第二十一話【静かな村】
第三章の始まりです!
俺とあめがお泊り会をしてから、仮想世界でいう二か月と少し‥‥‥正確には七十日が経った。
うん、現実世界の時間で表すと、一週間。
俺達は【デスティア・オンライン】を仲良く攻略して行き、始まりの街を出てしばらく行った所にある怪しい森を、特に死にかけること無く抜け、やたら魔物の多い山を越え、次の村へと到着した。
名前は【静かな村】というらしく、えらい普通だ。
ここはかなりの田舎で、建物も少ない。
どうやら装備等は一切売られていない様で、アイテム屋しかない。
だが、どうやら冒険者ギルドが存在しているらしく、クエストを受ける事が出来るらしい。
まだこの村に着いたばかりの為行った事が無いので、どんな所かはしらんが。
因みに今現在、レベルはどちらも25となりました。
赤い閃光の二人組に比べたらかなり遅いだろうが、そこそこ増えていると思う。
で、気付いたんだけどさ、あの二人って異常じゃね?
このゲームが発売されて四日でレベル27だったんだぜ?
暇人なのかね?
あのいかつい容姿でニートなのかね?
俺達のそのレベルに関しては、怪しい森の中で適当に魔物を狩っては、始まりの街に戻って回復をするというのをしばらく繰り返していたら、そのくらいになっていたのだ。
俺の場合は、敏捷がかなりずば抜けているらしく、移動もそんなにかからない。
てか、この前の長距離走大会で、攻略組の赤い閃光ことギルツさんを破ったせいか、かなり有名になってしまった。
街中を歩くだけで、「あ、地味男じゃん」とかって数人のプレイヤーに言われる。
やめてくれんかね?
あと、あのお泊り会をした次の日くらいから、微妙にあめからの目線が変わった様な気がする。
今まではどちらかと言うと友達みたいに思ってくれていたみたいなんだけど、今はちょっと違う?
例えば、おんぶをして魔物を狩っている時に、興味本位でお尻を少しだけ揉んでみると、「‥‥‥んん」と言う声だけを発し、今までの様に冷たい視線を一切向けてこなかった。
どうしてだよ!
張り合いが無さ過ぎて、逆にそういう事、したく無くなるわ。
例えば、始まりの街でとあるレストランにて、食事をしている時に、冗談で「あめのハンバーグも食べてみたいから、そのフォークで食べさせてくれない?」って言ってみたら、本当に俺の口まで持ってきてくれたりとか。
何でだよ!
そのフォークに俺の唾液が付いても良いのか?
少し前だったら絶対「‥‥‥いや」とか言って断っていたはずだ。
‥‥‥え?
そのハンバーグ食べたのかって?
食べたわ。
あめの唾液が付いたフォークで頂いたわ。
‥‥‥味はどうだったかって?
美味しかったわ。
自分で食べるより数倍美味しく感じたわ。
まあ、間接キスの味が、甘くて、絶品に思えたんだろうな。
‥‥‥って言わせんなよ!
おい、引かないでくれよ?
今のは言葉の綾だからな?
よし、次行こう。
切り替え大事!
例えば、現実の学校で、一緒にお弁当を食べている時、冗談で「あーん、してくれない?」って言ってみたら、周りに人がいないのを確認したのち、卵焼きを食べさせてくれた。
何でだよ!
現実でも、箸に俺の唾液が付いて良いのかよ?
‥‥‥味はどうだったかって?
うるせぇ!
あー、あとさ、やっと学校の先生が、授業中に俺が起きていると事実を認めてくれだした。
遅くねぇか?
やっと、授業プリントが貰えるようになったんだけど‥‥‥遅すぎやしねぇか?
まあ、この一週間の出来事をすべて語って行ったら、確実に尺が足りなくなるので、ほとんど省略するぜ?
