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第二十五話【海辺の町】

 結局鉄さんを待つことにした。


 だんだんと距離が迫って来る。

 ‥‥‥っておい、鉄の剣を引きずりながら近づいて来ているんだけど。

 もしかして、殺す気じゃないよな?

 うん、ニヤニヤと笑っているから嬉しいんだよな?

 そうだよな?


 やがて二、三メートル辺りまで来ると、鉄さんは笑ったまま口を開く。


「ねぇ、五月雨君?」


 よし、ここはあくまで平常心でいこう。

 俺は無言のまま鉄さんの言葉を待つ。


「あの人だかりの中、どうして私一人を置いていったのかな?」


 いや、怖っ。


 ‥‥‥あー、良い事思いついたかも。

 NPCのふりをしていればなんとかなるんじゃないか?

 そう思い試してみる。


「静かな村へようこそ」

「どうして私1人を犠牲にしようとしたのかな?」


 いや、犠牲にしてやろうという気は全くなかったです。

 ただ単に存在を忘れていただけなんだよ。


「静かな村へようこそ」

「どうして雪奈さんだけをおんぶしたのかな?」


 いや、1人しか出来ねーだろ。

 てか、鉄さんは絶対重たいから持ち上がらない可能性がある。

 そうなったらどうせ怒るだろ。

 あと、金属装備でゴリゴリの子をおんぶするくらいなら、片目の出ている可愛いあめをしたい。

 体重が3キロで楽だしな。


「静かな村へようこそ」

「あれ? 五月雨君かと思ってたけど‥‥‥NPCの人だったんだ」


 おぉ、やっと気づいてくれたか。

 そう、俺は冒険者を迎え入れる村人Aだ。


「静かな村へようこそ」

「でさ、雪菜さん、この人ってNPCで合っているよね?」

「‥‥‥いや」


 鉄さんはあめの言葉を最後まで聞かないまま笑って呟く。


「そっか、じゃあどこかに行こ? 五月雨君は大方もうログアウトでもして逃げたんでしょう」


 よし、良いぞ。


「静かな村へようこそ」


 鉄さんは後ろを振り向き、歩き出す。


 やった、なんとかなったぜ。


「なんちゃって」

「え?」


 ブンッッ


 歩き出した直後、勢いに任せて、持っていた鉄の剣を振りながら後ろを振り向き、薙ぎ払って来た。


 ドスッッ!!!


「ひでぶっ!!」


 胸筋に鉄の剣の腹が直撃し、俺は見事に吹き飛んでいく。


 今まで一度もダメージを受けた事のない俺が、全く避けられそうになかった。

 油断をしていたと言うのもあるだろうが、物凄い力強さだったぞ。

 やっぱりスポーツ万能の力は伊達じゃないな。

 動きに全く無駄が感じられなかったぜ。


 ドサッッッ


 結構な距離を飛んでいった後、地面に落下した。


 体が地面に擦れたせいで、少量の砂ぼこりが舞う。

 勿論痛みやダメージは無いのだが、普通にびっくりしたわ。

 あんなの心臓に悪いわ。


 俺はとりあえず立ち上がると、付着した砂を払いながら二人のいる門の辺りへ戻る。


 あーあ、またたくさんの注目を集めてしまったな。

 色んな人達が観てきてるじゃん。

 俺、格好悪いやられ方をしたからめちゃくちゃ恥ずかしいわ。


「おい、流石にやりすぎだろ! 肺の動きが止まるかと思ったわ!」

「あら、HPって減らないのね」


 はぁ?


「なぁ、それ‥‥‥分かっててやったんだよな?」

「いえ、プレイヤー同士でも与えられるのかと思ってたわ」


 殺す気だったのかよ。


「死んだらどうするつもりだったんだよ!? このぼうりょくろがね野郎」

「うるさいわね‥‥‥って暴力ってどういう事よ!」

「今の状況からして分かるだろ! ただの暴力女じゃねーかよ」

「よし、次は現実でやってやるわ」

「はい、大変失礼致しました」


 命の危険を感じたわ。

 俺が素直に謝ると、鉄さんは笑いながら呟く。


「うん、ストレス解消になったし丁度良かったわ」


 おい、なんだその感想。夜にベッドで襲うぞ、この巨乳東京タワー野郎! って言おうかと思ったけど、やっぱりやめとこう。

 多分、明日学校で俺の死体が発見される事になりそうだ。



======


 『速報です。只今、〇〇県立○○高校で、殺人事件が起こった様との事で、詳しい事情はまだ分からないのですが、警察の話によるとこれから容疑者らしき女子生徒に話を聞いていく模様です』


======


 普通に嫌だろ?

