただけで、この一本しかないんだ。アンタらがお嬢様を救いたいのなら、藁にも縋ってみてはどうだ?」
言ってから気づいたが、藁にも縋るなんて言葉がこの世界にはあるのだろうか……なかったとしても今は気にしなくてもいいか。
執事風の男は押し黙り思案している様子だ。
ハッキリ言って、俺たちの提案には完全に〝脅し〟が入っている。
実際俺は、ハクアがお嬢様の病気を本当に治せるのか疑問でしかない。
今まで誰かを癒している姿よりも、痛めつけている姿の方が多いせいもある。
しばらく沈黙が続いた後、執事風の男は口を開いた。
「申し訳ないが、私の一存では判断できかねる。一度旦那様へこの事を報告したいのだが、よろしいだろうか?」
「この場で判断を――」
「ハクア」
「……わかりました」
「期日は明日の昼までだ。それまでに結論を出して、俺たちの泊まっている宿に報告に来てくれ」
「……承知いたしました。先ほどの部下の無礼をお許しください」
「構わないさ。俺の仲間が挑発したのが悪いからな。そうだよなぁ? ハクア」
ハクアはすぐさま立ち上がると、クロエの側に近寄りタバコに火をつけ知らぬ存ぜぬといった様子で佇みだした。
――ハァ。まったく。まあいいさ、おかげでスムーズに事が運びそうだからな。
「ハクア。クロエ。帰るぞ」
「はい」
「うい~っす」
俺は立ち上がり二人に帰ることを示した。
その状況でもハクアは新しいタバコに火をつけ、クロエは新しい缶を開けた。
このカス共がよぉ!! 帰るぞ!!
「おら! 帰るぞカス共!」
「ひどい主様ね」
「まったくだよ~」
渋々動き出す二人に俺は溜息しか出なかった。
どの口が……もういいや、コイツらと言い争っても埒が明かない。
カス二人を連れて宿屋へ戻ることにした。
◇
宿屋の部屋につき、最初に俺が口を開く。
「クロエ。知ってる情報を全部吐け」
「んっ」
クロエが手を差し出し、何かを要求する。
無言で《無限嗜好品供給》を発動して、適当なワインを取り出し与えた。
「赤か~、白な気分なんだよね~」
「そうか。なら五日間は追加なしだ」
「うそうそ♡ ちょっとしたジョークじゃーん。本気にしないでよね~」
「わかったから早く話せ……」
「えーっとねー。領主の名前はマルコス・フォン・ファーステッド・ハジマリノマチーっていうんだよね」
領主ってそんな名前だったのか……ハジマリノマチーは確かこの街の名前だったかな? ファーストネーム、ファミリーネーム、街の名前って感じの法則だろうな。
この世界は外国寄りの名前の構成なんだろう。
「それでねー、街の住人からの評判はそこそこって感じかな? 可もなく不可もなく。特別優秀なわけでもないけど、悪くもないって感じ」
「なるほどね~。そのお嬢様の件については何かわかったことはあるか?」
「うん。今回の件は、領主に娘を殺された男の仕業だね。殺されたと言っても事故の要素が強そうだから逆恨みって線が濃厚かな~」
「そうか……ちなみになんでそう断定できるんだ?」
「領主とさっきの執事の頭をこの前覗いたから」
聞かなかったことにしよう。
「ご苦労。下がっていいぞ」
「了解でありまーす! ハーちゃん偶には一緒に飲もうよ~」
「嫌よ。そんな物のどこが良いのか私にはわからないわ」
「それを言ったら、その煙もなにが良いのか僕にはわからないな~」
空気がピリッとした。
手を叩き空気を入れ替える。
「はいはい。ケンカしない。クロエも嫌がってる相手に無理に飲ませるのは、アルハラといって褒められたものじゃないんだぞ?」
「あー、主様の世界の常識ってやつ? そんなのあるなんて不便だねー」
「ハクア。煙をクロエに吹きかけるな。それもスモハラといってアルハラと同じだからな」
「…………わかりました」
「ハッハー!! ざまあwwwwwwうおっ危なっ⁈」
笑うクロエに向かってハクアがアッパーを放つも、紙一重で回避された。
ハクアは左ジャブのラッシュを放つも、クロエは全て回避してみせた。
「へいへ~い。おそいおそ~い」
「じゃあスピード上げるわね」
「――ハァ⁈ ちょまっ!」
「死ねえええええええええ!!」
アホなことをしている二人を視界から外し、俺はベッドに身を投げた。
もういいや。アホの相手は疲れる。
布団を頭から被り、少し仮眠することにした。
クロエの悲鳴とハクアの怒声が聞こえる中、俺は目を閉じた――
ヤシロへの無礼に対しての二人の対処法
ハクア
目に余るならその場で半殺し。ヤシロが止めた場合のみ無傷で帰す。
クロエ
目に余っても、その場では何もしない。ヤシロが寝た後に夜襲をかけて8割殺しにする。ヤシロが止めても夜襲はする。




