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クロシロ  作者: きらら
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白の最後

前線へ来た。

そこはもう、患者を運ぶ余裕なんてない。

自分で陣地へ戻れない者は、仲間に踏みつけられ、流れ弾に当たり死んでいった。


頭が割れるような、爆発音の中、俺はずっと歌っていた。

玉の当たらない、ギリギリのところで歌い続けた。

大きな声で、広い範囲の人に聞こえるように。

喉が枯れても、誰かが治癒魔法をかけてくれるため、また歌える。


何日も歌い続けて、頭がおかしくなりそうだ。

実際に錯乱状態へ陥り、突然叫びだし、仲間に攻撃しようとした男もいたらしい。

それはもう、使い物にならないと抹殺されたが。

その二の舞にはなりたくない。

だが休む暇などあるはずもない。

自分の身体が徐々におかしくなっているのを感じていた。


食糧が足りない。

救援物資を転送していた魔法具のだいたいが破壊されたからだ。

腹が減った。

喉が痛い。

ずっと立ち続けて、足がもう限界だ。

膝が折れ、顔が地面に叩きつけられる。

それと同時に、もう一つ、なにかが倒れる音がした。

目を開けると、真っ赤に染まった長い髪。






血で赤く染まったアリアだった。






「…っ、ハッ」


自虐にも似た笑みが溢れる。

なんだよ。戦争って。

なんでだよ。なんで俺等がこんなめに合わなくちゃいけないんだ。

俺等がこんなに傷ついていても、王様は高みの見物かよ。


妙な反抗心が湧いて、このまま死んでたまるかと、手に力を込める。

時間をかけて、上半身だけでも起き上がった。

隣のアリアへ手を伸ばす。


声が枯れて、アリアと呼ぼうとしても、掠れた息が出るだけだった。

揺さぶろうとしても、どんな怪我をしているのかわからないから、下手にいじれない。

仕方なく、アリアの耳元へ顔を近づけ、掠れた息を吹きかける。


アリア


アリア


起きてよアリア


古い記憶の中にある、幼いアリアとの思い出。

それに、よく似たシチュエーションだったと気づいたのは、アリアの瞼が少しだけ開き、微笑んだように見えた時だった。


ーーーうたって、きかせてよーーー


幼いアリアが唯一発した言葉。

それが、今のアリアと重なった。


今のアリアがそう言ったわけじゃない。

ただ、アリアは、歌を欲しているような気がした。


アリアの指が、喉に触れると同時に流れ込む魔力。

治癒魔法だ。


「っ、聴かせてやるよ。お前の好きな歌」


歌い始めから、丁寧に慎重に。

幼いアリアは、この曲を特に好いていた。

だからこそ、今、歌ってやりたかった。


周りの音が消えた。

あれほどうるさかった爆発音も、自分の中の反発心も、全部全部消えた。

自分の魂を、一音一音に乗せて、宙へ放つ。


目を閉じれば、まるでこの星と一つになったような気がした。


つかの間、全てを忘れて歌っていた。


戦争のことも、アリアのことも、なにも考えずに、歌だけに集中していた。


曲が終わり、目を開ける。

アリアを見れば、安らかな表情で眠っていた。


「アリ…ア…?」


俺の呼びかけに、彼女はもう、答えない。


「ハッ」


結局俺はなんにも出来ないじゃないか。

なんのためにここに来たんだ。

くそっくそっくそっ。

なにもできない自分が歯がゆい。

悲しい。悔しい。


気がつけば歌を歌っていた。

歌ではなにもできなかったくせに、結局は、歌しかないのか。俺には。


余計に悲しくなった。

泣きたくなった。

涙が出た。


泣いたのなんて、いつぶりだろう。


あぁ、そうだ。

俺が最後に泣いたのは、アリアがいなくなった日だ。




俺はやっと、アリアが好きだったのだと自覚した。



戦場には、少年の悲しい歌声が響いていた。

とりま完結。

蛇足でアリア視点とか書けたらいいn(←

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