 ‥‥‥少なくとも俺は嫌だね。


 その後俺達は、少し話し合った結果、この村を出て次の場所へ向かう事にした。


 冒険者ギルドのクエストも難易度C以上のものが無かったし、滞在する理由が無い。

 正直ここ、飽きた。

 クエストの報酬も、製作者の悪意を感じるしな。

 そう、おかしいのがあの毒消しのやつだけだと思ったら大間違いなんだな。


 例えば、回復用のポーションを買って持って行ったら、その二倍のゴールドを貰えたり。


 アイテム屋に売っているバナナを渡せば、家でたくさん栽培しているという高級バナナを貰えたり。


 売っている塩を渡せば、焼き塩を貰えたり。


 ‥‥‥塩のやつは、する意味が感じられんわ。

 地味なんじゃ!

 くせが凄い!


 おい、バナナを頼んだやつ!

 高級なのを食えよ!

 普通のやつが食いたいなら、自分でアイテム屋に交換して貰いに行けばよかろう。

 なんでわざわざ冒険者を雇うんなら。


 回復ポーションを頼んだやつ!

 その金で二つ買えよ!


 とまあそんな感じなので、やる気にならない。

 楽してお金を稼ぎ、お酒を飲みたい方々が集まるのもなんか分かるわ。


 運営さんよ。

 一つ言わせてくれ。


 近いうちに修正しとけ。

 いずれヤクザやお酒好きが集まりすぎて、ガラが悪くなるぞ。


 俺達は、鉄さんの元仲間から譲り受けたお金で、適当にアイテムを買いそろえると、塔の方向の門から村の外に出て、歩き始める。


 因みに鉄さんは、俺達のアイテムの所持率を見てかなり驚いていた。

 逆に俺とあめも、こんなに買うの? って感じで驚いたわ。

 今現在、鉄さんが大きめの袋を鎧に提げているのだが、中にはたくさんのポーションが入っている。

 絶対いらんだろ。


「あのさ」


 しばらく魔物が比較的少ない草原を、かなり遅めの速度で歩いていると、鉄さんが呟いた。


「どうした?」

「いや、いつもそうやっているの?」

「え? おんぶの事?」


 俺が聞いてみると、鉄さんは頷く。


「そうよ、他のプレイヤーもいるのに恥ずかしくないの?」

「‥‥‥私はちょっと恥ずかしい」

「俺は別に気にならないな。今は歩いているけど、普段は少しだけ速めの速度で走っているから、あまりじっくりと見られる事が無いしな」

「それはそうかもしれないけどさ、雪奈さんも恥ずかしいって言ってるし、一緒にいる私も若干恥ずかしいから、普通にしなさいよ」

「いや、あめは口ではそう言うけど、本当は楽だし、嬉しいと思っているぞ?」

「‥‥‥え? いや」


 そう言うと、鉄さんの顔が強張った。


「何を根拠にそんな事が言えるのよ」

「だって本当に嫌だったら、無理矢理にでも降りるだろ。それに、同じクラスメイトにそんな事言われて恥ずかしくないって言う奴、そういないだろ」


 好きな人いるの? って聞かれて、いないと答えるのは、日本人の習慣だ。


「まあ、確かにね。雪奈さん、変な事言っちゃってごめんね」

「‥‥‥ち、違うから。‥‥‥ひろとくんが勝手に言っているだけ」

「そうか、でも俺は降ろさないぜ? だってあめに死なれたら悲しいからな」

「なんで、降りる=死。みたいになってんの?」

「そりゃー、あめは敏捷が1しかないからな。魔物の攻撃を避けられないだろ。つまりそんな子を地面に降ろすというのは無理だ」


 小さいサーバーにいた、ゴブリンからですら逃げれていなかったしな。


「あのー、私も敏捷1なんだけど」

「鉄さんは大丈夫だろ! 名前の通り鉄の女って感じだし、HPも多いからな」

「は?」


 俺が笑いながら呟くと、鉄さんは目を細くしてこちらを睨んできた。

 かなり怖い。 


「あ、ごめん。口が滑った」


 あまりの圧に、俺はすぐ謝ってしまった。


