0話 プロローグ
プロローグです。
私の名前は西宮 明日香。
28歳、独身、年齢=彼氏いない歴絶賛更新中の残念な女の子。え? もう女の「子」じゃない?
......うるさいわね、別にいいじゃない。
後はー......そうね、同人作家やってるわ。年に2回ある即売会目指して作品作ったりしてるの。それなりに人気もあるつもり。 ちょっとエッチなものも描いたりするけど私は処女ね。
自己紹介はこのくらいにして、今は仕事の夏休みをとって実家に帰省中なのだ。
「母さん! ちょっと買い物行ってくるねー」
薄手のワンピースを着て今晩の買い物に向かう。
実家の周りは一般的に言うと田舎だ。
でもそこまで辺境な地とかじゃないから、村、町、街で区分するとしたら町だろう。
川沿いを自転車で走る。
川の方では冷たい川の中で近所の子供たちが楽しそうに水浴びをしている。
あっ、見守ってるあの男の人結構イケメンじゃん。
しばらくして踏切を通ろうとしたら、遮断機が降り始めたので止まる。別に急ぎでもないので安全第一だ。
おや? お年寄りがまだ線路の半分くらいまでしか行けていない。嫌な予感がするな。
遮断機は無慈悲にも下ろされる。しかし、まだお年寄りは渡りきれてない。
パァァーー!!
電車が大きなクラクションを鳴らして迫る!
「危ない!」
私は自転車から降りて思いっきり走った。
遮断機を潜りお年寄りの手を引っ張りこちら側へ連れてくる。
なんとか助かった、と思ったのだが誰かに後ろから押された。
「え?」
押された衝撃で私は踏みとどまることが出来ずに線路に戻される。お年寄りと場所を交換したみたいだ。
押した人物を確認しようと後ろを振り向こうとしたが、横を向いた瞬間目の前に電車が来ていた。
あ、死んだわこれ。
世界がスローになる感覚。走馬灯ってやつだろうか?
28歳で死ぬのか。
あー、せめて親孝行をもう少ししてから死にたかったなぁ。
蜘蛛の巣女前に死ねたはいいのだろうか?
いや死んじゃダメだろ。あー、なんで私死ぬんだろう。
そして、私は意識を失った。
私は目が覚めた。
ん?
んん?
あれ? 私死んだよね? 死んだはずでしょ?
「やぁ、西宮 明日香さん」
声かけられ顔を上げると、そこには美少年がいた。
こんな子同人誌で描いたことあるなー。
「そうだよ、君が最後に描いてた作品の主人公さ」
「え?」
突然すぎて呆けた声が出てしまった。
「あははは! ごめんね、急すぎたね。僕はシュバルツ・フォン・アルデヒド。シュバルって気軽に呼んでね!」
「え、あ、西宮明日香です」
ついいつもの挨拶回りの感じで挨拶を返してしまった。この子何者? て言うかここどこだ?
「僕? 僕はねぇ、君達の知ってる言葉で表すなら、神。神様だよ! で、ここは転生の間ってとこかな」
は? 何言ってんのこの子。あー、電波か。関わっちゃいけないタイプなめんどくさい子だなぁ
「信じてない? でも、本当だからね。君はお年寄りを助けて電車にひかれて原型が分からないくらいぐちゃぐちゃになっちゃったよ?」
「うえっ」
まじかぁ、そこまで未練は無いんだけど28年間使った身体だったしなぁ。なんか残念だ。
「あれ? でも私の肉体、ここにあるよ?」
そうなのだ。今の私はちゃんと首も繋がってるし体も、手足も動く。
「それはね、魂だよ。試しに僕に触ってご覧よ」
「魂? なにそれ......ってあれ? 嘘でしょ......」
見事! スカッ、スカッと綺麗にすり抜ける。
「これでわかった? 僕が神様ってことと、君が死んだってこと」
「え、あ、はい」
なんとなくだがここは天国か地獄に逝ける時の分岐点的なとこだろうか?
「いやいや、だから転生の間って言ったじゃん」
「あれ? 今、心読んだ? それに、さっきから......」
さっきから心を読まれまくってる気がする。
私が何も言ってないのに答えたり。あれ? この子まじで神様じゃないの?
「そうだよ」
うっわぁ、めちゃくちゃニコニコしてる。
しかも私の作品の子だしなぁ。可愛いな。
「えへへ〜」
「それで、転生の間? って何するところなの? 教えて神様」
「その名の通りだよ。転生するの!」
「転生......?」
転生。知ってる、知っているも何もそう言うライトノベルは大好きだからね!
中2乙とかいい年こいてとかたくさん言われてきたけど好きなものは好きなのだ。
そして、転生。まさか自分の身にそんな大それたことが起こるなんて思わないじゃん! じゃあ魔法使えたりするのかな? うっわぁ、今から楽しみすぎる。
「転生者特典とかあるのかな?かな?」
「もっちろん! 君の望むもの何か一つを与えるよ」
うっひょー! これだよこれこれ。
どんなのがいいのかな。全てを手にすることの出来る力、とか?
あー、欲しい物たくさんで選べないなぁ。
「あ、言い忘れてたけど転生の間を開いていられる時間はあと10分くらいだから、気をつけてね」
「嘘やろ」
驚きすぎてついエセ関西弁が出てしまった。
10分! 何も考えられてないや。まずい、まずいぞ。
〜8分後〜
「ねぇ〜まだ〜?」
「も、もうすぐ思い付きそうだから!」
神様が急かしてくる
あ! 魔法だよ魔法!
異世界と言ったら魔法じゃん! 魔法使える能力がいいな!
「魔法」
「了解〜」
全部言い切る前に神様が手を叩いて合掌の様なポーズをとる。
そう言えば心を読めるんだったよね。
数秒の間を置いて何も無かったこの白い空間に大きな扉ができる。
「あ、どんな容姿になりたいかな? それくらいはサービスしちゃうよ」
あー、容姿か。
別に死ぬ前の容姿でもいいんだけどな。
「死ぬ前の容姿は使えませーん」
「うざっ!」
「あー! 僕にそういう事言っちゃうんだ! いいもんいいもん、こっちで勝手に決めちゃうからね! 君、優柔不断すぎるし!」
神様がそう言うと扉が開き私は吸い込まれ始める。
「ちょ! もっと丁寧に送ってよね! 変な容姿にしたら神様だろうがなんだろうがぶっ殺すからねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
私は怨嗟にも似た叫び声を上げながら吸い込まれて行った。
「えぇ、急に悪魔みたいになっちゃったよ。ちゃんと容姿はしっかりしたから殺しに来たりしないよね......」
神様は誰にもいない空間でぼそりと呟いた
私が次に目が覚めたのは、辺り一帯に広がる草原だった。