簡単に言うと、この一週間で、俺達は次の村に着いた。
そしてあめの俺に対する視線や、態度がちぃとばかし変わった。
うん、そんだけだ。
太陽とか健二のくだりは一切必要無いだろ。
他のプレイヤー達から、数回パーティーに勧誘され、そのたびに断ったっていう話もいらんだろ。
よし、じゃあ俺のバランスが良すぎるステータスをお見せしようか。
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Name ひろってぃー 男
Lv 25
称号 風
H P 10/10
M P 10/10
攻 撃 10
防 御 10
魔 攻 10
魔 防 10
敏 捷 46290
スキル 【敏捷適性(小)】【敏捷適正(中)】【加速】【敏捷適正(大)】【緊急回避】【索敵(大)】【敏捷適正(超)】【超加速】【空中移動(Ⅲ)】【敏捷適正(極)】【極加速】【影分身】【神隠し】【回避(小)】
残りステータスポイント 0
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ふっ、スキルががっせぇ増えとるやろ?
てか、バランス良くステータスを振っているはずなのに、敏捷がこじゃんと高いがな。
ごっつ不思議やわ。
称号に限っては、もう風って表示されているからな。
でスキルの事に関して一つ言っておきたい事があります。
俺、MPが低すぎて、加速系と、空中移動と、索敵以外使えません。
覚えとる意味ねぇ。
加速はそれぞれ、ノーマルが最大HPとMPを五割消費。
超が七割消費。
極が九割消費。
そして空中移動は何も消費せず、横に表示されている数字の分だけ連続で空中ジャンプが出来る。
索敵も同じで、何も消費しない。
この索敵が案外役に立つんだな。
だってある程度なら魔物の居場所が分かるから、死亡率が格段に減ると思う。
あと、回避(小)についてなんだが、敏捷適正(極)よりも遅く覚えている事からして、かなり良い効果なんじゃないのか?
例えば、魔物の攻撃が当たった場合の判定を、一定確率で無効にするとか。
だとしたら嬉しいな。
で、今現在だが、俺とあめはどこで何をしているでしょうか?
1.現実世界の俺の家で、大人の遊びをしている。
2.現実世界の俺のベッドの上で、再び見つめ合っている。
3.仮想世界のホテルで、同じ部屋に泊まっている。
4.仮想世界の新しい場所、静かな村で、冒険者ギルドを目指して村の中を歩いて行っている。
正解はーー。
一番! と思わせて、三番!
と見せかけての四番、静かな村にて、冒険者ギルドを探して歩いています。
丁度到着した所なので、全然方向やらを把握出来てない。
やっと始まりの街の仕組みをほとんど覚えて来たばかりだってのに、この世界のものはとにかく広すぎるんだよ。
さっき怪しい感じの森を抜けて、ここに着いたんだけど、とにかく大きい。
一応道が用意されていたので道に迷う事は無かったが、長い!
距離が異常なんだよ!
他のプレイヤーさん曰く、二人でそういった所を攻略して行くのは無謀な事らしい。
基本は四~五人でパーティーを組み、それぞれ大きめの袋を持ち、アイテムも大量に用意しておく。
そして回復役も必須みたいだ。
因みに回復魔法なんだけど、どうやらステータスの上昇では覚えられないシステムとなっていて、始まりの街にもあった教会で訓練を受ける事によって習得する事が出来る。
ただ、訓練をすれば誰でも覚えられる訳では無い。
そう、MPと魔法防御の数値により、覚えられるサイズが変わるのだ。
今のあめは、【回復魔法(大)】まで覚える事が出来ている。
で、俺がどこまで習得していると思うかね?
ふっ、聞いて驚くなよ?
覚えられる訳ねぇだろ、馬鹿野郎!
俺のMPは10だ、馬鹿野郎!
魔法防御も10だ、馬鹿野郎!
一度、あめと一緒に教会へ行ったのだが、あのNPC神官野郎だけは「あなたにはまだ覚える資格がありません。出直しなさい」とかぬかしやがった。
ふざけてんのか? 馬鹿野郎!
そのせいで数人のプレイヤーに笑われて、恥かいたんだぞ? 馬鹿野郎!