「‥‥‥ひろとくん、その余計な事を言う癖って治せないの?」

「雪奈さんの言う通りよ。少しは気を付けなさい。次いらない事を言ったら学校で締め上げるわよ?」

「あー、それについてなんだが、一つ良いか?」

「なに?」

「学校でそんな事したら、鉄さんがゲームオタクと関わっているって思われない? 俺は別に構わんけどさ、鉄さんが面倒くさくなると思うぜ?」

「確かにそうね。じゃあ学校から少し離れた所にしておくわ」

「そういう問題じゃねぇよ! どんな所でも絶対誰かしらが見てるって良く言うだろ?」

「じゃあ‥‥‥って、あー、あんたに口で勝てないのがイラつくわ。なんでそんなに頭の回転が速いのよ!?」


 鉄さんは周りの魔物を警戒しながらも、不機嫌そうな顔する。

 しょうがないから、どうすれば頭が良くなるか教えてやるか。

 俺独自の訓練方法をな。


「良い特訓方法があるぜ?」

「参考までに聞こうかしら」

「どんな些細な事でも、それについて頭の中でツッコミを入れるんだよ。そしたら、いつか一度ツッコんだ事のある状況に遭遇する事があるから、必然的に口が回る様になる」

「やっぱり良いわ。‥‥‥その考え、明らかに普通じゃ無いもの」

「いや、普通だと思うぞ。なあ、あめ?」


 俺は背中にいるあめに共感を求める。

 なんか分かってくれそう。


「‥‥‥少なくとも私には出来ない。‥‥‥物事を素直に認める癖がついてるから」


 WHAT?


「おいおい、それって俺がひねくれているという事かね?」

「‥‥‥簡単に言うとそう」

「あめさんや」

「‥‥‥ん?」

「明日、覚悟しとけよ?」

「‥‥‥どういう事?」


 どうなるか分かっているのかね?


「絶対あれを付けて授業に出てもらうからな」

「‥‥‥でも、みんなに変な目で見られそう」

「大丈夫だろ。あれを装着しているあめをみたら、男子の諸君が喜ぶかもよ? あめって結構人気だしな」

「‥‥‥多分一時間も、耐えられない」

「いや、それで行って貰う」

「‥‥‥ん。‥‥‥ま、まあ良いよ」

「は? イってもらうって‥‥‥ちょっと、五月雨君! 何言っているのよ!?」


 突然横を歩いていた鉄さんが、顔をかぶの様に赤くして睨んで来ながら言った。


「何言ってるのって‥‥‥言葉だが?」

「そんなの知っているわよ! 雪奈さんに何をさせようとしているのって聞いているの!」

「なんでそんな必死なんだ?」

「当たり前よ! 大体、同じクラスメイトにそんな事をさせようとするなんて、デリカシーが無さ過ぎるわ! 雪奈さんも嫌ならはっきり言えば良いんだからね?」


 デリカシーが無い?

 何言ってんだ?


「‥‥‥私は別に良いけど。‥‥‥多分恥ずかしいのは最初の二、三日だけだと思うし」

「ねぇ五月雨君。まさか恐怖支配でもしてる? じゃないと真面目で静かな雪奈さんがそんな事するなんて言わないでしょ」

「なあ、さっきから何言ってんだ?」

「何って、雪奈さんに電動の装置を付けるのはおかしいって言ってんの!」

「電動? いや、ヘアピンの話をしてたんだけど‥‥‥だよな、あめ?」

「‥‥‥ん、ひろとくんは片目だけを出している子が良いみたいだし、‥‥‥そのくらいなら‥‥‥えーっとやっても良いかなって」


 俺達の会話を聞いた鉄さんは、顔をルビーの様に赤くして、「あ、やっぱりそうよね! ごめん、何でもない」と言って無言で歩き進めて行く。


 そんな姿を見た俺とあめは、お互い目を合わせると、首を傾げた。


 あめは鉄さんの勘違いに気付いていない様だ。

 俺も気付いていない風に接したが、実は気付いてます。

 なぁ、鉄さんや。

 大人の玩具だと思ったんだろう?

 そうだろう?

 わしの目を誤魔化せると思うなよ?

