43話 兆し
「能力者?詳しく教えてもらえないかしら」
能力者とその製造技術について惜しみなくエルネに説明した。
「要するに貴方は後四年しか生きられない能力を引き出された人間ってことなのね。しかもそれが魔王軍に対抗するための勇者の実態と言う訳」
「まぁ、そういう事だ」
取り敢えずは重要事項以外は全てエルネを話した。
彼女の反応は、暫く思考が追いつかない様子だった。
無理もない、ほぼ宗教観を揺さぶる話だからだ。
この世界の住人は現代日本とは違い、西洋に近い宗教観を持っている。
それがゴーゴリ司教からもたらされた情報で、主神の存在もあやふやになる。
自分の信じていた真実が虚像かもしれないという感覚が芽生えるのだ。
青ざめるエルネ。
「ちょ、ちょっと待って、これ私が踏み込んで良い問題なのかしら?かなり秘匿されるべき情報なのかもしれないわよ」
「まぁ、そうかもな。すまん」
「すまんで済ますなぁ!明日私が消えたらどうするんだ!」
声を荒らげ椅子から立ち上がるエルネを、周囲が奇異の目で見つめる。
それを受けておずおずと座り直すエルネ。
「ともかく。話を聞くに、恐らくその能力を支えている若しくは縛り付ける要因に魔力が消費されている可能性が高いわね。そもそもの話、人工的に能力を発現される儀式自体が厄ネタなのかもしれないわ」
儀式自体が厄ネタだと?
その事についてエルネに尋ねてみた。
「そう、能力を発現させる儀式。英雄鍛造だっけ」
「そうだ。それによって俺達の魂から能力が生まれた」
「そのことについてなんだけどさ。もしかしたら儀式の元ネタになった神話があるかもしれないわね」
神話?レイバルン教の神話だろうか?
ミネルヴァより授けられた情報には北方の神話は数えるほど多くは無く、何か該当しそうな物は無かった。
エルネに聞いてみたが、口伝で伝わる神話らしき話があると言う。
「心当たりがあるのか?」
「帝国領の北方の地域にそんな話があったかなって程度」
少し首を傾げ、エルネは語る。
「そういった魔術の儀式自体が、神話をベースにして構築されている。再現性は低いけれど、成功したらそれだけの見返りはあるから。魔術学院で習った程度でしか無いけど、再現できる可能性があるなら私だってやるね」
「俺達の儀式を逆に解く事もできるのか?」
そうすれば、俺達の寿命問題も解決できる可能性がある。
「うーん、それは逆に難しいかも」
「なに、どうしてだ」
「儀式によって生まれたものを元の状態に戻せる可能性は、煮て固くなった卵を元の生卵に戻せと言っているようなものなの。それくらいの難しさと思ってほしいわ」
「········何だよ。そりゃ」
ゴーゴリ司教との話をしていた最中には見落としていたと思っていた可能性の光は、いとも簡単に潰えてしまった。
「けれどね。神話の中で英雄鍛造からもとに戻した話があるなら別の話になってくるかな」
「なに?!詳しく教えてくれないか!」
エルネの両肩を揺さぶり、必死に訴える。
英雄鍛造から元に戻れれば、能力はないけれど寿命の問題は解決できるかもしれない。
その事で一瞬にして鬼一の頭の中は埋め尽くされた。
「わっわぁ、待てって落ち着けって。そもそも、その神話自体がもう覚えている人間はここにはいない。元の北方諸島にはあるかもしれないけれど」
「肝心の北方諸島は、今は魔王軍に占拠されている、か」
ようやく落ち着いたのか座る鬼一。
「まぁ、そうなるね。いずれにせよあなたはなるべく早く北方に行って魔王を倒せば、元の体に戻れる可能性はあるわ」
そして、と付け加えるエルネ。
「あなたを狙う人間たちからも逃げおおせる事も叶うかもね」
「待ってくれ、どういうことなんだ」
そう尋ねる鬼一に呆れたようにエルネが言う。
「あなたの能力、神の右腕だっけ聞いた限りじゃ能力がある限りほぼ不死身。でもそれを狙う勢力もいるって事よ。よく分からない暗殺者集団に襲われたってのもそれね」
「なんでそうなるんだ」
「それを欲する人間がいるからよ。ここら辺じゃ、自然に能力を持った人間が急に消えたりもするもの有名よ。強奪のダガンと言う人物の名前がちらほら挙がっているわね」
「強奪のダガン?」
杯をあおり、エルネは続ける。
「いわば能力者の能力を奪う能力者ってとこかしら」