まあそんな訳で、俺は回復魔法を諦め、あめに任せる事にした。
つまり俺の役割は走る事。
うん、それだけ。
これ以上でも無いし、これ以下でも無い。
だが嘗めて貰っては困る。
実は俺、最近本気で走れてないんだよ。
草原とかなら、全力で走っても良いんだけど、その他のごちゃごちゃした場所だと、自分を制御出来ない。
森の場合、全力どころか五割程度の速度で衝突しそうになる。
という事はだ、もし仮に空中移動を自由自在に操り、自分自身を制御する事が出来たら、最前線でも余裕でやっていけるだろう。
レベル11の時点で攻略組の一人であるギルツさんに、スピードで勝っているしな。
勿論あれから一週間経った今、彼らも更に早くなっているだろうが、敏捷に関しては俺の方が格段に増えているはずだ。
いやー、にしてもここは平和な所だな~。
見た感じ、始まりの街とは違い争い事が一切無い。
向こうはそういう、プレイヤー同士の喧嘩や、痴漢被害、スリ等が少なからず起こっていた。
勿論、犯罪行為を犯したプレイヤーにはそれなりのデメリットがあり、罰金、レベルの減少、要注意人物として現実世界にも画像が公開される。
今の所、俺とあめはそういった被害にはあっておらず、運が良いのだろう。
‥‥‥いや、女性プレイヤーに触られたいとか思ってないからな?
信じてくれよ?
「‥‥‥あ、冒険者ギルドって、あれかな?」
木の家や田んぼの間にあるアスファルトの道を歩いていると、隣で歩いているあめが指を差しながら言った。
その方向を見てみると、うん、そんな感じの雰囲気の建物がある。
ボロボロの木で出来ており、至る所に傷やクモの巣が再現されている。
扉の無い入口の上には盾に剣を刺している感じの絵が描かれていて、ガラが悪い。
俺はそんな建物を見ながら答える。
「これっぽいな」
「‥‥‥なんか、怖い」
「だな。明らかに裏の連中が集まりそうな所だ」
「‥‥‥入ってみる?」
「勿論!」
俺達はそう会話した後、入り口を通り、ギルド? の中に入って行った。
すると、たくさんのプレイヤーの視線がこちらに集まる。
ほとんどの人が金属の装備をしていて顔のいかつい人が多く、ちぃとばかし怖い。
どうやら現実世界の方でもガラの悪いであろう方々がお酒を飲んだりして会話を楽しんでいる様だ。
うん、ゲームの中で集まるなよ!
純粋にゲームを楽しんでいる俺達からしたら邪魔だわ。
少し中を見渡すと、カウンターにHPバーの無いNPCが立っている。
そのNPCもスキンヘッドで、ちぃとばかしいかつい。
おい、何でNPCまでいかつくするんだよ。
真面目で、不良に絡まれたりでもしたらおしっこがちびてすぐに逃げてしまう様な俺からしたら、絶対来れない所じゃねぇか。
そのNPCのマスターの横には掲示板があり、いくつかの紙が貼ってある。
「おぉ、新しいプレイヤーじゃん」
「ぷっ! おいおい、男の方‥‥‥初期装備じゃねぇか」
「あ、ほんまや。よくここにたどり着けたな」
「あの女の方、前髪が邪魔くさいけど、結構可愛いな」
「俺の彼女にしちゃおうかな~」
下品な声と会話が聞こえてくるが、無視して掲示板へ向かう。
多分相手にしてたらそうとう面倒くさいからな。
ふと横にいるあめを見てみると、おびえた様な表情で下を向いていた。
そりゃー、怖いわな。
「あめ、気にしなくて良いからな?」
俺は少し微笑みながらそう言った。
「‥‥‥ん」
あめは若干嬉しそうな顔をして呟いたが、まだ怖そうだ。
なるべく早くクエストを探して、ここからササッと離れるか。
俺自身も居心地が悪いし。
そんな事を考えながら、張り紙を確認していく。
【息子が毒にやられて大変です】
難易度・F
・どうやらうちの息子は、変な草を食べてしまったせいで毒にかかったみたいなんです。
どなたか、毒消しポーションを使って治して戴けませんか?
場所・静かな村のヘーデル家
報酬・700G
「あ、この毒消しのやつ、楽そうだな」
「‥‥‥今、毒消しは持っていないけど、この村の入口辺りにあるアイテム屋で売ってたと思う」
「そっか。じゃあ引き受けよっか」
という事で、俺達は張り紙を持って行くと、マスターの所へ見せに行き、クエスト中となった。
そして屋外にあるアイテム屋に行き毒消しポーションを300Gで購入すると、村の中心辺りの看板に書かれていた地図を頼りにヘーデル家へと向かう。
で、その家に到着し、ベッドで寝ているNPCの子供に毒消しポーションを使って治してあげ、ギルドのマスターに報告する事によって無事に報酬の700Gを得る事が出来た。
‥‥‥俺、不思議でしょうがないんだけどさ。
何故報酬が700Gなんだ?