 正直に言いたまえ。


 その後、索敵のスキルを使って敵に気を付けながらも、進んで行った。


 なんか俺とあめだけで、木野郎やとげとげの芋虫を倒して行っているので、鉄さんの出番が全然無い。

 経験値を奪われている感がある。

 まあ俺は別に構わんがな。


「あ、町が見えて来たぞ!」


 黄色の塔よりも更に向こうへと歩いていった辺りで、俺がそう言った。

 ここはまだ草原だが、もう少し進むと砂浜になる。

 そしてその先には海があり、とても綺麗だ。

 という事は、あそこに見えている、小さめの町には港とかがあるのだろう。

 海辺の町に船があるって言うのは、相場だからな。


「‥‥‥ほんとだ。‥‥‥綺麗な海だね」

「ええ、そうね。少しだけ潮の香りもするし、凄いわ」


 やっぱりゲームだとは思えん。

 ここって絶対、異世界とかだろ。


 砂浜には蟹みたいなやつや、浮いているクラゲ、大きめのヤドカリが生息している。

 そのどれもにHPバーとMPバーがあるので、魔物という事だろう。


「よし、新しい所だ、気を引き締めて行こう」

「‥‥‥ん」

「ひろとくんが一番死ぬ確率があるんだから、気を付けてよ?」

「勿論さぁ~」

「‥‥‥」

「‥‥‥」


 俺達はそう会話をすると、砂浜に足を踏み入れた。

 数人のプレイヤーが海岸の近くで魔物と戦っているので、大体行動パターンが分かる。


 蟹はかなりの速度でプレイヤーで近づき、ハサミで攻撃。

 クラゲは触手が結構伸びるらしい、当たるとどうなるのかは分からん。

 ヤドカリは、見た感じ殻に閉じこもっているだけなんだが、絶対何かあるだろう。


 とまあそんな感じか。

 戦ってみたい気持ちもあるが、とりあえず町に入る。

 レベル上げは、色々と落ち着いてからの方が集中できそうだしな。




 海岸の町。




 始まりの街から森と山を越え、中間の静かな村を抜け、更に草原を歩いた所にある海沿いの町だ。

 空にはカモメの様な鳥が飛んでいて、門を通ると、そこは立派な港の風景が広がる。


 俺達は魔物の攻撃を避けながらも、砂浜を移動していき、やがてこの町に到着したのだ。

 おんぶ戦法の俺とあめは、一度もダメージを受けていないのだが、鉄さんはほぼ全部食らっていた。

 どうやら当たる事前提らしく、盾を構えて歩いていたのだ。

 そのお陰か、ほんの少ししかHPバーが減っていない。


「‥‥‥すごい」


 門をくぐり、左右にコンクリートの家が並んでいるアスファルトの道を歩きながら、ふとあめが呟いた。


 周りには大量のプレイヤーがいて、屋台で買い物をしている人や会話を楽しんでいる人達で溢れかえっている。

 どうやらこの町はあまり大きさが無いらしく、結構な人口密度だ。


「本当に凄いな。所々に樽やツボが置かれているのがまた良い」

「あー、それ分かる! あそこの蓋がされていないツボとか、思わず割りたくなるわ」


 鉄さんが俺の言葉に相槌を打ちながらもそう言った。


「なあ、やっぱりゲーム好きだって認めた方が良くないか?」

「うるさいわね。私は普通の女子高生よ!」

「分かった分かった」


 やっぱり認めないスタイルらしい。

 ツボが割りたいとか、絶対ドラク〇のやりすぎだろ。

 その時点でゲームが好きなんだな~って判断出来るけど、本人はそれを認めない。


「‥‥‥まずどうする?」

「う~ん、装備品を見に行くって言うのも良いけど、まずは泊まる所をキープしておかないとな。他の冒険者に宿屋を取られたら、回復手段が、店売りのポーションしか無くなるし」

