別れは煙と共に
自然と目が覚め、体を起こす。
寝ぼけた頭で部屋を見渡すと、ベッドで姿勢正しく眠るハクアと、どうしたらそうなるのかわからない体勢になって寝ているクロエがいた。
どうやら昨日は何時の間にか眠ってしまったようだ。
窓際に行き、手慣れた手付きでタバコに火をつける。
昨日飲み残していた氷が溶け薄くなったウィスキーを一気に飲み干す。
タバコの煙を吐くと、ハクアの目がパチリと開いた。
「おはようございます。手持ちが無くなったので補充をお願いします」
「おはよう。今は何の気分だ?」
「メンソール系で軽いのがいいですね」
「あー、たしかに寝起きならそれ系の方がスッキリするよな」
《無限嗜好品供給》を発動して新しいタバコを渡す。
二人して窓際でタバコを吹かしていると、クロエが目を覚ます。
「……煙いんだけど」
「あら、起きたのね。寝坊助の貴女が悪いのよ?」
「関係ないじゃんそんなのー」
クロエの文句を無視して、ハクアが言った。
「それで主様。本日はどうなさいますか?」
「……今日か、うーん。この村を出る……か?」
「私たちは主様の決定に従うので、滞在するか次の目的地を目指すのかお決めになってください」
「このままこの村にいても面倒事に巻き込まれるだけだと思うよ、僕は~」
たしかにクロエの言う通り、この村にいても面倒事しか待っていないだろう。
結局昨日は、村の連中はリーダー格の男以外、誰も来なかったわけだし。
本気で俺らに何か話があるなら昨日の内に来るべきだ。
それがなかったということは、俺たちの事は重要に見られていないということだ。
その事に関して思うところはあるが……今後付き合いのある連中じゃないんだ。
無視して次の目的地に行くのもありか?
……ありだな。
俺は二人に告げた。
「よし! このまま次の場所に向かおう」
◇
「そうか。なら次の街までは少し距離があるから、気をつけるといい。もっとも――その二人が一緒なら問題ないと思うがな」
宿の店主に次の目的地に行く事を告げると、そう告げられハクアとクロエをチラリと見た。
実際目的地と言っても、街道沿いにある街を目指すだけなので、明確にそこを目指す必要はない。
それにどうやら店主は、二人の力を見抜いているようだ。
「……少し待っていろ。昼食くらいは持たせてやれる」
そう言って店主は奥へ引っ込んだ。
どうやら俺らに弁当をくれるらしい。
この宿の店主はこの村の唯一の良心のようだ。
良い酒の一本――いや、もう会う事はないだろうから、いくつか渡しておこう。
「クロエ。店主に酒を渡したいんだが、何が良いと思う?」
「え~? 適当で良いと思うよ? 主様のお酒ってこの世界のどのお酒よりも高品質だし」
「どれでもいいが一番困るんだよな……とりあえずウィスキーと、シャンパンでいいか? いや、日本酒もありか?」
俺がアレコレ悩んでいる内に店主が料理を持って戻って来た。
「昨日の残りと簡単な物を積めたので悪いが、コレを持っていけ」
「――ん? ああ悪い。ありがとう。これは俺からのお礼だと思ってくれ」
そう言って俺はとりあえずウィスキーとシャンパン、日本酒をそれぞれ数本テーブルの上に置いた。
「……お、おいおい。宿代も貰ってるんだからそれを受け取る理由がないぞ?」
「いいんだよ。アンタみたいな人間に出会えた。それだけで十分過ぎる対価だ。遠慮せず受け取ってくれ」
ノーコストだしな。
「――ハァ、わかったよ。たぶんお前はさんは断っても無理矢理おいてくタイプだろ?」
「そうだな。断られたら宿の前に放置して出発するつもりだった」
「そうかい。なら有難く受け取っておくよ。次にこの村に来た時はタダで泊めてやるから覚悟していてくれ」
「ハハハハ、その時は期待しいるよ。それじゃあ俺らはこれで失礼するよ」
「ああ、またのお越しを――」
◇
その後は何事もなく村を出ることが出来た。
早朝ということもあったのだろうが、誰も俺らを見張っていなかったのだから、そういうことなのだろう。
二人を伴い、街道を歩き続ける。
ハクアはタバコをスパスパ吸い。
クロエは酒瓶片手にフラフラ歩いている。
やばい、もうあの店主が恋しい。
まともな人間が恋しい!
そんな思いを胸に半日ほど歩いた。
歩いた末に俺らを待っていたものは――
半壊の馬車だった。
明らかな血の跡と、大きな爪痕の残った馬車。
馬車を引く馬は食い尽くされたのか、ほとんど残骸が残っておらず、馬車の中にも人と思わしき血痕が散乱していた。
その光景を目の当たりにした時、胃から込み上げるものがあった。
明確に人が死んだとわかる現場。
凄惨な光景を前に、一歩間違えれば自分がこうなっていたのだと理解する。
ハクアがすぐに「周囲を警戒します」と言った。
それはつまり、ハクアでも警戒する相手が周囲にいたということだ。
「いるのか? 魔物が」
何故か倒置法になってしまたが、ハクアに確認した。
「――え? ええ、いますね。早くここを離れた方が賢明かと。さあ行きましょ」
「ブフッ。そ、そうだね。離れようね~」
何故かクロエの様子が可笑しいが、今はそんなことに構っている暇はない。
俺たちはすぐにその場を離れた――
◇
それから街道を数日歩き、ようやく街へ辿り着いた。
遠目からでもわかる程の大きな壁がそびえ立っている。
「やっとついたか……早く宿――の前に冒険者ギルドだな」
「ですね。《収納》した魔物の死体が大量ですので、早く現金化した方がよいかと」
「そのつもりだよ。終わったら宿をとって休もう。二人の好きなのも出してやるからな」
「では私はマルボロを」
「僕はポン酒な気分かな〜」
「わかったよ。それじゃもうひと踏ん張りだ」
俺たちは街までの残り少ない道を再び歩き出した。
いざ新たな街へ!!