おーーん?
いや、その金で毒消しポーション‥‥‥買えよ!
だって普通に計算してみろよ。
700G-300G=400G
400Gのお釣りがくるじゃねぇか。
普通この手の報酬って、貧乏な設定のNPCがせめて思いだけでもと、何か手作りの装飾品とかをくれるものだろ?
なんだこのクエスト!?
店売りのアイテムで、毒に苦しんでいるNPCを助け、その後お釣りがくるであろう分の400Gを貰える。
これを作ったプログラマー、かなり性格が悪いぞ!
あめもそれが気に食わないみたいで、少し不機嫌そうにしていた。
俺もだよ?
ひろくん、激オコなうだよ!
「という事で、次のクエストに行こうか!」
俺は冒険者ギルドの掲示板の前で、切り替えるようにして呟いた。
あめは「‥‥‥うん」と頷く。
【塔の秘宝】
難易度・C
この村には、昔からとある言い伝えがあるのです。
それは、近くにある誰が作ったのか分からない塔の頂上に、財宝が隠されているという事で、村人達で協力して上ろうとしました。
しかし、魔物が強くて、頂上どころか一階層すら攻略する事が出来ない。
なので冒険者のあなた方に、頂上にあるという財宝を取って来て貰いたいのです。
場所・村長の家。
報酬・その財宝。
秘宝を取って来てとお願いして、報酬がその秘宝‥‥‥。
‥‥‥ふっ、これほど美味しい話はないぜ。
勿論引き受けるしか無いだろ。
俺達は悪くない。
こんな条件を出している村のもんが悪いんだ。
秘宝をすべてくれるというのならありがたく貰おうじゃないか。
「あめ、これやってみる?」
俺がそう言うと、あめは報酬に納得していない様な表情をしているが「‥‥‥ん」と頷いた。
その光景を見たお酒を飲んでいる数人のプレイヤーが、「ガハハ初期装備で難易度Cのクエストは無理だろ」、「ありゃー死んだな」、「やっぱり適当に簡単なクエストをこなして、酒を飲むのが一番よ」、「ちげぇねぇ、ガハハ」等ほざいているが無視。
ここで最強の力を持った主人公が、あいつらをボコボコにしてスッキリするという展開にしたいが‥‥‥無理。
うん、俺が弱すぎるからな。
‥‥‥えっ、俺の攻撃力がいくらあるのかって?
仕方ないな、特別に教えてやるよ。
10だ、馬鹿野郎!
そこら辺の雑魚敵にダメージを与える事すら出来ねぇよ、馬鹿野郎!
そんなの今更だろ、馬鹿野郎!
その為、俺は無言でクエストを受けると、地図のある看板に向かって歩き出した。
「‥‥‥なんか、怖い場所だったね」
冒険者ギルドを出て、看板近くのアスファルトを歩いていると、横にいるあめがこちらを見て来ながら呟いた。
「そうだな。‥‥‥でもまあ全員頭が悪そうだし、気にしなくても良いだろ」
俺が親指を立ててウインクしながらそう言うと、あめは下を向いたまま「‥‥‥ん」と答えた。
そして村の中央辺りにある、看板で村全体を確認していく。
えぇーと、どこだ。
村長の家を必死に探していくが、広すぎて中々見つからない。
「‥‥‥あ、冒険者ギルドの横にある」
先に口を開いたのはあめだった。
そう言われて視線を向けると、確かにある。
「今歩いてきた距離‥‥‥無駄だったな」
ここの看板、まあまあ遠いんだからな。
これを作ったプログラマー‥‥‥かなり性格が悪いぞ。
「‥‥‥戻ろっか」
「おう」
という事で、俺達はギルドの横にあるという村長の家に向かって歩き始めた。
にしてもさ、やっぱりあめって他の人が話しかけてきたリ、近づいてきたら、すぐに怖がって俺の後ろの隠れりするんだよな。
さっきの冒険者ギルドの連中は確かに俺でも怖いけど、あめの場合学校でもだからな~。
普通に女子とかが話しかけて来ても、無言で本を読んでいるだけだし。
多分怖いんだと思う。
なんで俺だけはそうならないのか不思議だけどな。
だって、このゲームで初めてあめと出会った時、普通に向こうから話しかけて来てたよな?