「そうね。じゃあ宿屋っぽいのをさがしましょ」

「‥‥‥ん」


 俺達はそう会話をし、大通りから曲がり角を右に行き、建物の間にある少し広めの道を歩いて、泊まれそうな所を探した。


 見た感じ、この町には鉄系の鎧を着用しているプレイヤーが多い。

 また、布の服が綺麗になったバージョンみたいな服を着ている人が数人いる事からして、この町には金属系の防具は売られていないのだろう。

 俺もそろそろ新しい服が欲しいわ。

 流石に初期装備の布の服は恥ずかしくなってきた。


 そんな事を考えながらしばらく歩いていくと、右側にベッドの絵が描かれているコンクリートの家があった。

 壊れてある壁とかを布で補修してある様でかなり汚い。

 ベッドの絵が描かれているので、ここが泊まる所なのだろう。


「‥‥‥なんか汚いね」

「そうね」

「とりあえず入ってみようぜ」


 俺達は、扉の無いコンクリートの建物の中に入って行く。


 中に入ってすぐの所に受付のカウンターがあり、そこには、頭にタオルを巻いていて、顎鬚がもじゃもじゃの男性NPCがいた。

 見るからにお酒が好きそうだ。


「すみません。今日の部屋を借りたいんですけど、まだ空きがありますか?」


 俺は店員の目の前まで行くとそう質問した。

 するとの店員さんが少し申し訳なさそうな表情をして答える。


「ああ、あるにはあるんだが、後一つしか空いてないんだ。大丈夫かい?」


 マジかー、一つしか無いって、良い感じの展開じゃねぇか。


「みんな、どうする? 俺は別に構わんが」

「えっー、五月雨君と一緒の部屋って‥‥‥嫌な予感しかしないわね」


 鉄さんが眉間にしわを寄せて呟いた。


「おい、何だよ。その嫌な予感って」

「いや、なんかやらしい事されそうだもの」

「しねぇよ! する理由が感じられんわ」

「それはどうかしら。教室で男子達が、私の事をそんな感じの目線で見ているのは気付いているんだから」


 まあ、そりゃー見るだろうな。

 クラスで一番の美少女って言われているし。


「言っとくが、俺はそんな目で見た事ないぞ?」

「嘘をつきなさい」

「はい、鉄さんの事が好きです!」

「‥‥‥えっ!?」

「は? 何よ、いきなり!?」


 俺が無表情でそう言うと、二人が驚きの顔を浮かべた。


 あめも目を大きく見開いている。

 小さく口を開けて、こちらを見つめて来ているのだ。


 鉄さんも、信じられないと言った顔を向けて来てやがる。


 二人ともどうしたんだろう。

 そんなに驚く事でも無いのに。


「これで良いか?」

「‥‥‥?」

「いや、言っている意味が分からないんだけど」


 俺がそう聞くと、二人は同時に首を傾げる。

 

「ん? 嘘をつきなさいって言われたから、嘘をついたんだが?」


 自分で命令しておいて、何を言っているのだね?


「‥‥‥あ」

「あ、そういう事だったの‥‥‥って! 紛らわしい事しないでよ!?」


 鉄さんは納得した顔をしながらも、すぐに不機嫌そうな表情をした。


「よし、じゃあそういう事だから、部屋を一つ借りるか」


 俺は二人の反応を遮る様にして言った。


「ちょっと待ちなさいよ! あんたどっからその言葉が出てきたのよ?」

「勿論、鉄さんの反応から」

「は?」

「だって俺に好きって言われた時、あんまり嫌そうな顔して無かっただろ?」

「そ、そ、それは、いきなりでビックリしたからよ! あんな事急に言われたら、誰も反応なんて出来ないでしょ!?」

「あー、確かに。じゃあ申し訳無いけど、鉄さんはポーションでも良い?」

「はい? 私だけ? ‥‥‥えっじゃあ、雪菜さんはどうするの?」

「あめは、俺と同じでも大丈夫だよな?」


 俺はあめの方を向いて質問した。


「‥‥‥でも、この前のお泊り会‥‥‥結構恥ずかしかったから‥‥‥別のベッドなら良いよ?」

「そっか。まあベッドが一つでも最悪俺が床で寝れば良いから大丈夫だな」

「‥‥‥ん」

「よし、じゃあおっちゃん! 部屋を一つ」


 俺は受付のNPCに視線を向けると、そう言った。


「おう、毎度。これが25号室の鍵になるぜ。返却は明日の午前十一時までに頼むぜ」

「了解です! ‥‥‥あめ、早速荷物を置きに行こっか」


 ゴールドを払い、鍵を受け取って振り向くと呟く。


「‥‥‥分かった。‥‥‥けど鉄さんは?」

「ん? ポーションだよな?」

「なんでよ!?」


 えっ?


「なんでよって‥‥‥さっき同じ部屋が嫌だって言ってたじゃん」

「そ、それはそうだけど‥‥‥う、うん。五月雨くんが床で寝るなら良いわよ」

「俺が床で寝るのは確定事項なのかよ」

「そうよ! ベッドが三つあっても床ね」

「いやいや、おかしいだろ」

「雪奈さん、じゃあ行きましょ」

「‥‥‥うん」


 そう会話をし、鉄さんは俺から鍵を取ると、あめと一緒に階段の方へと歩いていく。


「おーい」


 俺の小さい叫びはむなしくこの部屋を響いていく。

 数人のプレイヤーがこちらを見て来ていて、恥ずかしかったので、俺は無言で二人の後を追う。

読んでくださりありがとうございます。

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