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飲みながら聞くんで


 「お嬢様の……最後の、最後の晩餐のためにも譲っていただきたい」


 執事風の男はそう口にした。


 その言葉に俺は目を伏せる。


 あー、そういうやつかー。

 お嬢様ってことは子供だよな……しかも最後の晩餐ということは、そんなに長くはないのだろう。


 話だけでも聞いてみるか……



「詳しくお聞かせ願いますか?」

「あまりこの話を広められては困るので、ご内密にしていただけるのであれば」

「わかった。ここだけの話で留めておきますよ」


 執事風の男は暫しの間沈黙した後、口を開いた。



 ◇


 執事の話をまとめるとこうだ。

 

 今からちょうど一年前。

 この地を治める領主の屋敷にある人物が訪れたそうだ。

 全身をローブで隠した素性の知れない人物を、屋敷の人間は誰も不審に思わずに、領主の執務室へ招き入れたという。


 セキュリティが甘いんじゃないか?と思ったが、おそらくは魔術的な力でどうにかしたのだろう。

 まあその話は今はどうでもいいか。


 執務室に訪れたローブの人物はただ一言、こう告げたという。


「娘を寄越せ」


 その言葉に領主は首を横に振ると、ローブの人物は軽い口調で――


「そうか……ならいらない」


 それだけ告げると、目の前から何時の間にかいなくなっており、その日を境に領主の娘は謎の病気を患ってしまったのだという。



 ローブの人物ねぇ……少なくとも俺の知り合いではないことは確かだ。

 そして娘さんの病気も、そいつが関わっていると見てまず間違いないだろう。

 

 ……あれ、最後の晩餐でコンソメが必要な件については触れてないな。


「その話と俺の持つ調味料がどう関係するんですかね?」 

「先程話した通り。お嬢様は病により食が細くなっておりまして、どんどん衰弱していく一方なのです。回復魔法やポーションでの延命を試みてはおりますが……それももう限界なのです。ですが、ここの商人より我が家にもたらされた、あの黄金の欠片を入れたスープをお嬢様がお飲みになられた時の穏やかな表情――この一年であれほど穏やかな表情は他にはありませんでした。ですので、何としても我々に譲って頂きたい」

「……そうですか」


 ここで領主自ら頼みに来るのが筋ってもんだろ、と言うのは無粋か。

 この世界の貴族は、俺たちのような一般市民の前に現れるなんてそうそうないらしいからな。


「ちなみにお嬢様というのはおいくつで」

「もう少しで12になりますが……誕生日を迎えることはできないでしょうな……」


 12か……そうすると……あっ、ダメだ。孤児院の子たちの顔が浮かんでしまった。

 あの子たちが痩せ細っている姿は見たくない。

 何よりこの世界の医療は俺のいた世界よりもはるかに劣るだろう。

 治る見込みのない治療をし続ける辛さは、俺もよく身に染みている。

 無理矢理生かされているんだろうな……


 元々俺に痛手はないわけだし、譲ってもいいな。


 俺は頭の中でそう結論付け、答えを口に出そうとした――


 (主様〜)


 不意に頭の中に声が響く。

 この声は……クロエか、珍しい。


 (なんだ? お前がこっちで語りかけるなんて珍しいな)

 (まあね〜。でさ、多分治せるよ)

 (何をだ?)

 (その貴族の娘。ハーちゃんの魔法なら問題なく治せる。治せるというか……正確には解呪だね)


 解呪……クロエが口にしたその言葉。

 つまり娘さんが患っているのは、病気ではなく呪いということか。

 そんなオカルトチックなことが……いや、俺の知っている世界じゃない、この異世界なら有り得るんだろうな……というか治せるのかよ。もっと早く言えよ。


 (向こうは気付いている感じか?)

 (気付いてないよ。上手く隠れてるし、長期間に渡ってジワジワ苦しめるタイプの呪いだね。性格悪いよ〜、この呪いかけた奴)

 (そうか……というかなんで知っているんだ?)

 (主様が寝てる間に、街の探索は一通りしてあるからね。貴族の家なんて真っ先に調べあげるに決まってるじゃーん)


 背後からプシュッと新しい缶が開く音がすると同時に、背中にプレッシャーを感じた。


 (――で、どうする? 見捨てる? 手を差し伸べて、主様の慈悲をこの連中に分け与える? それとも僕たちの言いなりになるように細工する? 僕はどっちでもいいよ。でもタダで助けたくはないかな〜)


 背中を刺すような気配が濃くなるのを感じた。


 まったく……コイツらほんとに天使か?


 俺はひとつため息をこぼした後に告げた。


「調味料を渡す気はない」


 俺がそう告げると、執事風の男の後ろに控えていた騎士たちが剣の柄を握り締め、明確な敵意を飛ばし始めた。


「考え直したほうがよろしい。我々も力づくで手に入れようなどとは思っておりません」

「――ハクア。火」


 タバコを口に咥え、ハクアに火をつけるように促す。

 

 映画の悪役みたいで気持ちいいな。

 一度やってみたかったんだよな。


「ふー、調味料は渡さん。渡さんが別の物をくれてやる」

「別の物――とは?」


 騎士たちは顔を見合せ、執事風の男も首を傾げた。


 向こうには見えないように、手のひらで隠しながら《無限嗜好品供給むげんしこうひんきょうきゅう》を発動。


「じゃじゃーん。こちらがお嬢様の病気を治せる薬でーす」



 俺はそう言うと、一本の葉巻を男たちに見せつけた。

タイトル少し変わりました。

これでPV数が五十億倍になると思います。

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