しかもお姫様抱っこされた状態で。
それって普通にクラスメイトと喋るより、恥ずかしくて難しい状況だと思うんだが。
まあ良く言えば、他のイケメンに取られる心配は無い。
ある程度格好良い太陽とかが近寄っても、怖がっていたしな。
つまり、俺だけの女の子だぜ!
‥‥‥これって案外幸せかもな。
そんな事を考えながら、移動していくと、やがて村長の家へと到着した。
建物の見た目は‥‥‥うん、木。
THE、木。
普通の木の家。
他に例え様が無い。
そんなおうちに入っていく。
あ、ここで突然ですが、ひろってぃー講座第一を開きます。
この講座は、攻略組が無料で提供してくれて、誰でも知っている情報を、俺が誰かに向けて公開するという物です。
基本的な事とかを、教えて行くからね!
俺のうるさい思考回路が読めるどなたか、楽しみにしていてね。
で、村長の家だが、まず俺とあめのパーティーが入るとする。
するとそこは村長の家Aになる。
そこから別のプレイヤーが村長の家に入った場合、村長の家Bという形になるのだ。
つまり、同じパーティー以外のプレイヤー達とは同じ部屋に入る事は無い。
だが、武器屋や飲食店等は別で、全プレイヤー共通なのだ。
これにてひろってぃー講座第一を終了致します。
パチパチ!
俺達が村長の家Xに入り、村長っぽいおじいさんが座っている場所の近くに行くと、その人が口を開く。
「おぉ、客人さんか。良く来たのぉ~。ここに来たという事はお前さんらはギルドの依頼を引き受けてくれたんじゃろ?
‥‥‥で、早速本題に入るのじゃが、実はこの村には昔から言い伝えがあっての。どうやらこの村から出て少し北に歩いた所にある塔の頂上に、凄い財宝があると言うんじゃ。わしは一度で良いから見てみたいと思い、村中の若者を集めて上ろうとしたんじゃが、結局魔物がたくさん生息していて引き返す羽目になった。
冒険者ギルドで腕の立つ人に取って来て貰おうにも、わしらには渡せる報酬が無い。で、仕方なくその財宝を引き換えにする事にした。わしはどうしてもその財宝が見たくて、朝も眠れんのじゃ。という訳なんだが、わしらは財宝を見るだけで十分じゃから、取って来て貰えんかの?」
ふむふむ。
中々凝った設定じゃねぇか。
特にその大事であろう物を諦めてまで、自分の願望を叶えたい。
そう言った人間らしい感情が、リアルに作り込まれてやがる。
俺とあめはお互い目線を合わせると、無言で頷き合った。
そして俺が呟く。
「分かりました。俺達に任せて下さい」
という事で俺達は村長の村を後にし、村の外へと出た。
始まりの街方向から来たのとは反対の出口から草原に出ると、今まで森や山では見た事のない魔物が不規則に歩いている。
まるで始まりの街にある正門を出た時みたいに、広い草原だ。
今現在見た感じだと、高さ三メートルくらいの動いている木や、とげとげの芋虫の二種類がうろついている。
そして道の無い草原の向こうには、偉そうにそびえ立っている塔があった。
「あれか」
「‥‥‥ん」
俺とあめは一言ずつ交わすと、いつも通りおんぶをして、走り出した。
未知の場所。
強そうで、何をしてくるか分からない魔物。
一度でも戦闘不能になると死んでしまうこのゲームで、次は結構高い塔の攻略だ。
かなりのリスクがあるだろうが、俺は進む。
まだ見ぬ謎を求めて。
例えどんな困難が立ちはだかろうと、絶対に攻略してみせるぜ!
それが五月雨弘人の生き方だ!
俺はあめをおんぶし、謎の塔へと向かって進んで行った。
己の夢の為に‥‥‥。
─ おしまい ─
というのを一度やってみたかったんだよな!
ガハハ!
いやー、楽しいね~。
「‥‥‥ひろとくん、前!」
一人で楽しい考え事をしながら、走っていると、突然背中からそんな声が聞こえて来た。
俺は「ん?」と答えるのと同時に目の前に集中する。
すると、目の前に、恐ろしい木の化け物が待ち構えていた。
読んでくださりありがとうございます。




